049
◆多紀彰斗◆
集合場所に着いた僕は、まず添島さん達の服装に目を奪われた。
これまでの中学校のジャージではなく、濃紺を基調に白いラインが入ったスポーツウェア。ギルドの売店で扱っている汎用品だ。
「……似合ってますね」
思ったままを口にすると、添島さん達は一瞬きょとんとしてから、柔らかく笑った。
「ありがとう」
「新しいの、ちょっと気分変わるよね」
その横で、鹿屋さんが腕を組んでこちらを見る。
「……それ、私が言わせてほしかったんだけど」
「え?」
「“似合ってるでしょ”って」
少し拗ねたように言われて、どう返せばいいか分からず黙ると、今度は大豊さんが口を挟んだ。
「多紀君って、すぐ女の子褒めるよね。慣れてる感じ」
「そ、そんな事ないです」
慌てる僕を見て、二人は顔を見合わせて小さく笑った。
「ねえ彰斗も同じのにしない。
お揃い!」
「い、いや……それはさすがに恥ずかしいです」
話題を変えるように、僕は皆の装備に目を向けた。
「武器も……新しくしたんですね」
添島さん達が頷く。
大豊さんは初心者専用シリーズの大剣。
添島さんは同じシリーズの長槍。
一枝さんは取り回しの良さを重視した短槍。
僕が買ったレイピアと同じラインで揃えた装備だ。
そして――
「これ、前に借りてたのと同じやつよ」
鹿屋さんが手にしているのは、合宿中に使っていたミスリル製のタクト。
豊賀さんの盾も、以前と同じポリカーボネート製だった。
「……買ったんですか?」
「うん。ローンだけどね」
鹿屋さんはさらっと言い、豊賀さんも小さく頷く。
「月十二回払いです。無理のない範囲で」
借り物だった装備を、自分のものとして選び直した二人。
その事実が、僕には妙に重く、同時に頼もしく感じられた。
――もう、講習じゃない。
彼女達は本当に、ハンターとして歩き始めている。
巡回バスの停留所へ向かう道すがら、自然と話題はスライムの森に出現したダンジョンの事になった。
「朝、受付で言われたんだけど……」
添島さんが切り出す。
「森の中央部に、正式なダンジョンが確認されたって」
「やっぱり、あれダンジョンだったんですね」
「彰斗は現場に居たんでしょ?」
鹿屋さんが興味津々で身を乗り出す。
「はい。完全に入口がせり上がってきました」
「うわ……生で見たのか」
「ニュースでやってたやつだよね」
一枝さんがスマホを取り出す仕草をするのを見て、豊賀さんが首を振った。
「今日は、もう配信が付いているみたいです」
それを聞いて、僕は少し考える。
「……今日は、外周をメインにしませんか」
「外周?」
「ダンジョンが出来た直後ですし、入口のある遺跡周辺は人の気配が残っていると思います。なのでスライムは散ってるはずです」
僕自身も、ダンジョンが出来てから森に入るのは今日が初めてだ。
安全を優先するなら、無理に近づく理由もない。
「いいと思う」
恵美さんが即答した。
「今日は様子見ね」
全員が頷き、方針はすぐに決まった。
◆
巡回バスは、予想以上に混んでいた。
座席はほぼ埋まり、通路に立つ人はいないものの、車内はぎっしりとした空気だ。
全員が武器を携行しているため、立ち乗りは禁止されている。
(これ……狩り、出来るのかな)
同じ事を考えているのか、添島さん達も少し不安そうな表情を浮かべていた。
そんな中――
鹿屋さんだけは、僕の隣に座ってご機嫌だった。
「今日は混んでるね」
「そうですね」
「様子見なんだから、今日は張り切らないでよね」
小さく笑われて、返事に困る。
大豊さんが前の席から振り返って、にやりとする。
「多紀君、緊張してる?」
「してません」
「声、固いよ」
一枝さんと豊賀さんがくすっと笑う。
この空気は、嫌いじゃない。
◆
スライムの森の停留所に到着すると、僕達の予想はすぐに確信へと変わった。
「……人、多いですね」
「ハンターというより……」
「見学者、だね」
森の入口付近には、装備を整えたハンターだけでなく、軽装の人影も目立つ。というか、スーツ姿の人達も居る。
明らかに討伐目的ではなさそうだった。
視線の先――
立ち入り規制用の簡易フェンスと、その向こうに見えるダンジョン入口。
そして。
「……あ」
不意に、誰かと目が合った。
存在感が、離れた距離に居ても感じる集団。
そして中心に立つ彼と、確実に視線が交差する。
同時に、周囲がざわついた。
「東円寺だ」
「本物?」
「カメラ回ってるぞ」
見れば、少し離れた場所に中継用のカメラとスタッフ。
どうやら、生放送らしい。
「誰でしょう?」
添島さんが苦笑する。
「なんか貫禄あるよね」
鹿屋さんが肩を叩いてくる。
(やっぱり有名な人だったんだ……)
僕は、無意識に腰のレイピアに手を添えた。
(……やる事は、変わらない)
今日も、スライムを狩る。
それだけだ。
そう思いながら、僕は彼へと軽く頭を下げた。
シャニア「ほら! 彰斗も来たでしょ!」
イレーザ「……それは、いつもの狩場だからだと思います」
シャニア「でもほら! この男と話すみたいだし! 一緒に入るのよ!
まあ、誰かと一緒ってのがあれだけど……」
イレーザ(ほんと……シャニアさんはどうして、こういうところだけ詰めが甘いんでしょうか?)




