039
◆ギルド本部◆
ポーション300本の生成を終えた遥達は、買取所の受付員を驚かせた後、ハンター活動終了の報告へと向かった。
全てのハンターは、活動終了後『討伐報告受付』で端末機のロック解除と報告が義務付けられている。
「お疲れ様でした。異変などはありませんでしたか?」
リーダーの恵美が受付員へと報告する。
「はい。ありません。」
その後に、魔石の買い取り受付へと進んで、ハンターとしての一日を終える。
「お疲れ。また明日な」
講師の大谷もまた、ここまでを見届けて、臨時講師としての一日を終える。
「「「「「ありがとうございました。」」」」」
恵美達の揃った挨拶。
日本ハンターギルド中央本部のロビー。ジャージ姿の少年少女が見せるこの風景が、夏の風物詩となってる。
◆
宿泊施設になっている東棟へと続く通路に差し掛かったところで、恵美は足を止めた。
「ちょっと、いいかしら」
声は柔らかい。
だが、呼び止められた瞬間に、背筋が自然と伸びた。
振り返った先にいたのは、二人の女性だった。
アイボリーのワンピースに黒いジャケット。
デニムパンツに淡いオレンジ色のブラウス。
どちらもハンターの戦闘服とは程遠い装いだが、
それが「非戦闘員」を意味しない事は、恵美にもすぐに分かった。
――立ち方が違う。
「……何でしょうか」
恵美が一歩前に出ると、後ろで真名と玲子が半歩ずつ間合いを詰める。
無意識の連携だった。
アイボリーの女性が、ゆっくりと微笑んだ。
「警戒しなくて大丈夫よ。勧誘でも、叱責でもないわ」
そう前置きしてから、静かに名乗る。
「私、〈華燐〉のマスターを務めている紫苑と申します」
恵美たちの間に、わずかなざわめきが走った。
〈華燐〉。
名前だけなら聞いた事がある。
女性限定、しかも五十名規模のクラン。
隣の、オレンジ色のブラウスの女性が続ける。
「サブマスターの柚月よ。突然声をかけて悪かったわね」
その視線が、五人を順に一度ずつなぞった。
値踏みではない。
だが、確かに“見ている”。
「……それで、ご用件は」
恵美が問い返すと、紫苑は一瞬だけ視線を伏せた。
「今日の買取所での一件。ポーション300本」
「……」
「貴女達は多くのハンターから注目されています」
くすり、と小さく笑う。
「若い女性だけのパーティーで、あの量を、あの安定度で回している。私達が興味を持たない方が失礼でしょう?」
玲子が、思わず恵美を見る。
恵美は一度、深く息を吸った。
「私たちはただ、ある人の縁で……」
「ええ、承知しています」
紫苑は遮らない。
「だからこそ、声をかけました」
視線が、今度は恵美だけに向けられる。
「添島さん。あなた、いいリーダーですね」
「……っ」
「前に出すぎず、引きすぎない。仲間の立ち位置をよく見ている」
それは、的確すぎる評価だった。
「今日は、それだけ伝えたくて」
そう言って、紫苑は一歩引く。
「私たち〈華燐〉は、女性ハンターの受け皿です。
戦い方も、生き方も、ひとつじゃない」
柚月が肩をすくめる。
「無理に混ざれ、なんて言わないわ。
ただ、知っておいてほしいだけ」
「選択肢は、最初から多い方がいいでしょ?」
恵美は、少しだけ迷ってから、頭を下げた。
「……ありがとうございます」
紫苑は満足そうに微笑む。
「今すぐの返事はいりません。
迷った時に、思い出してもらえればそれで」
二人は、それ以上何も言わず、静かに通路を去っていった。
残された恵美たちは、しばらく動けなかった。
「……すごい人たちだったね」
玲子が、ぽつりと呟く。
「うん」
恵美は、胸の奥に残る感覚を噛み締めながら、そう答えた。
圧迫ではない。
勧誘でもない。
ただ――
“こんな道もある”と、示された気がした。
リネア「アステリオン様、あちらの世界で、あの赤い魔石で回復薬を生成したそうです」
アステリオン「やはり、科学で理を得るのですね」
リネア「それで、現物を取り寄せる手筈になっています」
アステリオン「どういう結果になっているのか、興味があります」
リネア「はい。お願いします」




