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◆多紀彰斗◆
スライムの森にダンジョンが出現してから、3日が経った。
テレビでは連日、その攻略映像が流れている。
東円寺さん達による、レベル120ダンジョン《巨神遺構》。
ダンジョン内に通信設備は設置できないため、すべて録画映像だという。
初日。
東円寺さんと僕が並んで映ったシーンが、少しだけ話題になったらしい。
でも、それもすぐに流れていった。
結局のところ――
僕達の毎日は、変わらない。
今日もスライムを狩って、魔石を集めて、時間になったら帰る。
それを、淡々と続けている。
◆
巡回バスの停留所。
併設された避難所施設の休憩室で、僕達は帰りのバスを待っていた。
「明日は金曜日なので、皆さんはお休みですね」
いつも通りの確認のつもりで言うと、添島さんが少し間を置いてから口を開いた。
「……その事なんだけど」
声のトーンが、わずかに低い。
「話しておきたい事があるの。ここだと話せないから……桑名駅で、ちょっと時間もらえる?」
真剣な表情。
普段とは違う空気。
(……何か、あったのかな)
胸の奥が、少しだけざわつく。
「はい。大丈夫です」
不安を押し込めて、すぐに返事をした。
◆
桑名駅前。
添島さんが選んだのは、駅近くのカラオケ店だった。
「とりあえず、飲み物だけでも頼みましょう」
「あっ、ここは私が払うわね」
「いえ、そんな……」
「いいの」
手早く段取りを進める添島さんに、僕は素直に従う。
部屋に入ってからも、誰も多くは話さない。
鹿屋さんも、大豊さんも、一枝さんも、豊賀さんも。
いつもの賑やかさが嘘みたいだった。
(……やっぱり、大事な話だ)
そう思ったところで、飲み物が運ばれてきた。
◆
一口飲んでから、添島さんが切り出す。
「遥と弥生がね。
『覚醒者保護制度』を使ったの」
その言葉に、少しだけ意外な気持ちはあったけど、必要以上に驚きはしなかった。
講習時に、「他人事だと思わない事だ」と強く説明を聞かされていたからだ。
「遥と弥生はもう、実家には帰らない。
九月からも、試験日以外はホテルからオンライン授業を受ける事になりました」
「……そうなんですね」
僕は、淡々と頷いた。
既に結果の話、というのもある。
頭の中で、すぐに次の事を考え始める。
「えっと……それじゃあ?
一枝さんと豊賀さんは、明日からもホテルで過ごすって事ですか?」
「えぇ」
添島さんが頷く。
「私と真名と玲子は、一度帰らないといけないけど」
その言葉に、添島さんは“重い話”をしたつもりだったらしい。
でも、僕が特に反応しなかったせいか、少し戸惑った表情を浮かべた。
僕は、考える。
(……金曜日、どうするかな)
「じゃあ、一枝さん」
自然と口が動いた。
「もし明日、暇でしたら、
今日まで溜まっている魔石を、明日ポーションに変えますか?
……100個くらい、残ってましたよね?」
「えっ」
一枝さんが目を瞬かせる。
「あっ……うん。そうしようかな」
戸惑いながらも、頷いてくれた。
「僕も、明日は独りでスライム狩りをしますので。
朝の待ち合わせも、いつも通りでよければ一緒に。
午前中にベリー集めを済ませればいいですから」
添島さん達が桑名駅近くのホテルに泊まるようになってから、朝は一緒に直通バスに乗るようになっている。
「それでしたら」
今度は、豊賀さんが口を開いた。
「私も付いていきます。
ベリー集めと、ポーション作りの手伝いに」
そこで、僕ははっと気付く。
「あっ……」
思わず声が漏れた。
「そうでした。
行動を共にしていないと、売り上げの分配が出来ない規則でしたね」
大谷さんが、合宿中にポーション作成を分担させていた理由。
それを、完全に失念していた。
「……やっぱり、無しの方向で」
僕がそう言うと、皆も同時に考え込む。
「私は、別にそれでもいいと思う」
添島さんが言う。
「今後、そういう事もあるだろうしね」
大豊さんが続く。
「実際、遥と弥生だけが働いている訳だし」
鹿屋さんも、そう付け足す。
「私は……遥の気持ちに合わせます」
豊賀さん。
「えっと……」
一枝さんが少し考えてから言った。
「ここまでずっと、五等分してきたから。
これからも、そうしたいかな」
全員の視線が、僕に向く。
「それでは」
僕はすぐに答えた。
「これからも、それに合わせます」
それが、一番自然だと思った。
「ごめんね、多紀君」
一枝さんが申し訳なさそうに言う。
「せっかくのお誘いだったのに」
「いえいえ」
首を振る。
「ただの思い付きでしたし。
分配ルールを忘れていたのは、僕の方です。すみません」
添島さんが、小さく息を吐いて笑った。
「話は決まりましたね。多紀君、時間ありがとう」
立ち上がりながら、言う。
「それじゃあ、また月曜日に」
「はい」
僕も立ち上がった。
「また来週」
そうして、いつも通りの別れ方をした。
何かが変わる。
でも、全部が変わるわけじゃない。
少なくとも――
月曜日になったら、また一緒にスライムを狩る。
それだけは、変わらない。
恵美「せっかくだし、歌ってく?」
真名「そういえば、バスケの息抜きによく来てたな」
遥「色々あり過ぎて、考えすら思い浮かばなかったよね」
弥生「夏休み前からハンターの事でいっぱいだったし、それからは、怒涛の展開ってまさにこれの事だよね」
玲子「まあ……色々あったけど、こういう事も忘れないようにしないとね」
恵美「そうね。じゃあ、歌ってこうか」
真名「じゃあ、一番は恵美で。次、私が歌うよ」
弥生「私はいつもの聞き役です」
遥「玲子は何歌う?」
玲子「彰斗は……どんな曲が好きかな?」
恵美・真名・弥生・遥「…………」
玲子「あっ! ちがっ! 別に練習したいとかじゃないから!」
恵美・真名・弥生・遥 (したいんだ……)




