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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆鹿屋玲子◆


 電車の揺れが、やけに単調に感じられた。


 向かいの座席では、恵美と真名が小さな声で話している。

 内容は、バスケ部の試合が県大会ベスト4で終わった話。


 私は、窓の外を流れる夜景を見つめたまま、会話に入らなかった。


(……もう、戻るんだ)


 そう思った瞬間、胸の奥に、ほんの少しだけ重たいものが沈む。


 帰る場所。

 安心出来るはずの場所。


 でも、今の自分にとっては、少しだけ違う。



 家の玄関を開けると、いつもと同じ匂いがした。


「おかえり、玲子」


 母の声。

 変わらない日常。


「ただいま」


 靴を脱ぎ、廊下を進む。


 その途中――


「……あ」


 視線が、ぶつかった。


 居間の奥。

 ソファに座っていた兄が、こちらを見ていた。


 3歳年上の兄。

 昔から、苦手だった。


 その目。


 何かを値踏みするような、

 妙に粘つく視線。


 成長してから、特にそれが顕著になった。


「久しぶりだな」


「……うん」


 短く返して、足早に通り過ぎる。


 背中に、視線が刺さるのが分かった。


(見ないで)


 そう思うほど、意識してしまう。


 部屋に入って、鍵を掛ける。

 それだけで、少しだけ息が楽になった。



 夕食の席。


 母は、いつも通りの笑顔で話す。


「最近、ニュースでハンターの話が多いでしょう?

 危ない事してない?」


「……うん。ちゃんと、気を付けてる」


 嘘ではない。

 でも、全部でもない。


 母は、彰斗の名前を出さなかった。

 当たり前だ。


 私達は、自分達の家族に彰斗の事を言っていない。

 最初は、一時の出会い。変に勘繰られるのを避ける為。

 でも今は、彼を値踏みされる事への不快感から。

 


「ふーん」


 兄が、箸を止めずに言った。


「玲子だけ、覚醒者になれてさ。

 運が良かったよな」


 声音は軽い。

 でも、その奥にある感情が、透けて見える。


 嫉妬。

 苛立ち。


「……運だけじゃないよ」


 思わず、声が出た。


「努力しても、なれない奴はなれないだろ」


 兄は笑った。

 でも、その目は、笑っていない。


 私は、それ以上何も言わなかった。


 言えば、絡まれる。

 それが分かっているから。


(早く、戻りたい)


 そう思ってしまう自分に、少しだけ罪悪感を覚える。




 夜。

 自分の部屋。


 ベッドに座り、スマホを手に取る。


 通知は無い。


 当たり前だ。

 今日は帰省中だって、伝えてある。


 それでも、画面を見つめてしまう。


(彰斗……)


 昨日の事が、頭に浮かぶ。


 鷹森蓮奈との会話。

 ポーションの値段。

 先を見据えた判断。


 彰斗は、ただ強いだけじゃない。


 考えて。

 迷って。

 それでも、前に進んでいる。


(私、隣に立ててるのかな)


 ふと、兄の言葉が蘇る。


――運が良かっただけ。


 違う。

 彰斗は、運なんかじゃない。


 努力して。

 考えて。

 自分で選んでいる。


 それに比べて、自分は?


 守られて。

 指示を聞いて。

 ついて行っているだけじゃないのか。


(……それでも)


 スマホを、胸に抱く。


 怖い。

 不安だ。


 でも。


(この家に居るより、ずっといい)


 兄の視線を思い出す。

 居場所の無さを思い出す。


 外の世界は、危険で。

 現実的で。

 甘くない。


 それでも。


(彰斗が居る場所に、私は行きたい)


 それが、恋なのか。

 依存なのか。


 まだ、分からない。


 でも。


 逃げる為じゃなく。

 選ぶ為に。


 私は、目を閉じた。


 次に会う時、

 少しでも、胸を張れる自分で居られるように。



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