065
◆鹿屋玲子モノローグ◆
ホテルに帰った夜。静かになった部屋のベッドで――
胸の奥が、まだ落ち着かなかった。
(……やばかった)
彰斗の家。
家族。
妹さんの、あのまっすぐな目。
(面接って……なによ、それ)
思い出すだけで、顔が熱くなる。
勢いで来た。
本当に、それだけだった。
プリン作りも。
お邪魔します、って言った時も。
全部、気付いたらそこに居ただけで。
(なのに)
“家族”の空気は、思っていたよりずっと柔らかくて。
優しくて。
逃げ場が、なかった。
――逃げ場、なんて。
私は、何から逃げようとしてたんだろう。
(好き、なんだよね)
最初から。
強いところでもなくて。
魔眼でもなくて。
ハンターとして凄いから、でもない。
ちゃんと話を聞いてくれる。
変に距離を詰めない。
でも、必要な時は、必ず前に出る。
(……ずるい)
あんな風に、
何でもない顔で、
「もちろん」なんて言われたら。
守るって。
当たり前みたいに。
ううん。あの時も守ってくれた。
根拠のないただの感だけど……私はそれを信じている。
(ほんと……私、ああいうのに弱いんだって)
今さら、気付いた。
プリンを食べた時。
日葵ちゃんが笑って、「おいしい」って言った瞬間。
胸の奥が、ぎゅっとなった。
(認められた、って思っちゃった)
誰に?
妹さんに?
それとも――
(“彰斗のそばに居てもいい”って)
勝手に、そう受け取って。
勝手に、嬉しくなって。
(重いよね)
分かってる。
まだ何も始まってない。
同じチームで。
同じ目標で。
同じ場所に居るだけ。
それだけなのに。
(でも)
今日、確信した。
私は――
ただ一緒に戦えればいい、なんて思ってない。
彰斗の帰る場所。
安心する場所。
“日常”の一部に、なりたい。
(欲張り、だなぁ……)
でも。
それを、嫌だとは思わなかった。
逃げたいとも、思わなかった。
むしろ――
(ちゃんと、好きでいたい)
今は、まだ言わない。
言えない。
でも。
この気持ちだけは、
誤魔化さないでいよう。
いつか。
ちゃんと、向き合えるその日まで。
(……がんばろ)
小さく息を吐いて、
私は、ベッドのシーツに潜り込んだ。
胸の奥の熱は、
しばらく、消えそうになかった。




