058
◆統括指令室◆
統括指令室に、緊急回線のアラートが鳴り響いた。
「メディカルセンターからです!」
報告を受けた職員の声に、室内の空気が一瞬で引き締まる。
「内容は?」
「赤いポーションの鑑定結果について……突如、副作用の詳細と、その治療法が表示されたと」
その言葉が発せられた瞬間、指令室にざわめきが走った。
「副作用……?」
「治療法……だと?」
安藤将司は、モニターに映し出された詳細の見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
(……やはりか)
ハンターの犯罪増加。
理由の分からない暴力性。
倫理観の低下、短絡的な判断。
それらが、一本の線で繋がっていく。
(赤いポーション……便利すぎた代償だな)
即効性ではない。
数年単位で精神を蝕む、遅効性の毒。
「ホーリーポーションで、解毒可能とのことです」
その報告に、安藤は目を細めた。
(……よりにもよって、今か)
彼の脳裏に浮かぶのは、現在進行中のダンジョン攻略。
東円寺たちが挑んでいる新ダンジョン――
通称、《巨人のダンジョン》。
宝箱から、異常な量のホーリーポーションが確認されている。
(赤いポーションの問題が表面化する“今”に、解毒手段が大量供給されるダンジョン……)
一瞬、喉の奥が乾いた。
(神の采配、か?)
だが、その考えはすぐに切り捨てる。
(……考えても意味はない)
理由が分かろうと分かるまいと、やるべき事は決まっている。
「情報を拡散する」
安藤は即座に指示を出した。
「ロビーへの掲示。全端末へのメッセージ配信。メディアにも通達だ」
「それから――IDHOへも報告。国際的に情報共有を」
この情報で、混乱は起きるだろう。
だが、これでハンターの未来が守られた。
安藤は、そう確信していた。
◆安藤将司宅◆
その夜。
ダンジョンアタックから戻ったばかりの東円寺が、安藤の自宅を訪れていた。
「攻略は?」
「まだ二階だな」
東円寺はコートを脱ぎながら答える。
「一階に比べて、二階の密度が異常だ。純粋な耐久と破壊力だけで押してくる」
「……らしいな」
二人はテーブルを挟んで向かい合う。
「そこでだ」
安藤は本題に入った。
「今後、攻略に参加するパーティーを増やす。お前たち6組以外も入れる」
「ただし、一階まで限定だ」
東円寺は、少し考えてから頷いた。
「妥当だな。今の一階なら、被害も抑えられる」
そして、話題は自然と赤いポーションへ移る。
「副作用……やはり、そうだったか」
「ああ」
安藤は短く答える。
「理由は分からん。だが――」
二人は、同じ結論に辿り着いていた。
「向こう側に、赤いポーションの存在が伝わった」
「そして、それが“スキル鑑定”の結果に反映された」
「学者の鑑定は、異世界由来の情報しか引き出せない。つまり……」
「辞書だな」
東円寺が言葉を継ぐ。
「その辞書が更新された、ってわけだ」
沈黙。
そして、安藤が低く呟く。
「それに合わせるように、ホーリーポーションが大量に手に入るダンジョンが現れた」
「……偶然とは思えん」
「だが、意図があったとしても、こちらに説明はない」
二人は顔を見合わせ、苦く笑った。
「結局、俺たちは与えられたカードでやるしかない、か」
「いつもの事だ」
安藤は、静かに言った。
安藤香織「ねぇ、あたな」
安藤将司「なんだ?」
安藤香織「東円寺君とは仕事の話ばかりしているけど、彼女さん的な話題はないの?」
安藤将司「判ってはいるんだがなぁ~。」
安藤香織「いっそのこと、お見合いでも企画してみる?」
安藤将司「おま! それはそれで北条君と神崎君が黙っていないだろう」
安藤香織「だからよ。あの子達、全然進展ないじゃない。どっちかに決めてあげないと、二人とも適齢期終わってしまうわ」
安藤将司「そうは言ってもなぁ~俺達が口を出す話じゃないしな」
安藤香織「じゃあ! 多重婚を認める法を作りましょ! キューブガーデンは一国家なのだからいけるでしょ!」
安藤将司「あーそれな。他国からの要望もあって、水面下で動いている。」
安藤香織「そうなの! じゃあ、とっとと決めてしまいましょうよ! 今年中に!」
安藤将司「今年中って……あと4カ月しかないぞ」
安藤香織「草案はあるんでしょ? なら直ぐじゃない。頑張っている東円寺君とあの子達の為じゃない」
安藤将司「……そうだな。動かしてみるか」
安藤香織「それでこそ、私の旦那様」




