074
新しい武器を手に入れたら、次に思い浮かぶ事。
――試したい。
これはもう、仕方がないと思う。
手にした《ヴェインエッジ》を眺めながら、浮かれた気持ちであれこれ想像していた僕は、その思考の流れで、ふと気付いてしまった。
「……あれ?」
そして、次の瞬間。
「これ……どこで試せばいいんだ?」
思わず、声に出していた。
異世界の武器は、地上に持って行けない。
仮に持ち出せたとしても、どこで振り回すつもりだという話になる。
通常形態――細身のレイピアなら、見た目は地味だ。
地上でも訓練用の剣と言い張れなくはない。
でも。
問題は、展開形態。
鎖刃、多節剣。
あれを扱えなければ、この武器の意味がない。
そんな事を考えながら、小さく溜息を吐いた瞬間だった。
「どこがいい?」
背後から、やけに明るい声。
「なんなら、ここの三層で試す?」
振り返ると、そこには満面の笑みのシャニアさん。
「えっ……」
嫌な予感が、背筋を駆け上がる。
そして次の瞬間。
「いけません」
僕の前に、すっとイレーザさんが立ち塞がった。
「いきなりの実戦で、巨人は危なすぎます」
きっぱりとした口調。
「それに、この《ヴェインエッジ》は、集団戦を切り抜ける為に選んだ武器ですよね。
でしたら、練習場所は別にあります」
そう言って、イレーザさんはステータス画面のような情報板を展開した。
「レベル60ダンジョン――《血戦営塞》です」
「けっせん……えいさい?」
「ええ。ゴブリンとオークが主な敵。
人型魔物による集団戦と統率を学ばせる為のダンジョンです」
説明を聞きながら、思い出す。
5層までは、レベル40相当のゴブリンが通路を徘徊し、部屋ではホブゴブリンが指揮を執る。
6層以降は、オークの群れ。
僕達は、通称「オークダンジョン」と呼んでいる場所だ。
「確かに……練習には良さそうですね」
連携。
数。
奇襲。
鎖刃を振るうには、これ以上ない環境だ。
……ただ。
「人が沢山いると思いますし、
目撃されたら、色々と面倒な事になりませんか?」
正直な疑問を口にすると、イレーザさんは、にこりと微笑んだ。
「それなら問題ありません。
彰斗だと分からないように、変装すればいいだけですから」
「変装……?」
「はい。装備一式、私が用意しますね」
その笑顔の意味を、僕はなんとなく察してしまった。
(あ、これ……
絶対、普通じゃないやつだ。しかもイレーザさんの趣味全開のやつだ)
その時。
「そろそろ、彰斗は帰宅する時間ね」
シャニアさんが、あっさりと言った。
「今日はここまでにしましょ。
続きは、また今度」
「……はい」
正直、少しほっとした自分がいた。
そのまま、シャニアさんの権限による転移で、神域管理室へと戻る。
「彰斗」
イレーザさんが、僕に声を掛ける。
「その《ヴェインエッジ》ですが、
扱いに慣れるまでは、私が預かっておきます。
反射的に、展開形態へ移行してしまう可能性も、ゼロではありませんからね」
その言葉に、僕は素直に頷いた。
正直に言えば――
もし言われなくても、お願いしようと思っていた。
誰かに奪われる可能性。
紛失する可能性。
万が一でも、そんな事が起きたら目も当てられない。
「はい。お願いします」
そう答えると、イレーザさんは安心したように微笑んだ。
こうして。
僕の新しい武器、《ヴェインエッジ》は。
次のソロ活動の日――《血戦営塞》で、その真価を試される事になる……とおもう。
シャニア「今日みたいに、着いて行く気?」
イレーザ「はい。彰斗は私の眷属ですから」
シャニア「でも、あのダンジョンで彰斗が怪我をする確率なんてゼロよ。過保護過ぎない?」
イレーザ「顔に傷でも付いたらどうするんですか」
シャニア「……あなた、エクストラヒールまで使えるでしょ。というより、そもそも掠り傷すら付かないわよ!」
イレーザ「……いいじゃないですか。彰斗と遊びたいのはシャニアさんだけじゃないんですから」
シャニア「分かったわよ。ところでさ」
イレーザ「はい」
シャニア「彰斗、原初巨人の魔石の事、完全に忘れてるんだけど……部屋に放置したままなんだけど。あなた取りに行く?」
イレーザ「……私もそうですけど、シャニアさんも忘れていたって事ですよね」
シャニア「まあね~。で、どうするの?」
イレーザ「まあ、彰斗が欲しいと言えば、また倒しに行けば事足りる事ですし、放置で良いと思います」
シャニア「そうね。この様子だと、ボスに到達するまでまだまだ時間がかかりそうだしね」




