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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆添島恵美◆

 

 その夜。

 ホテルの一室には、昼間の喧騒が嘘のような静けさがあった。


 シャワーを終え、私服に着替えた私達は、それぞれベッドやソファに腰を下ろしている。

 誰も、積極的に話そうとはしなかった。


 疲れていた、というのもある。

 けれど、それだけではない。


 夕刻。

 メディカルセンターで交わされた、鷹森蓮奈と多紀君の会話。

 その内容が、全員の頭のどこかに引っかかっていた。


 静寂を破ったのは、遥だった。


「……ねえ」


 小さな声だったが、全員が顔を上げた。


 遥はスマートフォンを両手で持ち、画面を見つめたまま言う。


「これから毎日……一人当たり、40万以上の稼ぎになるのかな?」


 誰も、すぐには答えられなかった。


 現実味が無い。

 けれど、現実だ。


 私は、自身のスマホ画面に表示された通帳履歴の金額を確かめる。

 入金総額、140万円超。

 必要経費を引いての、残高120万円。


(受け止めきれてないだけで……間違いなく現実)


「……すごいよね」


 真名が、曖昧な笑みで言った。


「嬉しい……はずなんだけど」


 弥生は黙ったまま、カップに視線を落としている。


 その様子を見て、私は昼間のやり取りを思い返していた。


 鷹森蓮奈に問われた時。

 多紀君は、迷いなく答えた。


 ギルドの思惑。

 価格設定の理由。

 赤いポーションとホーリーポーションの扱い。


 それらを、感情ではなく“仕組み”として説明してみせた。


(……同じ15歳、だよね)


 改めて思う。


 知識がある、というだけじゃない。

 場の空気を読み、相手が何を知りたがっているかを見抜く力。


 そして何より――


(自分がどこまで話していいか、ちゃんと線を引いてる)


 分かっていて、言わない。

 言っていい事だけを、選んで口にしている。


 私は、背中に薄く冷たいものが走るのを感じた。


 頼もしい。

 でも、同時に。


(……あの子、どこまで見えてるんだろ)


 沈黙の中で、遥がぽつりと呟く。


「家族には……まだ、言わなくてもいいよね」


 誰も否定しなかった。


 皆、それぞれが分かっている。

 この話をした瞬間、今までと同じ関係ではいられなくなるかもしれない事を。


 玲子だけが、俯いたままだった。


 彼女は金額を見ていない。

 たぶん多紀君の顔を、思い浮かべている。


 あの場で、当たり前のように話をしていた横顔。

 同い年とは思えない落ち着き。


(……私、全然だめだ)


 そう思った瞬間、胸の奥が少し痛んだ。


「明日、恵美と真名と玲子は帰省だよね」


 弥生の言葉で、空気が少しだけ動く。


「うん」


「私と遥は、ここに残るから」


 事務的な会話。

 それだけで、救われた気がした。


 けれど――


(これがハンターの世界。そして私達はもう引き返せない……)


 彰斗の見ている世界に、彰斗の目指す世界に、少しだけ触れてしまったから。


 夜は、静かに更けていった。



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