069
◆大豊真名◆
家のドアを開けた瞬間、愛犬のシロが出迎える。
「ただいま」
「おかえり、真名」
少し遅れての母の声。
それだけで、少し肩の力が抜ける。
◆
部屋に荷物を置き、スマホを確認する。
バスケ部のグループメッセージが、既に流れていた。
『県大会ベスト4』
短い報告。
それだけで、内容は十分に伝わる。
(……やっぱり、そこまでか)
一瞬、胸の奥がちくりと痛む。
(私と恵美が居たら――)
言いかけて、首を振った。
(いや、それは……傲慢だな)
実力は確かにあった。
でも、結果を決めるのは、いつだって今そこに立っている人達だ。
それでも。
(優勝、狙えたかもって思う自分も……いる)
苦笑が、零れた。
◆
ベッドに腰掛ける。
ふと、今の自分を思う。
ハンター。
覚醒者。
毎日、魔物と向き合い。
命の重さを知り。
強くなる事を、当たり前のように考えている。
(私、変わったな)
ついこの前まで、体育館でボールを追っていたはずなのに。
頭に浮かぶのは、多紀彰斗の姿だった。
無理をしない。
でも、逃げない。
ハンターという職業に、真剣に向き合っている。
それだけじゃない。
家族を守る。
その責任を、自分から背負いに行っている。
(……すごいな)
尊敬。
それは、素直な気持ちだ。
(私も、隣に立てるくらいになりたい)
守られる側じゃなく。
同じ目線で、前を見る存在に。
でも。
(怖くないわけ、ないよね)
同級生達は、進学の話をしている。
将来の夢を語っている。
自分は?
世間一般の女子高生から、確実に外れ始めている。
それでも。
(それでも、私は――)
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
(彰斗と一緒に、ハンターとして進む未来に、期待してる)
それが、答えだった。
◆
夕食。
父、母、そして弟。
いつもの席順。
私は、箸を置いて、口を開いた。
「……話があるの」
二人が、こちらを見る。
「私、ハンターを本格的に続けたい」
一瞬の沈黙。
「どうして?」
母が、静かに聞く。
「高校は、どうするの?」
「遥と弥生が、覚醒者保護制度を使って、自立したの」
「彼女達次第だけど……たぶん、桑名の学校に通う事になると思う」
父は、腕を組んで考え込む。
弟が、不安そうに聞いた。
「……家から、出て行くの?」
私は、弟を見る。
小さい頃から、よく後を付いてきた。
面倒を見るのが、当たり前だった。
「完全に出て行くわけじゃないよ」
「でも……今は、向き合わなきゃいけない事があるの」
そして、正直に話した。
「私が、恵美を誘った」
「遥達も、私が声を掛けた」
両親の視線が、真剣になる。
「皆の人生を変えた切っ掛けは、私」
「だから……最後まで、責任を持ちたい」
弟は、少し考えてから、頷いた。
「……姉ちゃんが決めたなら、いい」
父が、口を開く。
「悔いのないように、頑張りなさい」
母は、微笑んだ。
「ここが、あなたの帰る場所だって事だけは、忘れないで」
私は、胸が熱くなるのを感じた。
「……ありがとう」
それしか、言えなかった。
◆
その夜。
布団に入って、天井を見つめる。
(私は、恵まれてる)
理解してくれる家族。
支え合える仲間。
尊敬出来るリーダー。
(だからこそ……)
簡単には、逃げられない。
でも、それでいい。
(私は、前に進む)
ハンターとして。
一人の人間として。
そして。
(いつか、堂々と隣に立てるように)
私は、静かに目を閉じた。




