005
ハンバーガーショップでチキンバーガーを二つ、そしてハンバーガーを一つ買った僕を、彼女達がじっと見ている。
どちらも一個二百円の最安値メニューだ。
基本のハンバーガーは裏切らない美味しさがあるし、チキンバーガーはチキンカツとシャキシャキしたキャベツの相性が抜群で美味い。
しかも、チキンバーガー → ハンバーガー → チキンバーガーの順で食べれば飽きずにお腹が満たされる!
「えっと……ポテト食べる?」
「いえ、お気遣いなく」
彼女達も、早く食べられるという理由で同じ店のセットメニューを選んでいて、僕より先に席に着いている。
テーブルを二つ合わせて六人席にしているので、僕はお誕生日席のような端の席に収まった。
「お待たせしました。いただきます」
ものの二分ほどで完食した僕は、リュックから水筒を取り出し、麦茶で喉を潤す。
「まず僕から自己紹介と少し質問をしますが、食事の手は止めず、そのまま食べながら聞いてください」
「うん」「はい」「はい」「はい」「はい」
いや、添島さん。ひとりだけ「うん」でも気にしなくていいから!
その、友達へ抗議の視線を送らないで……。
妹みたいで可愛いと思ってしまった僕も思うのもなんだけど……
「僕はここから一時間ほどの鈴鹿市から来ました。家族は母と妹の三人で、母子家庭です。まあ、ご想像のとおり一般的な貧困家庭ですね。でも、それも今日から変わります。昨日というか今日、無事にハンター資格を得られたので」
「あっ、今日がお誕生日?」
「はい」
「おめでとうございます」
まだ名前も知らない女性が、自然にポテトの箱を差し出してくる。
…………
「ありがとうございます」
一本だけ受け取って食べる。
モグモグ。
すると残り四人も同じようにポテトの箱を差し出してきた。
「ありがとうございます」
一人につき一本ずつ受け取って口へ運ぶ。
モグモグ……。
「っと、話を戻しますね。僕はそういう生活環境だったので、ハンターに関することや、稼ぐ方法なんかをなれるかどうかも分からない時期からずっと調べてきました。夢で終わらなくて本当に良かったです。で、皆さんの反応を見てると、薬師の役割や強みを含めて、あまり知識はないみたいですけど……どうですか?」
「そうね。遥ちゃん——彼女、一枝遥ちゃんが薬師のギフトを貰ったのが今月18日。そもそも私達、同じ中学のバスケ部の仲間で、そうだ、流れ的にここで自己紹介をしても良い?」
「はい」
添島さんが姿勢を整える。
「改めまして、チームリーダーの添島恵美。ギフトは武闘。誕生日は6月2日」
「大豊真名。ギフトは剣闘。誕生日は7月15日。遥より3日早いだけ」
「豊賀弥生です。ギフトは聖女。誕生日は5月1日です」
「鹿屋玲子よ。ギフトは魔道。適性は火と風。誕生日は4月18日で、この中では一番早いわね」
「最後に自分から。 一枝遥です。ギフトは薬師。誕生日は7月18日」
「バランスの取れた良いチームですね。しかも知り合いで5人もなんて」
統計的に、今では300人から400人に一人だと言われている覚醒者。
それが身近で、友人で、なんて確率は凄く低い。
「でしょ。で、この夏休みまでに誕生日を迎えてギフトを貰えた五人でチームを組んで、ハンターデビューしようって話になって、今回の合宿に参加しました。あ、そうだった。私達、愛知県の安城市から来てます」
「なるほど。それなら知識がなくても当然ですね」
「そうなのよ。あの教官が“あなたと知り合った方が今後のためになる”って言ってきて、話がどんどん進むし、こっちは何も知らないから下手に反論もできなくて、ほんと……」
「はい、では僕の知ってる範囲で補いますね」
「よろしくね」
困ってました、という五人の表情に、僕も姿勢を正す。
「まず一つ。一枝さんの薬師というギフトを最大限活かすために必要なのが、スライム狩りと素材採取です。これをチーム全員が理解して動けば、安定して安全に収入を得られます。1日100匹のスライム討伐と100個の素材採取で、ヒールポーション百個が作れます。1本2千円なので、全部売れれば20万円」
ゴクリ、と飲み込む音が聞こえた。
「そして二つ目。魔眼持ちが得意とする魔核絞めという技。初撃でスライムの魔核を破壊すると、通常より性質の良い魔石が取れるんです。これを使って作るハイヒールポーションは一本五千円。つまり、僕と組めば百本で50万円ですね。そちらは素材の果物を百個集めるだけで良いです。あっ!でも通常の相場だと僕が30万の手取りになるからそちら側の収入は20万のままか…まあでも、スライム狩りをしないから時給的には楽になるはず」
五人の手が完全に止まっている。口も開きっぱなしだ。
「最後に、これは憶測というか、教官のお節介というか……“フリーの魔眼持ちと契約できる機会なんてほぼ無いんだから、逃すなよ”って意味合いだと思います」
実際、僕も軌道に乗ったら薬師のパートナーを探す予定だったから、まあ図星だ。
「契約ですか?」
「はい。薬師はポーションを作っても経験値が入ってレベルが上がります。材料はマナベリー系の果物とスライムの魔石。ただ、薬師は植物の採取が得意なので、フィールド活動の大半はマナベリー採取に費やされがちなんです。だから魔石だけは外注か購入になります。でも現状、スライム狩りをするハンターが少なくて、魔石の大半は大手製薬会社に流れています」
「それだとスライムの魔石の値段が上がって、狩る人が増えるんじゃ?」
「豊賀さんの記憶には“青い魔石で作るレシピ”がありますよね。でも、赤い魔石を代用するレシピが開発されました。効果は同じです」
「えっ? それじゃスライム狩りの意味が……」
「はい。でも、赤ポーションは青汁の味がします」
「え……」
「ちなみに青ポーションのヒール系はスポーツドリンク味、魔力回復系は甘いコーヒー味です」
「絶対青の方がいいじゃん!」
「でも赤が青の半値なら?」
「うっ……2千円が千円……」
「そういう理由で、我慢して青汁を選ぶ人が多い。だから青魔石の価格は上がらないんです。青汁、慣れれば美味しいらしいですしね」
「私は嫌だなぁ……」
「皆さんが青ポーションの生産者になれば——」
「あっ、そっか」
「っと……話を戻しますね。契約の話ですが」
「つまり私達には、スライム狩りをしてくれる人、特に魔眼持ちが必要で、長期的に供給を得る契約を結ぶべき、ということで合ってますか?」
添島さんが綺麗にまとめてくれた。
「はい」
「分かりました」
「ただし、条件のすり合わせや相性も大事なので、急いで決める必要はありません。それに、魔核絞めの魔石が無くても、数を増やすレシピでハイヒールは作れます。ですよね、薬師の……一枝さん」
「あ、うん。ある。魔石3個のやつが通常レシピ」
自分のスキルの情報は、意識するだけで記憶として開くんだよな。
「そうなんだ。分かった。皆で話し合ってみます」
「はい。あ、あと薬師がレベル50になれば、1本5万円のホーリーポーションが作れます。これにはレベル50以上の聖女のスキルで作る聖水が必要ですが……そこは聖女の豊賀さんがいるので問題なしですね」
「えっ! 5万円!?」
「恵美ちゃん、声大きい」
「あっ……ごめん」
「まあ、レベル50なんて早くても数年先の話ですし、ダンジョンで強い魔物を倒し続けないといけないので、まだ要らない情報だったかもしれません。すみません」
「いえ。確かに今すぐの覚悟は持てないですけど、目標として覚えておきます」




