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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆添島恵美◆



 ――正直に言えば。


 私は、誰が誰だか分かっていなかった。


 スライムの森。

 ダンジョン出現直後。

 人が多いのは予想していたけれど、それにしても――空気が違う。


(……なんだろう、この感じ)


 周囲にいるハンター達が、妙に静かだった。

 ざわついているのに、浮き足立っていない。

 どこか、背筋を伸ばしているような。


 装備も、雰囲気も、私達とは明らかに違う。


(たぶん……Aランクパーティー)


 そう推測するしかなかった。

 名前も、実績も、知らない。

 調べていないのだから当然。


 でも。


 “分からないのに、圧倒される”。


 それだけで、十分だった。


 そんな中で――


 多紀君が、呼び止められた。


 最初は、偶然だと思った。

 近くにいたから。

 目に留まったから。


 でも、違った。


 声を掛けてきた人物の立ち姿。

 周囲の反応。

 そして、次の瞬間。


 ――頭を、撫でた。


(……え?)


 一瞬、思考が止まる。


 親しげ、という言葉では足りない。

 軽くもない。

 でも、自然だった。


 まるで――

 “そうしていい存在”だと、最初から分かっているみたいに。


 その光景を見て、周囲の空気がさらに変わった。


 視線が集まる。

 ざわめきが、確信に変わる。


 少し離れた場所では、カメラが回っていた。

 スタッフの動きも慌ただしい。


(……あれ、もしかして)


 ここで、ようやく気付く。


 多紀君が、目立っている。


 本人はいつも通りなのに。

 静かで、控えめで、必要以上に前に出ないのに。


 それでも。


 場の中心に、置かれている。


 隣を見ると、玲子の様子がおかしかった。


 さっきまでの軽い調子が消えている。

 唇を結び、じっと多紀君を見ている。


(……玲子?)


 声を掛けようとして、やめた。

 今は、触れない方がいい。


 彼女の肩が、わずかに強張っている。


 ――不安。


 それが、一番近い言葉だった。


 やがて、多紀君がこちらに戻ってきた。


 困ったような、少し居心地の悪そうな顔で。


「……それでは僕は、スライム狩りに行きますので。失礼します」


 いつも通りの、丁寧な口調。


 その言葉に、私は内心ほっとした。


(変わってない)


 少なくとも、彼自身は。


 私達も、自然とその後に続く。

 逃げるように、でも意識的に、その場を離れる。


 背後から、声が聞こえた。


「えっ? なに? あの子ハーレムじゃん!」


 軽口。

 でも、どこか刺々しい。


 私は振り返らなかった。


 ただ、歩きながら思う。


(……知らなかった)


 多紀君が、どれだけ“外”で見られている存在なのか。

 私達と一緒にいる時とは、まるで違う目で見られている。


 隣で、玲子が小さく息を吐いた。


「……なんか、ムカつく」


 ぽつり、と。


「でもさ」

 続けて、小さな声で。

「……すごい、よね」


 私は、頷いた。


「うん」


 理由は分からない。

 背景も知らない。


 でも。


 確かに、圧倒された。


 そして何より――


(それでも、私達は一緒に行く)


 今日も。

 これからも。


 多紀君は、スライムを狩る。

 私達は、隣で戦う。


 今は、それでいい。


 そう、思うことにした。


鷹宮希「東円寺さんがかまっていた、あの子なに?」

神谷仁喜「少し話題になってるスライム狩りのルーキー」

鷹宮希「へぇ~。確かに、東円寺さんが好きそうな話ね」

一ノ瀬由衣「私達には見せない顔でしたね」

鷹宮希「あっちは使える人間。こっちは使う人間。その差でしょ」

神谷仁喜「確かに、俺達って部下みたいな扱いだよな」

鷹宮希「それもあと数年。レベルも地位も、追い抜いてみせるわ」



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