042
僕は、ポーション作りに向かう一枝さん達を見送ったあと、ギルド本部の売店で頼まれていたポーションを買い、活動終了報告を済ませ、装備を預けた後――
目的は、もうすっかり慣れてしまったケーキ屋へ。
同じ店で、三日連続。
(……流石に覚えられてるよな)
案の定、店員さんは苦笑い混じりに声を掛けてきた。
「また、あの方達への差し入れですか?」
「はい、今日もお薦めのセットでお願いします」
◆
オベリスクの裏に回り、転移。
視界が切り替わると、そこは神域管理室。
円卓の上には、既にお茶の準備が整っていた。
「遅いわよ」
腕を組んで待っていたのはシャニアさん。
どう見ても、準備万端である。
「……今日は、まだ何も言ってませんよね?」
「言われなくても分かるの。ケーキでしょ?」
溜息をつきながら、僕は最初に箱を差し出した。
「それじゃあ、先にこれを」
「当然よ」
即答だった。
そのやり取りを、少し離れた位置から見ていたイレーザさんが、静かに微笑む。
「仲がよろしいですね」
「えっ?!」
「当然よ!」
ほぼ同時に、僕とシャニアさんが言った。
「えってなによ!」
「いえ。はい。そうですね」
(……そういえば、シャニアさんには敬語が出ない……良いのかこれ?)
◆
お茶が注がれ、ケーキが並び、ようやく落ち着いたところで、僕は本題に入る。
「これを……」
赤いヒールポーションと、赤いハイヒールポーション。
二種類をテーブルに置くと、イレーザさんの表情が少しだけ引き締まった。
「ありがとうございます。こちらで調べてみます」
「はい。やっぱり、レシピ以外の品だからですよね?」
「そうですね。問題が無ければ良いのですが……」
イレーザさんはポーションを手に取り、静かにテーブルへと戻す。
「昨日のケーキですが――リネア様と一緒に頂きました」
「えっ……?」
思わず声が出た。
「とても喜んでおられましたよ。こちら側の食べ物自体初めてでしたし、しかも甘味物でしたから」
「そ、それなら……もっと良い物を……」
反射的に口にすると、即座に横から声が飛んでくる。
「ちょっと待ちなさい」
シャニアさんだった。
「これより良い物があるなら、次はそっちを持って来なさいよ」
「あ、いえ、別にこのケーキが悪いって意味じゃなくて……」
慌てて弁解する。
「女神様にお渡しする物って、どうしても“お供え”感が強いじゃないですか。だから、普段なら絶対に買わないようなお菓子とか……」
一拍。
そして、予想通り。
「それ、私にも持って来なさい」
「ですよね」
イレーザさんから静かな圧を感じた。
「シャニアさん、リネア様は……シャニアさんが独りでケーキを食べた事を嘆いていました」
「ちょ! 言ったの!?」
「はい」
「……で?」
「前回は、守護者からの頼み事に対してのお礼だったと、私から伝えましたので、お咎め無しです。もちろん、最初のケーキを全部食べた事は話していません」
「ならいいわ……けないでしょうが! そもそも言わなければよかった話じゃん!」
「シャニアさんの行いを報告する役目を頂いてますので」
「……そうなの?」
「はい。休暇中ですが、気に掛けて欲しいと」
「……そう。彰斗」
「はい」
「リネア様に捧げるお菓子はまず私が味見します。なので私の分も用意しなさい」
直ぐに都合の良い理由を作ったシャニアさんに、僕は素直に凄いと思った。
そして、シャニアさんの事をちょっと理解した。
「はい」
「はぁ……」
隣からイレーザさんの溜息が聞こえてきた。
◆
「彰斗」
ケーキを既にいくつか完食したシャニアさんが、少し真面目な顔になる。
「本題に戻るわね」
「はい」
「新しいダンジョンを造ったわ。ホーリーポーションを大量に配布するためのものよ」
「新しい……ダンジョン?」
思わず聞き返す。
「理由は二つ」
シャニアさんは指を二本立てた。
「魔素の流出量が、確実に増えていること」
「……」
「もう一つは、レベル100を超えた者が、出始めたこと」
イレーザさんが補足する。
「処理能力が揃い始めた、という事ですね」
「そう。今が丁度いいタイミングなのよ」
既存のダンジョン構成が頭に浮かぶ。
「レベル80が狼。100が獣魔……ミノタウロスやオーガーでしたよね」
「正解」
そして、シャニアさんは少しだけ、意地の悪い笑みを浮かべた。
「新設は――レベル120」
「……」
「流石にドラゴンは外したわ。代わりに――」
そこで、一拍置く。
「巨人よ」
背筋が、ぞくりとした。
「トロール、ジャイアント、属性巨人」
「……」
「ボスは、原初巨人。力と耐久の塊」
シャニアさんは肩をすくめる。
「力だけじゃ無理。連携も、判断力も要る」
「……選別、ですね」
「そう」
イレーザさんが、静かに言葉を添えた。
「レベル100を超えた“資格者”を、さらに選別する場所です」
シャニア「ふふふ~ん♪」
イレーザ「楽しそうですね」
シャニア「だって、ここなら彰斗の活躍見れるでしょ」
イレーザ「確かに、神器に慣れるのに丁度良さそうですね」
シャニア「でしょ! 驚かせてやるんだから!」




