053
◆多紀彰斗◆
正直なところ。
有名な人に評価された、という事実は――
素直に、嬉しかった。
東円寺さん。
名前を聞いても、正直ピンと来ていなかったけれど。
周囲の反応を見れば、すごい人なのは分かる。
(そんな人が、スライム狩りを肯定してくれた)
それだけで、十分だった。
ただ。
(……面倒そうな人にも、認識された気はする)
沙耶さんだったかな。
視線が鋭かった。
嫌悪というほどではないけれど、納得していない感じ。
正直、関わりたくない。
(考えても仕方ないか)
そう結論づけて、僕は頭を切り替えた。
――遅くなった。
だから、狩りを始めないと。
◆
森に入ると、体が勝手に動き出す。
走る。
視線を走らせる。
反応する。
いつもと同じ。
スライムを見つけ、斬る。
魔石を回収し、次へ。
背後から、足音が付いてくる。
添島さん達だ。
コボルト。
ゴブリン。
僕が前を走り、索敵を担当。
遭遇戦の指示を出して皆に任せる。
視線だけで、もう言葉がいらない。
(……あ)
気付けば、さっきまでの出来事を考える余裕はなくなっていた。
走って、狩って。
走って、狩って。
これが、僕達の日常になりつつある。
◆
「やっぱり、外側にスライムが集まっていましたね」
森の南側に抜けながら、集計を確認する。
「予定時間まで狩ってみたら……136個、溜まりました」
「たっ……溜まりましたじゃないわよ!」
背後から、勢いよく衝撃。
「100個で区切んなさいよ!」
鹿屋さんが、そのまま背中に飛びついてきた。
反射的に、体勢を支える。
「えっと……その……」
「皆さん、元気そうだったので……」
「言い訳になってない!」
とは言うものの、鹿屋さんの声に本気の怒りはない。
おんぶしたまま歩き出す。
今日は、遺跡で休憩できない。
だから、このまま森の外へ出る。
「時間的にも、少し短かったですね」
添島さんが冷静に言う。
「確かに」
大豊さんが頷く。
「先週の最終日より、楽だな」
「昨日、レベルが一つ上がった影響でしょうか」
豊賀さんが首を傾げる。
「一つで、そんなに変わるものなんですか?」
そこで、ふと思い出した。
「あ……」
口に出してから、説明する。
「キューブガーデン内の行動って、全てレベル補正が掛かりますよね」
「確かにそういう説明があったような……」
少し考えて、言葉を選ぶ。
「僕に合わせて走っていた分、持久力とか瞬発力が、他より伸びてませんでしたか?」
添島さん達が、顔を見合わせる。
「……そこまで、見てなかった」
「数値、確認してないな」
「じゃあ、今日の終わりに見てみましょう」
添島さんが言って、全員が頷いた。
◆
森を抜け、南側の草原で休憩。
鹿屋さんは、僕の隣に座る。
「さっきの……ダンジョン前で、何があったの?」
昼食を摂りながら、添島さんが訊いてきた。
「えっと……」
少しだけ、言葉を整理する。
「前に、ギルドのロビーで高圧的な勧誘を受けた事があって」
「その時に、東円寺さんが助けてくれたんです」
「名前を覚えられていて……」
そして今日の事。
「青い魔石を供給するのも、立派なハンター業務だって」
「そう言ってもらいました」
「……なるほど」
そのタイミングで、豊賀さんがスマホを差し出す。
「この人達ですよね」
画面には、演説するパーティー。
テロップ――『日本が誇る最強のパーティー』。
その前には、5組のパーティーが並んでいた。
「あっ」
添島さんが声を上げる。
「この人……〈華燐〉のリーダーとサブリーダー」
他のみんなも気付き、感嘆の声が漏れる。
「すごいな……」
今度は、僕が訊ねた。
「添島さんは、その人と知り合いなんですか?」
「少しだけね」
そう言って、西条紫苑との出会いを話してくれる。
「そういう人達も、いるんですね。
凄いなぁ……」
自分でも、呑気だと思う。
それを聞いて、みんなが少し力を抜いた。
「彰斗は……」
鹿屋さんが、急に真剣な声になる。
「どこかのクランに、入ったりするの?」
「いえ」
即答した。
「面倒なので、ソロです」
「あっ、でも……」
慌てて付け足す。
「皆さんは、どこかに所属しても問題ありませんよ」
「そんな事しないわよ!」
鹿屋さんが声を張る。
「……しないよね?」
「まあ」
添島さんが笑う。
「高校を出てから考える事かな」
「それまでは、このメンバーで行きましょう」
全員が、頷いた。
(……良かった)
僕は、胸の奥でそう思った。
今日も。
明日も。
スライムを狩る。
一緒に走る。
一緒に進む。
シャニア「彰斗が居ないなんてつまらないぃ~!」
イレーザ「……」
シャニア「あんたもそう思うでしょ! 神器使って欲しいでしょ!」
イレーザ「……」
シャニア「あ~もう~! 入口、一回閉めていい? あっ! 名案じゃない!」
イレーザ「リネア様」
シャニア「……はい」




