062
今日は狩りというより、収穫の日だった。
スライムとも、ゴブリンとも一度も遭遇せず、僕達は黙々とロレの実を集めていく。
毎日続けている作業だから、手順も役割分担もすっかり身体に染みついていた。
ハイヒールポーションは、一日206本。
6本は自分達用。
残りの200本を、メディカルセンターの買取所へ。
だから、今日もロレの実は206個が目標だ。
収穫用の手提げ鞄は、40個も入れればほぼ一杯になる。
見た目以上に重くなるから、添島さん達は一人40個ずつ。
5人でちょうど200個。
僕はというと、自分達の分を増やす代わりに――
大豊さんと添島さんの2つの鞄を持って歩いていた。
「無理してない?」
「大丈夫ですよ。添島さんと大豊さんには護衛役がありますし」
実際には、僕の魔眼で周囲の索敵は出来ている。
いきなり襲われる事はまずない。
それでも二人が前衛として歩くのは、訓練の意味もあった。
リュックの中には、家族へのお土産用にマナベリーも少し。
ハンターの日常の中に、そういう当たり前が出来た事に、今は少しだけ嬉しかった。
◆
収穫を終え、メディカルセンターへ向かう途中。
ポケットの中で、スマホが震えた。
(大谷)『今日はどうしてる? もしハイヒールを作るなら連絡をくれ。話したい事がある』
画面を見て、足を止める。
添島さん達にも、そのままメッセージを見せた。
「何かあったんでしょうか」
「分かりませんが……」
僕はすぐに返信する。
『在庫で持っていた魔石で、今から作るところでした』
少ししてから、今度は着信音が鳴った。
「もしもし――はい……ええ……わかりました」
通話を切って、皆を見る。
「大谷さんから、15分ほど待ってほしいと頼まれました」
「いいですよ」
「私達も、お世話になってますしね」
誰も異を唱えなかった。
◆
メディカルセンターのロビーは、いつもと違っていた。
行き交う人達の表情が、どこか険しい。
歩く速度も早く、落ち着きがない。
(……空気が、重い)
しばらくして、大谷さんが姿を現した。
その隣には、見覚えのある女性がいる。
――銀鷹のギルドマスター。
鷹森蓮奈さん。
添島さん達は、ほぼ初対面だ。
「待たせたな」
「いえ」
大谷さんは、挨拶もそこそこに本題に入った。
「今な、青ポーションの獲得合戦が始まってる」
その言葉に、全員が息を呑んだ。
「本来は、仲間内で使う分以外をここに卸すのがルールだ。
だが、それを破って高額で買い取ろうとする連中が出てきた。
それに引っ張られて、ここの専属薬師達も青い魔石を高値で買い集め始めてる」
鷹森さんが、淡々と続ける。
「今、青のポーション系は5倍から10倍。
魔石も、最大で5倍ね」
思わず、皆で顔を見合わせる。
その人達に売れば、大儲け出来る。
でも、それは明確なルール違反だ。
短い沈黙。
その空気を切ったのは、鷹森さんだった。
「だから、私が来たのよ」
「うちで買い取るわ」
「……でも、それって」
僕が言いかけた言葉を、彼女は遮る。
「薬師の子だけ、うちのギルドに入ればいいのよ。
もちろん、数日後にこの騒動が収まったら抜ける前提でね。
この時期に薬師だけが一時的に所属して、その後に脱退した――そういう形なら、対外的にも面倒が少ない」
「もう、他のギルドはそうしてる」
大谷さんが付け加える。
添島さん達で、小さく相談する。
条件。
リスク。
今後の事。
――悪くない話だった。
「……お願いします」
添島さんが、代表して答える。
◆
その日の成果に僕達は言葉を無くす。
ハイヒールポーション200本。
売り上げ、500万円。
取り分は、
僕が300万円。
添島さん達で200万円。
数字だけ見れば、大きな成果だ。
でも、胸の奥には――
これは違う。
誇れる収入じゃない。
そう語る自分が確かにいた。
◆統括指令室◆
安藤総司令「各所の問題への対策案。概ね同じ方向性になっていますね」
事務局長「それで、どの案を採用されますか?」
安藤総司令「フィールドの問題としてはこれで良いでしょう。よく考察されています。ポーションに関してはこれで。具体的な数字。しかも現状最適な解答だとおもいます」
事務局長「判りました。では発表します」
オペレーター一同 (ボーナス来い!)




