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◆シャニア視点◆
『イレーザのように、眷属を最初から育ててみては?』
リネア様にそう言われた時、私は即答出来なかった。
簡単な提案のようでいて、その言葉は私の中に、静かに沈んでいった。
元の世界の“資格者”達は、正しくて、強くて、使命感に溢れていた。
でも――つまらなかった。
魔物を倒す使命を自らに課し、その覚悟を持つ者だけが資格を得ていたのだから、当然なのだと頭では分かっている。
分かってはいるけれど、面白味がなかった。
だからこそ、この世界で“育てる”という選択肢がある事に、私は少しだけ惹かれた。
この世界なら。
もしかしたら――。
そんな事を考えた直後、自然と思い浮かんだ顔がある。
多紀彰斗。
最初の印象は、ただ一言。
――面白い子。
女神の使徒を前にしても、過度に畏まらない。
でも、敬意が無い訳でもない。
距離感が、自然なのだ。
この世界には、こういう子が居るのか。
だったら、育てるという選択も悪くないかもしれない。
……そう思った、はずだった。
けれど。
「違うのよね……」
考えれば考えるほど、思考は一つの場所に戻ってしまう。
彰斗が面白い。
彰斗でいい。
彰斗がいい。
感情が、はっきりとそう告げていた。
私の魔力で成長したから、そんな風に感じてしまうのか?
理由を探そうとしたけれど、今さらだった。
モニターに視線を向ける。
紙袋を手に、オベリクスへと歩いて来る彰斗。
その姿を見て、イレーザの表情が柔らぐ。
……羨ましい。
嫉妬ではない。
でも、確かに羨ましかった。
彼女は“望んで選んだ”。
私は――まだ、選べていない。
◆
今日、彰斗がここに来たのは、イレーザが呼んだからだ。
女神リネア様からの褒賞――エクストラポーション10本を渡す為。
いつも通り、ケーキを食べながらのやり取り。
私は、その様子を横で眺めていた。
「リネア様がこの前の綺麗なケーキを喜んでいましたよ」
「よかった。実は今日も持って来ているんです。
今回のはチョコレートソースがメインの新作でした」
「ありがとう。私が責任を持ってお渡ししますね」
二人の会話は、相変わらず自然だ。
上下関係はあっても、壁が無い。
そんな空気を見ていると、胸の奥が少しだけ騒ぐ。
……眷属が、欲しい。
そんな気持ちが、自分の中に確かにある事を認めてしまう。
「シャニアさんは、何を貰ったんですか?」
突然の声に、思考が引き戻された。
「えっ? なに?」
考え事をしていたせいで、反応が遅れる。
「シャニアさんも、リネア様から褒賞を頂いたんですよね?」
「ああ、それね」
私は肩を竦める。
「まだ考え中なのよ。新しい補佐が欲しいって言ってもダメだったし、
ここ、結構暇だから、ゲームする相手でもいいって妥協案も出したんだけどね。
それも却下」
「ゲームですか?」
「そう。弱いのよ。なにやっても」
ちらりとイレーザを見ると、視線を逸らされた。
……少しだけ、気分が良い。
「ボードゲームとか、カードゲームですか?」
「ルールは違うと思うけど、そんな感じ」
「僕でも出来そうな、簡単なものってあります?」
その言葉に、私は思わず目を細めた。
「でも彰斗、時間ないでしょ?」
「それが……」
彰斗は、今の状況を簡潔に話した。
スライム狩りの効率低下。
青ポーションの高騰。
毎日働かなくても十分な収入がある事。
だから、ソロでの活動を一度止めようかと思っている事。
私は、迷わなかった。
「じゃあ、明日は一日、私と遊べるのね」
「はい」
即答。
胸の奥が、すっと軽くなる。
隣でイレーザが溜息を吐いた。
何か言いたげだけど、結局何も言わない。
……そういうところ、嫌いじゃないわよ。
◆
やっぱり彰斗は面白い。
女神の使徒に対して、媚びない。
でも、敬意はきちんとある。
世界観の違いだと分かっていても、嬉しい。
眷属を育てるという選択肢。
それも悪くない。
でも。
モニターに映る彰斗を見つめながら、私は思う。
――私は、もう選んでいるのかもしれない。
その事実を、今はまだ口に出さないままで。
3章 完
◆ケーキショップ『十果繚乱』キューブガーデン店◆
店員「あれ? お客様? 何か不都合でもありましたか?」
彰斗「いえ。明日の10時過ぎなんですけど、この前のミニホールケーキと今日のミニホールケーキを予約って出来ますか? 出来れば2個づつなんですけど」
店員「ちょっと店長に聞いてみますね。少しお待ちください」
彰斗「はい」
店員「オッケーですって!」
彰斗「ありがとうございます。えっと……先払いした方が良いですよね?」
店員「いえ。お客様は既にギルドカードでの支払いがあり、個人情報をこちらで把握していますので、当日でも大丈夫です」
彰斗「そっか。それでは明日。よろしくお願いします」
店員「はい。こちらこそ、お待ちしています」
店員「店長ぉ~! あの子欲しいぃ~!」
店長「私に欲望を吐き出さない! それと、明日の仕込みを1時間早めるから」
店員「はい! 頑張ります!」
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一区切りになります。
ただいま4章の執筆中につき、少しの間、投稿が止まります。
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それではまた。




