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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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 翌日。

 僕は、独りでスライムの森に入っていた。


 ダンジョン攻略の影響で人は増えているが、外周のスライムの密度は相変わらずだ。

 黙々と、走って、斬って、魔石を回収する。


 ――変わらない。


 予定分の300匹を狩り終えた頃、頭の奥に微かな感覚が走った。


(……念話?)


『彰斗。時間が出来たら、こちらに来てください』


 イレーザさんの声だった。

 内容は言われなかったが、声音は落ち着いている。緊急というわけでもなさそうだ。


(……それなら)


 帰り道、僕はいつものケーキ屋に立ち寄ることにした。


 女神リネアへの献上用のお菓子は、まだ決め切れていない。

 けれど、何も持たずに行くよりはいいだろう。



 店に入ると、いつもと違う空気を感じた。


「いらっしゃいませ!」


 笑顔の店員さん。

 そして――


「君が最近来てくれる子ね。いつもありがと」


 カウンターの奥から、店長まで顔を出してきた。


「いえ、いつも美味しく頂いてます」


 少しだけ戸惑いながらも、僕はいつも通り注文をする。


「今日も、お薦めのケーキ6種類を2セットでお願いします。」


 ふと、ショーケースの端に目が留まった。


「……新作?」


 小さな札に、そう書かれている。


 白とピンク、そこにオレンジ色が差し込むホイップクリーム。

 花の飾りのように重なり合い、上には苺が綺麗に並んでいた。


(……綺麗だな)


 ミニサイズのホールケーキ。

 一人用、と言っていい大きさ。


「どうですか? 店長の自信作です」


 店員さんが教えてくれる。


 ――これでいいかもしれない。


「じゃあ、それもください」


 女神様への、お供え物。

 そう考えると、少しだけ背筋が伸びた。


 会計を終えると、二人揃って笑顔で見送ってくれる。


「いつもありがとうございます」

「また来てくださいね」


 ……なんだか、常連になった気分だった。




 神域管理室に着くと、シャニアさんは満面の笑みで迎えてくれた。

 対照的に、イレーザさんは静かな表情だ。


 いつものように、ケーキを広げる。


「今回のも美味しそうね!」


 シャニアさんは嬉しそうにフォークを入れ、イレーザさんも「まずは一息入れましょう」とお茶を淹れてくれる。

 僕も、自分の分を口に運んだ。


 甘さが、少しだけ緊張を和らげてくれる。


「――赤いポーションの詳細が、解りました」


 イレーザさんの声色が変わった。


 僕は、息を呑む。


「結論から言います。あれは――毒です」


「……えっ?」


「正確には、即効性の毒ではありません。数年以上の常用で発症する、遅効性の精神破壊作用があります」


 静かな声だった。

 だからこそ、重く響く。


「……副作用」


 その言葉に、思い当たる節が浮かぶ。

 研究者たちの警鐘。

 赤という色の印象。

 臨床試験に必要な時間。


 ――やっぱり、そうだったのか。


「ですが、安心してください」


 イレーザさんは、微笑んだ。


「治療法も解りました」


 胸の奥が、すっと軽くなる。


「ホーリーポーションを、数回から数十回。飲用することで、体内に蓄積した毒素は消えます」


「あ……そうか」


 ホーリーポーションは、状態異常全般を治す。


 同時に、別の問題にも気付いてしまう。


(……需要、跳ね上がる事に)


 ただでさえ不足しているのに。


「合わせたようなタイミングよね」


 シャニアさんが、ケーキを食べながら笑う。

 背後のモニターに映る、巨大な影へフォークを向けた。


「ホーリーポーションが大量にドロップするダンジョン」


 《巨神遺構》。

 東円寺さん達が攻略している、新ダンジョン。


「彰斗」


 イレーザさんが、こちらを見る。


「赤いポーションの鑑定では、今後この副作用まで表示するようにしました。多少の混乱は起きるでしょうが、長引きません」


 そして、続ける。


「赤いポーションの存在を持ち込み、供給の道を示した功績。これは彰斗の手柄です。リネア様から褒美が与えられます」


「……え?」


 突然の話に、言葉を失う。


「何が良いでしょう?」


「聞いてないわよ!」


 シャニアさんが頬を膨らませた。


「私も手伝ったのに! 何も無しは嫌!」


 ……その通りだと思った。


「じゃあ……僕の褒美の半分を、シャニアさんにっていうのは?」


 提案すると、シャニアさんの顔が一気に明るくなる。

 イレーザさんは、少し困った顔だ。


「リネア様なら受け入れてくださるでしょう。では、彰斗の選ぶ内容で、シャニアさんへの褒賞ランクを決めましょう」


「彰斗、判ってるわよね?」


 ――高価すぎる物は選ぶな、という圧。


「そもそも、どんな物があるんですか?」


「神代遺物なら一つ。使徒製の装備一式。あるいは、エクストラポーションなら30本ほどです」


「30本!?」


 思わず声が出た。


 欠損すら再生する奇跡のポーション。

 1本1億円。


(……絶対、面倒な人生になる。でも、万が一の時用に欲しい)


 悩んだ末、答えを出す。


「エクストラポーションを10本で。残りは、シャニアさんに。

 それで十分過ぎます」


「判りました。そう伝えておきます」


 そして僕は、持ってきた箱を差し出した。


「これを、リネア様に。お供え物です」


「お預かりしますね」


「……私の味見用は?」


「一つしかなかったので。それに、同じお店ですし」


「確かに、それなら味見は要りませんね」


 二人にそう言われて、シャニアさんは項垂れた。


 ――でも、どこか嬉しそうだった。


◆ケーキショップ『十果繚乱』キューブガーデン店◆

店員「買ってくれましたね」

店長「渾身の一品だから」

店員「来る日まで毎日作るって言った日は驚きましたよ。

   まあ、そのおかげで、来なかった日は美味しく頂きましたけどね」

店長「思いっきり技術を詰め込んだ一品なんて、他の店じゃ出せないから」

店員「怒られますもんね。しかもあの値段で買う人なんて早々いませんよ」

店長「高収入のハンターになると、トリプルタワーのセレブ通りだから」

店員「店長の本気は、あっちに負けないですよね」

店長「当然! それじゃあ、次の新作にいってみようか」

店員「やったぁー!」

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