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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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 ◆多紀彰斗◆


 スライムの森にダンジョンが出現してから、3日が経った。


 テレビでは連日、その攻略映像が流れている。

 東円寺さん達による、レベル120ダンジョン《巨神遺構》。

 ダンジョン内に通信設備は設置できないため、すべて録画映像だという。


 初日。

 東円寺さんと僕が並んで映ったシーンが、少しだけ話題になったらしい。

 でも、それもすぐに流れていった。


 結局のところ――

 僕達の毎日は、変わらない。


 今日もスライムを狩って、魔石を集めて、時間になったら帰る。

 それを、淡々と続けている。



 巡回バスの停留所。

 併設された避難所施設の休憩室で、僕達は帰りのバスを待っていた。


「明日は金曜日なので、皆さんはお休みですね」


 いつも通りの確認のつもりで言うと、添島さんが少し間を置いてから口を開いた。


「……その事なんだけど」

 

 声のトーンが、わずかに低い。


「話しておきたい事があるの。ここだと話せないから……桑名駅で、ちょっと時間もらえる?」


 真剣な表情。

 普段とは違う空気。


(……何か、あったのかな)


 胸の奥が、少しだけざわつく。


「はい。大丈夫です」


 不安を押し込めて、すぐに返事をした。



 桑名駅前。

 添島さんが選んだのは、駅近くのカラオケ店だった。


「とりあえず、飲み物だけでも頼みましょう」

「あっ、ここは私が払うわね」


「いえ、そんな……」

「いいの」


 手早く段取りを進める添島さんに、僕は素直に従う。


 部屋に入ってからも、誰も多くは話さない。

 鹿屋さんも、大豊さんも、一枝さんも、豊賀さんも。

 いつもの賑やかさが嘘みたいだった。


(……やっぱり、大事な話だ)


 そう思ったところで、飲み物が運ばれてきた。



 一口飲んでから、添島さんが切り出す。


「遥と弥生がね。

 『覚醒者保護制度』を使ったの」


 その言葉に、少しだけ意外な気持ちはあったけど、必要以上に驚きはしなかった。

 講習時に、「他人事だと思わない事だ」と強く説明を聞かされていたからだ。



「遥と弥生はもう、実家には帰らない。

 九月からも、試験日以外はホテルからオンライン授業を受ける事になりました」


「……そうなんですね」


 僕は、淡々と頷いた。

 既に結果の話、というのもある。


 頭の中で、すぐに次の事を考え始める。


「えっと……それじゃあ?

 一枝さんと豊賀さんは、明日からもホテルで過ごすって事ですか?」


「えぇ」

 添島さんが頷く。

「私と真名と玲子は、一度帰らないといけないけど」


 その言葉に、添島さんは“重い話”をしたつもりだったらしい。

 でも、僕が特に反応しなかったせいか、少し戸惑った表情を浮かべた。


 僕は、考える。


(……金曜日、どうするかな)


「じゃあ、一枝さん」


 自然と口が動いた。


「もし明日、暇でしたら、

 今日まで溜まっている魔石を、明日ポーションに変えますか?

 ……100個くらい、残ってましたよね?」


「えっ」

 一枝さんが目を瞬かせる。

「あっ……うん。そうしようかな」


 戸惑いながらも、頷いてくれた。


「僕も、明日は独りでスライム狩りをしますので。

 朝の待ち合わせも、いつも通りでよければ一緒に。

 午前中にベリー集めを済ませればいいですから」


 添島さん達が桑名駅近くのホテルに泊まるようになってから、朝は一緒に直通バスに乗るようになっている。


「それでしたら」


 今度は、豊賀さんが口を開いた。


「私も付いていきます。

 ベリー集めと、ポーション作りの手伝いに」


 そこで、僕ははっと気付く。


「あっ……」


 思わず声が漏れた。


「そうでした。

 行動を共にしていないと、売り上げの分配が出来ない規則でしたね」


 大谷さんが、合宿中にポーション作成を分担させていた理由。

 それを、完全に失念していた。


「……やっぱり、無しの方向で」


 僕がそう言うと、皆も同時に考え込む。


「私は、別にそれでもいいと思う」

 添島さんが言う。


「今後、そういう事もあるだろうしね」

 大豊さんが続く。


「実際、遥と弥生だけが働いている訳だし」

 鹿屋さんも、そう付け足す。


「私は……遥の気持ちに合わせます」

 豊賀さん。


「えっと……」

 一枝さんが少し考えてから言った。

「ここまでずっと、五等分してきたから。

 これからも、そうしたいかな」


 全員の視線が、僕に向く。


「それでは」

 僕はすぐに答えた。

「これからも、それに合わせます」


 それが、一番自然だと思った。


「ごめんね、多紀君」

 一枝さんが申し訳なさそうに言う。

「せっかくのお誘いだったのに」


「いえいえ」

 首を振る。

「ただの思い付きでしたし。

 分配ルールを忘れていたのは、僕の方です。すみません」


 添島さんが、小さく息を吐いて笑った。


「話は決まりましたね。多紀君、時間ありがとう」


 立ち上がりながら、言う。


「それじゃあ、また月曜日に」


「はい」

 僕も立ち上がった。

「また来週」


 そうして、いつも通りの別れ方をした。


 何かが変わる。

 でも、全部が変わるわけじゃない。


 少なくとも――

 月曜日になったら、また一緒にスライムを狩る。


 それだけは、変わらない。




恵美「せっかくだし、歌ってく?」

真名「そういえば、バスケの息抜きによく来てたな」

遥「色々あり過ぎて、考えすら思い浮かばなかったよね」

弥生「夏休み前からハンターの事でいっぱいだったし、それからは、怒涛の展開ってまさにこれの事だよね」

玲子「まあ……色々あったけど、こういう事も忘れないようにしないとね」

恵美「そうね。じゃあ、歌ってこうか」

真名「じゃあ、一番は恵美で。次、私が歌うよ」

弥生「私はいつもの聞き役です」

遥「玲子は何歌う?」

玲子「彰斗は……どんな曲が好きかな?」

恵美・真名・弥生・遥「…………」

玲子「あっ! ちがっ! 別に練習したいとかじゃないから!」

恵美・真名・弥生・遥 (したいんだ……) 




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