051
◆東雲沙耶モノローグ◆
――変な子。
それが、最初に浮かんだ感想だった。
同じ魔眼。
しかも初心者で、あの年齢。
正直、期待していた。
自分と同じ道を歩けるかもしれない、って。
でも聞こえてきたのは――
スライム狩り。
ひたすら、スライム。
(……つまらない)
才能があるのに、危険を避ける。
上を見ない。
伸び代を、自分から閉じている。
そんなの、ハンターじゃない。
魔眼は、選ばれた力だ。
見えるからこそ、前に出る義務がある。
危険を察知できるなら、仲間を守る役に立つべきだ。
私はそう教えられてきたし、そう生きてきた。
だから――
見えるのに、安全な場所だけを選ぶ彼が、理解できなかった。
……そう、思ったはずなのに。
「一日で160」
その数字を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
(嘘じゃない)
東円寺さんが言うなら、本当だ。
しかも、四時間足らず。
(効率だけなら……私より、上かもしれない)
認めたくない。
でも、否定できない。
魔眼を“戦場”じゃなく、“収集”に振り切る。
そんな発想、私は思いつきもしなかった。
(逃げてる?)
それとも――
分かっていて、選んでいる?
彼の目は、濁っていなかった。
諦めてもいない。
ただ、静かだった。
(……だから、気に入らない)
強くなれるのに、強さを求めていない。
勝てるのに、勝ちに行かない。
それは、私が一番嫌うタイプだ。
でも――
東円寺さんに頭を撫でられて、
困ったように逃げる背中を見て。
東円寺さんは、簡単に人を認めない。
努力も、結果も、覚悟も見てからでないと、名前すら呼ばない。
その人が――
あんなふうに、無防備に触れた。
(……ずるいな)
無自覚で、評価を掻っ攫っていく。
自分は必死に積み上げてきたのに。
彼は、それを“当然”みたいな顔でやる。
(ああ、もう)
だから。
目を逸らせない。
上を目指さないなら――
私が、引きずり上げてやる。
そう思ってしまった時点で、
もう負けてるのかもしれないけど。
北条紗耶香「慶さん。沙耶ちゃんが拗ねてますよ」
東円寺慶「す……ねては……いるのか?」
北条紗耶香「います。今日、沙耶ちゃんが活躍したら頭なでなでしてあげてくださいね」
東円寺慶「いや……もう、大人の女性だぞ? セクハラになるだろ」
北条紗耶香「そうですけど。あの子まだ感情は子供ですよ?」
東円寺慶「そうなのか? でも、さすがに頭を撫でるのはダメだろ? 東雲の祖父さんに殴られる」
北条紗耶香「たしかに。じゃあ、ハイタッチで」
東円寺慶「俺が?! この年で!?」
北条紗耶香「丁度良いじゃないないですか、新しいダンジョンで皆のテンション上がるでしょうし」
東円寺慶「……善処する」




