054
予定通り、15時上がり。
巡回バスに揺られながら、僕達はギルド本部のあるホームへと戻っていた。
「結局、今日だけで170個集まりましたね」
自分でも少しだけ多いな、とは思ったけれど、口にすると皆の視線が集まる。
「東の草原でも狩ってたものね……」
「外周、当たりだったね」
添島さんが小さく息を吐いて、肩の力を抜く。
「ロレの実、もう少し採っても良かったのでは?」
一枝さんが、どこか自信ありげな笑みを浮かべた。
「私、頑張れます」
その表情を見て、僕は首を横に振る。
「いえ。明日からもありますし、予定通りポーション作りは200個ペースでいきましょう」
一瞬だけ、間が空く。
「それに……」
言葉を続けながら、僕は考えていた事をそのまま口に出した。
「仮に僕が風邪を引いたり、用事で来られなくなった時の事を考えると、今持っている魔石は全部預けた方がいいですね」
「えっ……?」
一枝さんが、目を丸くする。
添島さんが、すぐにその場を収めた。
「そうしましょう。多紀君からの、信頼の証です。素直に受け取るところですよ」
「はい」
僕も頷く。
「僕自身も、何かあった時に気にしなくて済みますから。お願いします」
二人の言葉に、一枝さんは少し戸惑いながらも、最後には小さく頷いた。
魔石を預け、僕は皆と別れる。
「それじゃ、すみません。お先に失礼します」
メディカルセンターへ向かう添島さん達の背中を見送りながら、僕は一人、踵を返した。
今日も、やる事は全部終わった。
◆
ケーキの箱を抱えて、神域管理室を訪れる。
ダンジョンの件は僕から頼んだ事。
だから、そのお礼。
「いらっしゃい、彰斗」
イレーザさんが出迎え、シャニアさんはその後ろで軽く視線を向ける。
いつもと同じ光景のはずなのに、今日は少し空気が違った。
ふと視界に入ったモニター。
普段なら気にも留めないはずなのに――
そこには、ダンジョン内部を進む東円寺さん達の姿が映し出されていた。
「とりあえず、それを食べながらね」
シャニアさんはそう言って、ケーキを受け取る。
……機嫌が、悪い?
イレーザさんが小さく溜息を吐いたのを見て、確信する。
テーブルにつき、ケーキを食べ始めたシャニアさんが、不意に口を開いた。
「どうして、彰斗はダンジョンに入ってないのよ」
「えっ?」
思わず、言葉に詰まった。
「一番最初は、彰斗に遊んで欲しかった」
その声は、拗ねているというより――
どこか、悲しそうだった。
そこで、ようやく気付く。
「あっ……すみません」
慌てて、言葉を整える。
「僕、この世界だとまだ新人で、レベルも低い事になってますし、ランクも最低なので……入ると、多分怒られてしまいます」
一瞬、シャニアさんが黙る。
「まあ、今回はシャニアさんがサプライズにしたのが原因ですし」
イレーザさんが、淡々と話を引き取った。
「次からは、事前に彰斗へ連絡して発現させる、ですね」
「……分かったわよ」
渋々、といった様子でシャニアさんが答える。
(……色々と、聞きたい。でも、聞くとなんか面倒事になる気がする)
◆
何気なく視線を向けたモニターには、地下とは思えないほど広大な空間が映し出されていた。
天井は高く、石造りの柱が何本も立ち並ぶ。
床一面には、踏み固められたような岩盤。
――その中央。
人の何倍もある巨体が、ゆっくりと倒れ込む瞬間だった。
「……大きい」
思わず、声が漏れる。
映像に映っていたのは、ストーンジャイアント。
全身が岩で出来たような魔物が、膝を折り、そのまま崩れ落ちていく。
剣撃が効いた様子はない。
魔法の光も、ほとんど見えない。
代わりに映っているのは――
巨人の関節部。
膝、肘、首の付け根。
そこを正確に叩き続ける前衛。
大剣が、鈍い音を立てて叩き込まれる。
次の瞬間、背後から放たれた魔法が、関節の内部にだけ爆ぜた。
「……魔法、反射してる?」
腕に当たった光が、弾かれるように逸れる。
でも、巨人の内部に入った分だけは、確実に効いている。
「魔法耐性が高いから、外殻は狙わない」
イレーザさんが、淡々と説明する。
「内部破壊が基本ですね」
岩の巨体が藻掻くように倒れたまま腕を振り回す。
それでも、東円寺さん達は攻撃の手を止めない。
盾役が前に立ち、巨体の衝撃を受け止める。
その背後から、別の前衛が踏み込み、同じように“深い位置”を狙う。
(……正面から倒してない)
力押しじゃない。
でも、手加減しているようにも見えない。
効く場所を、知っている。
そして、それを確実に実行している。
「あ…あの人、魔眼なんだ」
沙耶さんの眼が紫色に光っていた。
映像の端に、小さくテロップが流れる。
『《巨神遺構》一層・討伐進行中』
「……これで、一層なんだ」
思わず、確認する。
「ええ」
シャニアさんが、どこか誇らしげに頷いた。
「まだ入口付近よ」
(入口で、これ……)
その先を想像しようとして、やめた。
今の僕には、関係ない。
でも――
あの場所で戦っている人達と、
同じ世界にいるんだ、という実感だけが、胸の奥に残った。
ケーキを食べ終え、僕は立ち上がった。
「すみません。電車の時間があるので」
モニターに映るダンジョンの映像に、つい目が行きそうになる。
でも、それ以上は見ない。
今の僕の居場所は、あそこじゃない。
「それでは、失礼します」
管理室を後にして、地上へと出る直通バスの乗り場へと向かう。
明日も、やる事は決まっている。
スライムを狩る。
魔石を集める。
それだけだ。
南原柚月「紫苑! 硬い! 硬い! 硬い! これ無理ぃ!」
西条紫苑「撮影班が居ないからって急に騒がない! 東円寺さんところの魔眼が教えてくれたでしょ。魔核は胸の奥だから、諦めて関節破壊だって」
南原柚月「白律の所と蒼鴉の所はデバフで動きを止めてるみたいよ。こっちもなにかない?」
西条紫苑「次来る時は、魔道の子達を連れてきて色々試すわよ。今日は最悪、倒せなくてもいいから」
南原柚月「そうね。今回はセオリー通りに、関節の破壊を徹底的に
ここ!
あっ! まって! 剣挟まった!」
西条紫苑「それ! それよ!」




