073
◆多紀彰斗◆
その話を聞かされた瞬間、正直に言えば――
話が勝手に進んでる! だった。
シャニアさんは、いつもの調子で腕を組み、当然のように言う。
「だから、武器を取りに行くのよ。今から」
「今から!?」
更に、驚きの上があった。
内容自体は、もう察していた。
さっきまでのやり取りを横で聞いていれば、嫌でも分かる。
これは、善意だ。
僕の身を案じての提案で、危険を減らす為の選択。
理解は、出来る。
でも――
「転移で、ですか?」
「ええ」
即答だった。
僕は一瞬、イレーザさんを見る。
彼女は、すでに諦めたような表情で、小さく頷いていた。
「……ですよね」
ため息が出る。
ここで断れる雰囲気じゃないし、断る理由もない。
むしろ、安全を考えれば、受け入れるべきなんだろう。
「分かりました。お願いします」
そう答えると、シャニアさんは満足そうに笑った。
「決まりね」
その直後。
視界が、反転した。
◆
転移が終わった瞬間、思わず息を呑む。
――凄い。
天井は、見上げれば首が痛くなるほどの高さ。
石造りの太い柱が、規則正しく並び、空間全体が人工的な威圧感を放っている。
まるで、巨人の為に作られた神殿だ。
「……凄い」
素直な感想が口を突いて出た。
イレーザさんが、苦笑する。
「気持ちは分かりますが、油断しないでください」
僕達が立っているのは、巨大な扉の前。
この先が、ボス部屋。
イレーザさんは、一度深呼吸してから、僕を見る。
「彰斗、覚えていますか?」
「はい」
「ここに居るのは、原初巨人。レベル120。
物理耐久特化。魔法耐性が高く、魔核は深層部です」
僕は、しっかりと頷いた。
「本来なら、他の者は命を懸けて挑む相手です」
イレーザさんは、溜息を吐く。
「ですが……」
そして、はっきりと言った。
「入ったら、速攻で撃ち抜いてください。それで終わります」
「……」
あまりにも、あっさりしている。
僕は、自分の顔が変な笑顔になっているのを自覚しながら、
「はい」
とだけ答えた。
「では、行きましょう」
目の前の扉が、ゆっくりと開く。
◆
――圧倒的だった。
部屋の中央に佇む、それは「敵」ではなく、「存在」だった。
石と筋肉が融合したような巨体。
視界に収まらないほどの大きさ。
ただ立っているだけで、空気が震える。
原初巨人が、こちらを認識した瞬間。
地鳴りのような咆哮が、空間を揺らした。
だけど。
僕は、すでに構えていた。
神器に弾丸は装填済み。
真眼を開き、『未来予測』を重ねる。
見える。
深層。
胸部奥、ハッキリと見える魔力の光。
そこに――
引き金を引いた。
乾いた発砲音の後に、確かに聞こえた破壊音。
次の瞬間、原初巨人の動きが止まり、崩れ落ちる。
討伐、完了。
「……終わり、ですか」
自分でやっておいて、少し複雑な気分になる。
◆
部屋の中央に、宝箱が出現した。
僕は近づき、蓋を開ける。
「……剣だ」
中にあったのは、細身のレイピア。
だけど、どこか普通じゃない。
その時。
空間が揺れ、シャニアさんが転移してきた。
「おめでとう、彰斗」
彼女は、楽しそうに言う。
「それが、あなたの新しい武器」
僕は、目を見開いた。
「名前は、《ヴェインエッジ》」
シャニアさんが、剣を軽く掲げる。
「可変式《魔力導管武器》よ」
次の瞬間。
剣が、変形した。
刃が分割され、鎖のように連なり、自在にうねる多節刃へと展開する。
「……っ!」
声にならない声が出た。
「通常はレイピア。展開すれば中距離制圧用の鎖刃」
シャニアさんは、得意げだ。
「あなたの魔力制御次第で、性能が変わる。余計な補助はないわ」
僕は、剣から目を離せなかった。
――かっこいい。
理屈じゃない。
ただ、純粋に。
「ありがとうございます……!」
思わず、深く頭を下げる。
シャニアさんは、満足そうに笑った。
イレーザさんは、横で頭を抱えていたけれど。
この時の僕は、間違いなく――
新しい武器を手に入れた少年そのものだった。
◆クラン〈華燐〉巨神遺構2階◆
南原柚月「まさか、ミスリルの剣をこんな事に使うなんて」
西条紫苑「勝てば良いのよ! 勝てば」
南原柚月「どこかの悪女が言うセリフよね」
西条紫苑「うるさい。魔道隊! ゴーレムに刺さった剣に向けて一斉攻撃! 撃てぇ!」




