077
今日からも、僕達の狩場は『5の六』雑技林の中だ。
雑技林の中には僕達以外のハンターは数える程度しかいないけど、隣接する草原には、10数組のパーティーが居る。
その全てが、高校生か大学生辺りの人達だった。
「君達、林の中へ向かうのかい?」
草原を突き抜けるように移動していた僕達に近付いて来た4人パーティーの一人が発言する。
もちろん、僕達は既に警戒態勢になっていた。
狩場での意図した接触は、知り合いでもなければほぼ面倒事だと、相場が決まっている。
ここは、彼女達のパーティーリーダー添島さんが対応する。
僕はチームとして参加しているので、こういう時は添島さんと決めていた。
「そうですが。林でなにかありましたか?」
「いや、君達はどう見ても15歳から18歳位の新人だろ? 林の中にはウルフが居る。あれは、木の陰から襲って来るから君達には危険過ぎる。僕達が護衛を買って出ても良いよ」
突然声を掛けられたことで、後ろにいた鹿屋さん達の空気が一気に強張っていた。
鹿屋さんは一瞬、僕の方を見てから、慌てて視線を逸らす。
豊賀さんは唇を引き結び、何か言いたそうにしながらも言葉を飲み込んでいた。
大豊さんは状況を理解しようとするように、相手の人数と距離を冷静に見ている。
一枝さんは僕の方へと一歩下がる。
声を掛けてきたパーティーは男性4人組。見た目から二十歳前後。
「ご忠告ありがとうございます。ですが、皆様の護衛は必要ありません。
既に林の中での狩りは経験していますし、ウルフに奇襲される心配もありませんので」
「そうなのかい? だけどそんな出まかせを信じろという訳にもいかないんだよ。
先輩ハンターは、無謀な新人を見かけたら注意する義務があるんだ」
そんなルールは、少なくとも僕は聞いた事がなかった。
「これ以上の足止めは、ハンター活動の妨害として通報しますけど、どうしますか?」
添島さんの主張は、ちゃんと規則としてある。
「それじゃあ、君達の実力を見せてくれたら、納得するよ。
だけど、危険だと判断したら僕達は今後、君達の指導員として面倒を見る。それでどうかな?」
いや、そんな条件を呑む理由もルールもないんですけど?
「通報しますね」
僕は感情を込めずに、事務的に言った。
端末機を操作して、『トラブル発生』のボタンを押す。
「おいお前! 先輩の親切心だろうが! ふざけるな!」
さっきまでの言葉とは違って、怒鳴る男性に、添島さんと大豊さんが壁のように立ち塞がり、僕の後ろに鹿屋さん達が避難する。
『通報内容を受理しました。
位置情報・音声ログを照合。
規約第七条・第三項に基づき、対象パーティーのハンター免許を即時停止します』
端末機の画面に、淡々と処理ログが流れていく。
【違反内容:強要行為】
【証拠データ:音声/位置】
【措置:免許停止(暫定)】
端末機から聞こえるAIオペレーターの声が終わると同時に、男性パーティーの端末機から警告音が鳴り響く。
この端末機は、ドライブレコーダーのような機能が付いていて、『トラブル発生』のボタンを押せば、現在地と5分前までの録音データが送られる。
これは『緊急』ボタンでも同じで、迅速に対応する為の機能として、教えられている。
「はぁああ! なんで俺達が罰せられるだよ! 新人に注意勧告しただけだろうが!」
『異議申し立ては可能です。
手続きは三営業日以内に案内されます』
感情の起伏を一切含まない声が、
怒鳴り声を、完全に無視するように重なった。
この人は何を言っているんだろうか?
ハンターは自己責任。
その大前提があるのだから、相手が要らないと言えばそれ以上の好意は押し売り、恐喝の類に成り下がる。
しかも、人権を無視した強引な取引。
普通に、犯罪行為だと思うんだけど?
鳴り響く警告音に、周囲に居た別のパーティー達からも注目を浴びている。
「添島さん。時間が勿体ないので、走りましょうか」
「そうね。みんな行くわよ!」
添島さんを先頭に皆が走り出す。僕は一応、殿を務める事にした。
彼らが警告音を無視して追い掛けて来る可能性があったから。
「おい! ふざけるな! 取り消せ! 待てって言ってんだろうが!」
走る僕達を追い掛ける男が独り。他のメンバーは状況が呑み込めていないのか――
放心状態で立ち尽くしていた。
そこから僕は振り返らず、距離だけを意識して走った。
追い付かれたら、その時は――止める。
◆安全保安部 通報処理班◆
女性職員1「トラブル通報が先週から多過ぎませんか?」
女性職員2「狩場の独占。獲物の横取り。挙句に先輩ストーカー」
女性職員3「先輩ストーカーってなんですか?」
女性職員2「狩場に居る新人に守ってやるとか言いながら付きまとう屑」
女性職員1「それ、私は先輩詐欺って呼んでました」
女性職員3「結婚詐欺みたいですね」
女性職員2「ほんとよね。それで、その下らない知恵を広めているのがいるらしい」
女性職員1「それで、この多さになっているんですね」
男性課長 「会話しててもいいが、警備班に回す案件を迅速に拾い上げろよ」
女性職員1・2・3「はーい!」




