043
◆大豊真名視点◆
明日で、この合宿講習も終わる。
部屋の中央では、玲子と遥が今日の討伐数ではしゃぎ、弥生は帳簿を丁寧にまとめている。
恵美は、その様子を少し離れた場所から見守りながら、リーダーとして皆の空気を整えていた。
――いつもの光景だ。
私は、その輪に入らず、壁に背を預けて彼女達を見ていた。
今日の成果。
コボルト15匹、ゴブリン24匹。
過去最大。
売り上げは27万5千円。
一人5万5千円。
(中学生が稼ぐ額じゃないな)
そう思うのに、不思議と実感が湧かない。
それはきっと、この数字の“重さ”を、私達がまだ知らないからだ。
(だけど、彼は知っている)
視線の先。
今日も、誰よりも静かに、誰よりも先に前を歩いていた背中。
多紀君。
彼は、何も言わない。
命令もしない。
でも、気付けば私達は「正解の位置」に立たされている。
(魔眼の力だとしても、それをどう使うかは本人次第だ)
魔物の密度が高い場所。
囲まれない位置。
逃げ道が確保できる地形。
玲子達は、気付いていない。
私も、最初は気付かなかった。
でも――
戦闘を重ねるほど、はっきり分かる。
(私達、導かれてる)
スライム狩りの数を減らしたのも。
午後から、完全に私達のペースに合わせてくれたのも。
無償で用意されていたホーリーポーションも。
私達がゴブリンと戦っている間、草原のスライムを狩っていたことも。
全部。
(……全部、私達のためだ)
私達は、恐怖という代償を払ってレベル24になった。
数値だけ見れば、彼より“強い”。
なのに。
(なんでだろうな)
どうしても、勝っている気がしない。
彼は独りでも大丈夫だと、自然に思える。
それが、悔しいほどに。
私は、ふと思い出す。
この合宿に参加した理由。
中学のバスケ部。
恵美はキャプテンだった。
六月の誕生日。
覚醒。
そして――公式戦への出場不可。
世界中で決められたルール。
覚醒者は、運動系の公式大会に出られない。
それがどれだけ残酷かを、私は知っている。
バスケが好きだったから。
一緒にコートに立っていたから。
だから言った。
「もし、私も覚醒者になったら、一緒にハンター講習受けよう」
こんな呪いみたいなものに、負ける訳ないって。
ハンターは、賛否両論の仕事。
命と金を天秤にかける仕事だと言われている。
だから、確かめたかった。
私達の青春を奪った“ハンター”が、
本当に呪いなのかどうか。
結果は――
(皮肉な話だな)
当たりを引いた。
いや、引いてしまった。
多紀彰斗という、規格外。
女の子みたいな顔で。
最初は「鍛えたい」なんて思っていたのに。
共に戦った感触は、違った。
背中を預けられる。
前に立っても、後ろにいても、信頼できる。
(……隣に立ちたい、か)
気付いた時には、そう思っていた。
守られたいわけじゃない。
置いていかれたくもない。
同じ場所に立って、同じ景色を見たい。
だから――
私は、自然と口を開いていた。
「みんな……私達が、この講習に参加した目的、覚えてる?」
視線が集まる。
少しの沈黙。
最初に口を開いたのは、玲子だった。
「……私は、続けるわよ」
「即答だね」
「だって……」
視線を逸らしつつ、玲子は小さく付け足す。
「彰斗と、一緒にやりたいし」
遥が、ふわっと微笑んだ。
「私も……かな。薬、作れるの、楽しいし」
「私もです」
弥生が続く。
「皆さんと一緒なら、不安はありませんから」
恵美は、少し遅れて口を開いた。
「……私も」
「理由は?」
「分かってるでしょ」
強く、まっすぐな目。
「ここまで来て、引き返すつもりはない」
私は、その答えを聞いて、胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。
そして――
じゃあ、私は?
(決まってるだろ)
答えは、最初から一つしかない。
私はハンターになる。
多紀君に出会ったから――だけじゃない。
でも、彼の存在が、大きいのは否定しない。
追いかけたい。
並びたい。
負けたくない。
恋じゃない。
依存でもない。
(戦友、だ)
背中を預け合える関係。
それでいい。
それがいい。
私は、静かに拳を握った。
明日で、この合宿は終わる。
でも――
私達のハンターとしての道は、ここからだ。
イレーザ「リネア様、これが赤い魔石で作られたポーションです」
リネア「分かりました。私の方で調べてみます」
イレーザ「それと、シャニアさんがダンジョンを造る件のご報告は受けていますか?」
リネア「はい。それは嬉しそうに話してましたよ」
イレーザ「ホーリーポーションの方は私達で手配は出来ますが、神代文明の遺産の方については良いのですか?」
リネア「はい。シャニアの判断は間違っていません。これ以上の歪みを抑える為にも、あちら側にも守護者が必要でしょうからね」
イレーザ「シャニアさんに眷属を? ですか?」
リネア「あの子が気に入る者が現れると良いのですが……」
イレーザ「私のように、一から育てるという方法はダメなのですか?」
リネア「どうなんでしょうね~あなたの報告があったから、あのような方法を執りましたけど、今度聞いてみましょう」




