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終始、添島さん達に絡んでいた男性は、僕達の走る速度について来れず、僕達が林に入ると同時に足を止めていた。
「添島さん。10時方向、距離およそ300。ホブゴブリンの群れ、ゴブリン6です」
僕は意識を切り替えて、僕達の狩りを始める合図を送る。
「了解! 皆行くわよ!」
「「「「はい!」」」」
添島さんも僕の意図を理解し、足を止めずに目的地へと走る。
あんな下らない事に、いつまでも思考を使いたくない。
そんな気分だった。
◆
ホブゴブリンとゴブリンの集団との戦闘は、
大豊さんがホブゴブリンをほぼ瞬殺するため、
添島さん達はゴブリンの動きだけに注意するだけになり、
ゴブリンの動きに慣れている彼女達に危ないと思うような状況など起きることもなく、
すんなりと討伐を完了する。
「ここから500メートル先にも、ホブとゴブリン4です」
僕は、腕を真っすぐにして方向を示す。
「この辺りのスライムを狩ってきますので、待っててください」
「はい。行ってらっしゃい」
添島さんの言葉に、「行ってきます」と言葉を返し、僕は武器をトングに持ち替えて走り出す。
◆
2時間足らずの狩りを終えて、林の北側の停留所。そこに隣接する休憩所に僕達は来ていた。
「ねぇ皆。これってあれだと思わない?」
「ウルフが全くいない……ウルフの数が少ない現象ですね」
添島さんの疑問に、僕が答える。
「うん。この後は、ここを離れた方が良いと私は思うんだけど」
「そうしよう」
「そうね」
「うん」
「ですね」
大豊さん、鹿屋さん、一枝さん、豊賀さん、皆が即答する。
「はい」
もちろん、僕も即答。
討伐受付で、念を押された注意事項。
この林と隣接する『6の六』の森には、ウルフの巣があり、定期的にウルフリーダーが出現する。
そうなると、ここまで徘徊していたウルフが巣へと戻っていく。
ウルフの巣は洞窟になっている為、定点カメラでリーダー出現を確認する事が出来ない。
だから、この現象によってそれを判断している。
「ところで、ウルフリーダーって私達で勝てる相手?」
大豊さんの問いに、
僕は少し悩んでから、
「はい。慌てなければ勝てると思います」と答える。
「気後れしないって事だな」
「はい。レベル的には格上になるウルフリーダーですが、皆さんのステータスがスピード寄りなので、十分に対処出来ると思います」
「彰斗のおかげでね!」
隣に座っている鹿屋さんが体を軽くぶつける。
「ほんとにそうよね。ゴブリンはもう、私達にとってはコボルト以下の動きに見えてるし」
添島さんの言葉に、鹿屋さん以外の人が頷く。
「私の魔法も外すことないし」
鹿屋さんは崩れた態勢を直すのに、さっきの頷きに参加できなかったみたいだ。
「動体視力とか、反射神経もステータス補正が掛かってるんだと思います。まあ、それ以前に、皆さんはバスケで運動神経と反射神経が鍛えられていたのも、大きいと思います。あと、添島さんを中心とした連携もいいですよね」
「そ、そう? ありがと」
添島さんがもじもじし始めた。
そして大豊さん達がニヤニニヤし始めた。
抗議するような視線を見せる添島さんに、僕は話を続ける。
「ただ、安全面をしっかりと考えると、ちゃんとした防具が必要ですね」
僕も冴島さん達も、講習時からスポーツウェアのみ。
10年前なら、なにかしらの防具をその上からでも装着していたけど、
繊維の強度を上げる技術の発明で、それ以前と比べると5倍から7倍に上がっている。
もちろんこれも、赤い魔石の研究の一つの成果だった。
だから、ちょっとした防護服になっている。
だけど、ウルフリーダーの攻撃には耐えられないとおもう。
まあ、耐えられないけど、ステータスの『強度』があるので、
切り傷程度、悪くても数センチの深い傷ぐらいになると思うから、
聖女の豊賀さんの回復魔法に加えて、
ハイヒールポーションを持っている僕達には、脅威にならない。
それに加えて、添島さん達は瞬発力と持久力が平均の4割増しな事で、
今まで攻撃を食らった事がない為、そこら辺の危機感が薄くなっていた。
いやまあ……僕も動きやすさと、
レベル194という常識外のステータス数値でゴブリン程度なら掠り傷すら付かない体で、
その思考を今の今まで忘れていたんだよね。
「確かに、防具もちゃんと揃える時期かも」
「20を超えた辺りから、ステータス補正である程度の重さなら苦にならないらしいですし、
称号補正もあるから、売店で購入してみてはどうですか?」
「そうね。そうしてみましょう」
「皆、それでいい?」
「「「「はーい!」」」」
「それじゃあいつも通りにベリー集めして戻りましょう」
僕はもっと早く気付くべきだったと反省しながら、彼女達の後に続いて休憩所を後にする。
ここの休憩所から北へ進めば、ホーム区画の南になり、魔物が極端に少ない平原に出る。
◆
「今日はどれだけ集めるの?」
ロレの樹へと向かう道中、鹿屋さんの問に、
「106個くらいにしようかと」
「それだけ?」
「はい。今後、一日の売る数を100個くらいにしようかと、相談するつもりでした」
「そうなの? なんで?」
「ポーションの値段が高額になったから、それでも収入が高い事。
それと、皆さんのレベル上げをメインにした方がいいかなって」
「どうして?」
「今回の事もそうですけど、レベルが高ければ、
それだけで危険から回避出来ると思うんです」
「確かに、そうかも」
「それと、マナベリーはもう売店で買って、今のような採取時間もレベル上げに費やすのも、良いのかもと。
その費用は、僕が出しますので」
「彰斗がお金を出すのはダメじゃない?」
「そう言われると思ったんですけど、ハイポーション一本で僕の取り分が1万5千円に、ちょっと罪悪感もあります。
それが1万4千円にちょっと下がるだけでも、
気持ち的にはその方がいいんですよね」
「ん~ 恵美、遥、どう思う?」
顔を見合わせる添島さんと一枝さん。
「レベルを上げる事には私は賛成です。
それと、多紀君の罪悪感が少しでも晴れるなら、多紀君の気持ちに応えたいと思います。
後は遥次第ですね」
「えっと……私もそれで良いです。」
「なら決まりですね。じゃあ、明日からでいいかな?」
「はい。おねがいします」
シャニア「ん~」
イレーザ「何かありましたか?」
シャニア「ここの魔素濃度が少し濃くなったのよ」
イレーザ「巨神遺構が受け止めたのにですか?」
シャニア「そうよ。だから悩んでいるの」
イレーザ「リネア様にご報告は?」
シャニア「もう少し様子を見てからね」




