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◆多紀彰斗◆
土曜日の朝。
テレビから、いつもより少し硬い声のアナウンサーが流れてきた。
『――続いて、ハンターギルドおよび国際ダンジョンハンター機構からの緊急発表です』
画面の下に、地震速報のような赤い帯が表示される。
『赤いポーションについて、長期的な副作用が確認されました』
僕は、リビングの座椅子に腰掛けたまま、画面を見ていた。
赤いポーションは、正式の医療現場では使われないけど、通販などで買えてしまう。
『発症には数年単位、かつ大量摂取が必要とされ、遅効性の精神障害を引き起こす可能性があります』
母さんが、思わず息を呑む。
「……毒、って言った?」
隣で朝食を食べていた日葵が、スプーンを止めて顔を上げた。
「えっ? じゃあ、あれ飲んでた人……」
母さんの視線が、自然と多紀に向く。
「彰斗……大丈夫なの?」
その声は、母親としての不安がそのまま滲んでいた。
「僕は、赤いのは飲んでいないよ」
僕は、落ち着いた声で答える。
「自作の青いポーションがあるから」
「……本当?」
「うん」
母さんは、ほっとしたように胸に手を当てた。
「そう……そうなのね……」
日葵が、少し首を傾げる。
「でもさ。
治せるって、言ってなかった?」
『なお、治療法としてホーリーポーションの有効性が確認されています』
テレビの中で、ちょうど同じ内容が読み上げられた。
僕は小さく頷く。
「うん。だから心配要らないよ」
問題は、毒だった事実よりも。
それが、あまりにも長い間、当たり前として使われてきた事だった。
◆
昼前。
スマートフォンが震える。
添島さん達とのグループメッセージだった。
(恵美)『みんな、朝のニュース見た?』
(玲子)『見た』
(真名)『遅効性ってのが、また厄介だな』
(遥)『長く飲んでた人、大丈夫なのかな』
(弥生)『家族とかに渡していた人達もいるみたいで、影響が大きそうです』
僕も入力する。
『発症は、数千本単位の飲用らしいです。
すぐどうこうなる話ではないと思います』
(玲子)『そうなんだ』
(恵美)『言われてみれば、そうね』
(真名)『それに、、治療薬も解っているから』
(玲子)『そうだった!』
空気が、少しだけ落ち着く。
(恵美)『明日はいつも通りで行けるかな?』
『はい。でも、スライムの森の状況次第ですけど』
(遥)『青い魔石を求める人が、ですよね』
『そうです』
(恵美)『それじゃあ、現地を確認してから、明日の活動を決めましょう』
流れる同意のメッセージを見て、僕は画面を閉じて小さく息を吐いた。
◆
昼のニュースでは、さらに事態が広がっていた。
街頭インタビューでは、家族から貰っていた人。知人から買っていた人。
不認可を貫いた厚生労働省のドヤ顔。
そして、大々的に売っていたクランのマスターへの突撃取材。
『アイディーエイチオー国際ダンジョンハンター機構は「当時の認定は誤りではなかった」とコメントしています』
そして、はっきりと告げられる。
『ホーリーポーションは、現在希少品です。
これにより、国際ダンジョンハンター機構はハンターのみに販売を行うと宣言しています』
僕は、静かに立ち上がり、窓の外を見た。
土曜の空は、何事もないように晴れている。
(月曜から……スライムの森はダメかなぁ)
「お兄ちゃん! 明日もお休み?」
「うん。明日も日葵と遊べるよ。」
「やったぁー!」
僕は抱き着く日葵の頭を撫でて、今日、どこ行こうかと考えを巡らせた。
厚生労働大臣「よっしゃー!」
総理大臣「承認を求めた野党への攻撃に使えるな」
幹事長「また、無駄話ですか……」
総理大臣「9割無駄話。今更だろ」
幹事長「それもそうですね。支持率アップの印象操作になるよう指示します。ところで、あの法案どうします?」
総理大臣「面倒だから流す。来期の公約に入れれば良いだろう」
幹事長「ですね」




