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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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064

 昼過ぎ。


 豊賀さんと鹿屋さんの二人を駅へと迎えにいった時から、鹿屋さんの様子がおかしかった。


「……あの、彰斗」

「はい?」

「やっぱり、今からでも帰った方が――」

「もう来てますから」


 そう言った瞬間、玄関の扉が開く。


「いらっしゃい!」


 明るい声と一緒に現れたのは、エプロン姿の母さんと――その後ろから顔を覗かせる日葵だった。


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

 豊賀さんが丁寧に頭を下げる。


「こんにちは……お、お邪魔します……」

 鹿屋さんは、完全に借りてきた猫だ。


 靴を脱いで上がった、その瞬間。


 日葵が、じっと鹿屋さんを見上げた。


「……お姉ちゃん」

「は、はい?」


 突然、視線を向けられて呼ばれた鹿屋さんの背筋が伸びる。


「お兄ちゃんの、どこが好きなんですか?」


「――っ!」


 時間が止まった。


 鹿屋さんは一瞬だけ目を見開き、すぐに静かに様子を見る側に回る。

 母さんは、何も言わず微笑んでいる。


「え、えっと……その……」

 鹿屋さんの視線が迷子になる。

「やさしくて……真面目で……ちゃんと、話を聞いてくれて……」


 声が小さくなっていく。


 日葵は腕を組み、うんうんと頷いたあと――


「うん。合格」


「なにが!?」


 思わず声が出た。


「お兄ちゃんの隣に居てもいい人かどうか」

「そんな基準あったの!?」


 母がくすっと笑う。

「日葵なりの面接ね」


 鹿屋さんは、顔を真っ赤にして固まっていた。





 場所は台所。


 今日の主役は、プリン作り。

 そもそも、二人がここに来ている理由は――

 日葵の誕生日の恒例になっている、母さんの手作りプリンだ。



「それじゃあ、始めましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 弥生さんは真剣な表情で、すでにメモ帳を構えている。


 一方、鹿屋さんはエプロンを付けたまま、少し緊張した様子。


「まずは卵を割るところからね」

 母の声は、いつも通り穏やかだ。


 最初は豊賀さん。


 殻を慎重に、慎重に割り、黄身と白身を完璧に落とす。


「……すごい」

「理論上、殻が混入する確率を下げるには――」


 解説が始まりそうになるのを、日葵が止めた。


「次、玲子お姉ちゃん!」


「は、はい!」


 勢いよく卵を割る。


 ――カラン。


 殻が入った。


 鹿屋さん、硬直。


「だ、大丈夫よ」

 母がすっとフォークで殻を取る。

「失敗しても、家族で食べるんだから」


 その言葉に、鹿屋さんの肩が少し落ちる。


 日葵が横から覗き込んで言った。

「玲子お姉ちゃん、がんばって!」


「う、うん……」


 少しずつ、台所の空気が柔らいでいく。




 蒸し上がるまでの間、少し休憩。


 母が、ふと口にする。


「彰斗から聞いてますよ。皆さん良い人だって」


 二人の背筋が、同時に伸びた。


「危ない事をしてるのは、分かってるの」

 母は穏やかな声のまま続ける。

「だから、ちゃんと帰ってきてくれる。……それだけでいいの。

 それは、あなた達にもそう思っているのよ。

 彰斗が信頼しているあなた達は、私にとってはもう赤の他人じゃないんですからね」



 豊賀さんは静かに目を伏せた。

 鹿屋さんは、胸の奥がきゅっとなるのを感じていた。


 日葵が明るく言う。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん達をまもってね。

 やくそくだからね!」


「もちろん」


 僕は、少しだけ照れながら答えた。




 完成したプリンを、みんなで食べる。


 弥生さんのプリンは、見た目も完璧。

 少しだけ、固め。


 鹿屋さんのプリンは、形がいびつ。

 でも――


「……おいしい」


 日葵が一口食べて、即答する。


「玲子お姉ちゃんの、おいしいよ!」


「えっ……!?」


 鹿屋さんは驚いたあと、目を潤ませた。


「ほ、ほんと……?」

「うん!」


 豊賀さんは、微笑んで頷く。

「味は私の負けですね」




 最後に、プレゼント。


 弥生さんからは、上質な文房具セット。

 鹿屋さんからは、少し背伸びした可愛いアクセサリー。


 日葵は少し悩んで――アクセサリーを身に付けた。


「今日は、これ!」


 鹿屋さんが今日一番の笑顔を見せる。


 豊賀さんは、

「そういう年頃ですね」

 と、穏やかに笑っていた。

◆ホテルに留守組◆

恵美「玲子……大丈夫だとおもう?」

遥「完全に、勢しかなかったもんね」

真名「調理実習の時……いや、やめておこう」

恵美「弥生がフォローしてくれると信じよう」

遥「弥生、楽しそうだよね」

真名「玲子のあれは、見てて楽しいからね。応援したい気持ちは判る」

恵美「遥はどうなの?」

遥「えっ? 私? どうって?」

恵美「遥も、行きたかったんじゃないかって」

遥「アパート暮らしって聞いてたからね。3人目は多いと思う」

真名「遥らしい。まあ、遥は多紀君からプレゼント貰えるのは確定しているしな」

遥「あっ……そうだった! どうしよう。 ほんと、何も思い浮かばないの!」

恵美「期限は無期限だし、そのうち思い付くでしょ」

遥「あまり待たせるのもなぁ~」

恵美「多紀君は。そんな事を気にする人じゃないでしょ」

真名「そうそう。それに、別に物じゃなくても良いんだし」

遥「ん~。あるかなぁ~」



 

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