008
スライムの森の北側と東側は、膝下ほどの草花が茂る草原が広がっている。
その中に、目的の実が生っている木が点在していて、東側は好戦的なゴブリンがいるため、今回は北側を選んだ。初心者にうってつけの最弱魔物――『コボルト』が徘徊するエリアだ。
スライムは魔物の枠には入らない。
「多紀君、この先にある木が視えるかな?」
僕は魔力視でその存在をすでに確認していた。
「はい。遠くてまだぼんやりしていますが、まとまって光っているのがそうですよね?」
「そうだ。木本体からは魔力を感じないから、実だけの光だとああ見える。それじゃあ、近くにいるのは?」
「二足歩行の魔物……までは分かります。数は4匹です」
「正解。まあ、近付けば分かるだろうが、コボルトだろうな。大きさもほとんど変わらないから上位種もいないだろう。ただ、目視できるまでは確定しない」
「はい」
「大豊さん、初めての戦闘になるけど、無理だと感じたらすぐ引くように。添島さん達も、ダメだと思ったら口に出して引き返す」
「「「「「はい」」」」」
魔物がどんな存在なのか、戦闘がどういうものなのか。
それらは多数のハンターが動画を配信しているおかげで、誰でも簡単に知ることができる。
魔物は血を流さない。関節があるように見える動きをしているのに、実際の肉体は赤い粘土のようで、致命傷を与えると気化するように消える。
そのせいで、「生き物を殺す」という感覚が薄れ、画面越しでは本当にゲームのように見えた。
だけど実際に対峙した瞬間の、生々しい殺気や息遣いは桁違いだという。
僕も、今まさに胸が軽く強張っていて、呼吸が浅くなっているのが分かる。
「居ました」
先頭を歩く大豊さんが、小さく知らせる。
「全部コボルトだな。それじゃあ、大豊さんと添島さん、前に出て武器を構えて近付こう。もう少し寄れば向こうも気付く。四足姿勢で飛び掛かってくるけど、気後れせずにしっかり見定めるように。動きは単調でそこまで速くない」
「「はい」」
「鹿屋さんは、さっき練習したウィンドボムで嫌がらせ。豊賀さんと一枝さんは難しいけど頑張ってくれ。サポートは俺がする」
「「「はい」」」
「真名! 大丈夫!?」
「うん! 恵美は?」
「いけると思う」
「うん! それじゃあやろう!」
◆
コボルトとの戦闘を一言で言い表す有名な言葉がある。
「土佐犬が集団で襲ってきた」
配信でも何度も見た動きだ。
まっすぐ走ってきて、直前で飛び掛かり、噛み付こうとする。
そして2匹目、3匹目が続き、一点集中で襲ってくる。
だからこそ“囮”として先頭に立つ大豊さんが、飛び掛かり直前に大きく横へステップ。
空振りした1匹目の顔へ、添島さんの槍が見事に突き刺さった。
動きを止めた1匹目を前に、2匹目と3匹目が一瞬躊躇したその瞬間
大豊さんが背後の4匹目へ鋭く踏み込み、横から斬り上げる。
仲間の死に、2匹目と3匹目が殺意の唸り声を上げた瞬間、鹿屋さんのウィンドボムが3匹目の顔面に直撃した。
風圧で顔を反らし、体勢が崩れる。
上手い!
それを確認した大豊さんが、槍が刺さったままの1匹目へ蹴りを叩き込み、槍を引き抜き、2匹目の胸元へ一直線に突き刺した。
魔核が砕ける光が瞬き、2匹目が霧散する。
無傷の3匹目は戦意喪失したのか、一転して逃げ出した。
だが、走った方向が悪い。
鹿屋さんの正面、2発目のウィンドボムが顔面に命中し、コボルトの動きが止まる。
そこへ豊賀さんが盾を構えて進路を塞ぐと、3匹目は即座に方向転換し、そのまま戦闘エリアから離れていった。
4匹目はすでに大豊さんが仕留めている。
結果、倒したのは3匹だ。
やっぱり、劣勢になるとすぐ逃げるんだな。
さすが最弱魔物と言われるだけある。
「お疲れさま。初めてでそれだけ動けるなら上等だ。特に、位置的に広がるよう4匹目へ向かったのは良かった。それで鹿屋さんの射線に余裕が生まれた。そして期待通りのボムで1匹を足止め。3匹目の対処も合格だ。ちゃんと盾でカバーに入れたし、仮にあのコボルトが逃げなかったとしても、一枝さんはしっかり槍を構えて見てた。フォローもできていた。これなら場数を踏めば、コボルトを逃がさず倒し切れるだろう。良いチームだ」
「はい! ありがとうございます!」
添島さんの嬉しそうな声が草原に響く。
うん。めっちゃ喜んでるな。
すっごく可愛い笑顔なんだけど。
「……なんでそこであなたが笑うんですか?」
「え? あ……いや、凄く嬉しそうだなぁって……釣られて?」
すぐ近くにいた鹿屋さんが、なぜかじっと僕の顔を見てくる。
「……ふ〜ん」
恵美(上手くいった!)
真名(これ……良いかも)
弥生(皆すごい)
遥(無事でよかった)
玲子(楽しい!)




