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◆多紀彰斗視点◆
最終日も、段取りは6日目とほとんど変えなかった。
午前中の狩り。
午後の素材回収。
そして、ポーション作成と売却。
違ったのは、「これが最後だ」という意識だけだ。
メディカルセンター――今は完全にポーション作成専用となった建物のロビーには、同じ目的を持ったハンター達が行き交っていた。
薬師達が忙しなく素材を運び、完成したポーションを抱えて買取窓口へ向かう。
血の匂いも、悲鳴もない。
あるのは、作業音と、少し疲れた顔と、それでも前を向く空気。
僕は、添島さん達の作業が終わるまで、いつものように付き合っていた。
「……これで全部ね」
豊賀さんが箱詰めしたポーションを見て一息吐く。
「今日もありがとう」
「皆、お疲れ様」
一枝さんがふんわりと微笑み、添島さんがいつものように締める。
「もう……腕、上がんない……」
「昨日も同じこと言ってたぞ」
大豊さんが鹿屋さんに笑いながら突っ込む。
そんな様子を見ながら、僕は少しだけ思う。
(……本当に、慣れたな)
最初に会った頃の緊張は、もうない。
この場所に居るのが、当たり前になっている。
その時だった。
「多紀君」
添島さんが、皆を代表するように一歩前に出た。
「私達の講習は、これで終わりました」
その言葉に、空気が少し引き締まる。
「一度、家に帰ることになりますけど……」
添島さんは一度、後ろを振り返る。
鹿屋さん、一枝さん、大豊さん、豊賀さん。
誰も口を挟まない。ただ、静かに頷いた。
「私達の総意として、これからも多紀君と一緒に活動したいと思っています」
まっすぐな目。
「多紀君の意見を、聞かせてください」
――考える必要は、なかった。
「はい」
自然に、言葉が出る。
「僕の方こそ、よろしくお願いします」
一瞬の静寂のあと。
「やった!」
鹿屋さんが思わず立ち上がる。
「よかった……」
一枝さんが、胸に手を当てて微笑む。
「当然だな」
大豊さんは短く、そう言った。
「よろしくお願いします」
豊賀さんは、丁寧に頭を下げる。
僕は少しだけ驚いていた。
こんなに、喜んでもらえるとは思っていなかったからだ。
「私達は明日の朝、ここを出て一度帰ります」
添島さんが話を続ける。
「それで、月曜日にはまた戻ってくる予定です。今度は、近くのホテルを借りて活動になると思います」
「ホテル……」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で数字が回り始めた。
宿泊費。
食費。
移動費。
(少しでも負担を減らすなら……)
「判りました。それなら、もう少し――」
「多紀君?」
添島さんが、じっとこちらを見る。
「……もしかして、ホテル代のこと考えてます?」
「え」
図星だった。
「えっと……はい」
添島さんは、小さく苦笑する。
「今日以上の収益を出そうとしてますね?」
言い返せなかった。
「ちょっと!」
鹿屋さんが声を上げる。
「あっ彰斗! これ以上はもう無理だからね!」
「え?」
「そんなことしたら、またおんぶさせるわよ!」
「……あ」
思わず口に出る。
「そうか。おんぶすれば――」
「ちょ!」
鹿屋さんが頬を膨らませる。
「冗談ですよ」
僕は慌てて手を振る。
「今日と同じペースで良ければ、今後もそうしましょう」
「……あ~き~と~」
じとっと睨まれる。
それを見て、僕は笑ってしまった。
メディカルセンターのロビーで。
こんなやり取りが出来る日が来るなんて、始める前までは想像もしていなかった。
(独りで頑張るつもりだった)
でも――
(こうして一緒に笑えるのが嬉しい)
明日、皆はいったん帰る。
でも、終わりじゃない。
月曜日には、またここで合流する。
それが、当たり前になる。
僕は、その事実を胸に刻むように、静かに息を吐いた。
2章 完
蓮奈「臨時講師、お疲れ様」
大谷「おつかれ。まさかこんな事で、飲みに誘われるとはな」
蓮奈「まあ、あの子達の事を聞きたかったから」
大谷「なるほど。まあ、最後二日間は俺は空気になってみた」
蓮奈「ちょ! なにそれ」
大谷「いや~あいつら、もう立派なチームになってたからな。任せてみたけど、もう安心だ」
蓮奈「そうなんだ。今後も目を掛けて置くのでしょ?」
大谷「魔眼仲間だしな。そっちはどうなんだ?」
蓮奈「聖女狙いが露骨になってきてる」
大谷「あぁ……養殖が解禁されたようなものだしな……」
蓮奈「上位職到達に向けて、ダンジョンへ一名だけランク外の者を連れて行ける。学者・薬師・魔眼への救済処置のはずが」
大谷「新人聖女の強制レベル上げに使われたからなぁ~」
蓮奈「上も今更、聖女はダメとか言えなくなったし」
大谷「実際、聖女のホーリーヒールがないと、レベル上げも攻略も出来ないからな」
蓮奈「そうなのよね。だからちょっと忙しい」
大谷「そうか。まあ、俺はいつも通りだ。愚痴ならいつでも聞くからよ」
蓮奈「ありがと」




