052
◆添島恵美◆
――正直に言えば。
私は、誰が誰だか分かっていなかった。
スライムの森。
ダンジョン出現直後。
人が多いのは予想していたけれど、それにしても――空気が違う。
(……なんだろう、この感じ)
周囲にいるハンター達が、妙に静かだった。
ざわついているのに、浮き足立っていない。
どこか、背筋を伸ばしているような。
装備も、雰囲気も、私達とは明らかに違う。
(たぶん……Aランクパーティー)
そう推測するしかなかった。
名前も、実績も、知らない。
調べていないのだから当然。
でも。
“分からないのに、圧倒される”。
それだけで、十分だった。
そんな中で――
多紀君が、呼び止められた。
最初は、偶然だと思った。
近くにいたから。
目に留まったから。
でも、違った。
声を掛けてきた人物の立ち姿。
周囲の反応。
そして、次の瞬間。
――頭を、撫でた。
(……え?)
一瞬、思考が止まる。
親しげ、という言葉では足りない。
軽くもない。
でも、自然だった。
まるで――
“そうしていい存在”だと、最初から分かっているみたいに。
その光景を見て、周囲の空気がさらに変わった。
視線が集まる。
ざわめきが、確信に変わる。
少し離れた場所では、カメラが回っていた。
スタッフの動きも慌ただしい。
(……あれ、もしかして)
ここで、ようやく気付く。
多紀君が、目立っている。
本人はいつも通りなのに。
静かで、控えめで、必要以上に前に出ないのに。
それでも。
場の中心に、置かれている。
隣を見ると、玲子の様子がおかしかった。
さっきまでの軽い調子が消えている。
唇を結び、じっと多紀君を見ている。
(……玲子?)
声を掛けようとして、やめた。
今は、触れない方がいい。
彼女の肩が、わずかに強張っている。
――不安。
それが、一番近い言葉だった。
やがて、多紀君がこちらに戻ってきた。
困ったような、少し居心地の悪そうな顔で。
「……それでは僕は、スライム狩りに行きますので。失礼します」
いつも通りの、丁寧な口調。
その言葉に、私は内心ほっとした。
(変わってない)
少なくとも、彼自身は。
私達も、自然とその後に続く。
逃げるように、でも意識的に、その場を離れる。
背後から、声が聞こえた。
「えっ? なに? あの子ハーレムじゃん!」
軽口。
でも、どこか刺々しい。
私は振り返らなかった。
ただ、歩きながら思う。
(……知らなかった)
多紀君が、どれだけ“外”で見られている存在なのか。
私達と一緒にいる時とは、まるで違う目で見られている。
隣で、玲子が小さく息を吐いた。
「……なんか、ムカつく」
ぽつり、と。
「でもさ」
続けて、小さな声で。
「……すごい、よね」
私は、頷いた。
「うん」
理由は分からない。
背景も知らない。
でも。
確かに、圧倒された。
そして何より――
(それでも、私達は一緒に行く)
今日も。
これからも。
多紀君は、スライムを狩る。
私達は、隣で戦う。
今は、それでいい。
そう、思うことにした。
鷹宮希「東円寺さんがかまっていた、あの子なに?」
神谷仁喜「少し話題になってるスライム狩りのルーキー」
鷹宮希「へぇ~。確かに、東円寺さんが好きそうな話ね」
一ノ瀬由衣「私達には見せない顔でしたね」
鷹宮希「あっちは使える人間。こっちは使う人間。その差でしょ」
神谷仁喜「確かに、俺達って部下みたいな扱いだよな」
鷹宮希「それもあと数年。レベルも地位も、追い抜いてみせるわ」




