034
◆多紀彰斗視点◆
スライムの森での作業は、もう完全に日課になっていた。
魔眼を使い、魔核を締める。
倒れたスライムから魔石を回収する。
それを繰り返すだけ。
危険は、ほとんどない。
……はずだった。
魔眼の視界に、スライム以外の反応が映る。
小柄な影。
コボルトだ。
僕は討伐に向かった。
(……やっぱり、増えてきてるな)
でも、それ自体は“異常”じゃない。
それを、僕は知っている。
イレーザさんから聞いていた。
スライムの森は、六年前までは普通の狩場だったと。
シャニアさんが昼寝をして、巨大スライムが生まれる以前。
ここは、コボルトも、ゴブリンも、当たり前に徘徊する場所だった。
巨大スライムが放つ膨大な魔力が、弱い魔物を無意識に遠ざけていただけ。
だから、スライムしかいない森になっていた。
つまり――。
(今の状態が、本来の姿)
数日のうちに、元に戻る。
それも、聞かされていた。
でも。
それを知っているのは、僕だけだ。
ギルドですら、なぜスライムばかりになったのかを把握していない。
(正しい変化でも……僕が困る)
大谷さんや、添島さん達の事が頭をよぎる。
このまま魔物が混じる状態が公になれば、ソロ活動は止められる。
足を止めずに、考える。
答えは出ないまま、スライムを狩り続ける。
次に魔眼が捉えたのは、緑色の影だった。
「……ゴブリンも居るのか」
思わず、溜息が漏れる。
完全に移行段階だ。
(何か……出来る事は)
唐突に、あの巨大スライムの姿が浮かんだ。
シャニアさんの魔力を吸って、膨れ上がったあれ。
(魔力を吸ったから、巨大化した)
(だったら……与えたら?)
試すしかない。
周囲を確認して、スライムに魔力を流し込んだ。
――破裂した。
「あ……」
完全にやり過ぎた。
反省しながら、二度目。
今度は、細く、慎重に。
僕の魔力を吸収しているのが視える。
でも、大きくはならない。
(……時間が必要か)
そして、すぐに気付く。
そんな時間は、無い。
巨大スライムにするには、たぶん魔力を与え続けなけばならない。
片手間で真似出来るものじゃない。
(無理だな)
はっきりと諦めた、その時。
足元に、ぷに、とした感触があった。
魔力を与えたスライムが、擦り寄ってきている。
(……可愛いな)
でも、これは収入源だ。
「魔力を食べるなら……赤い魔石も?」
コボルトの魔石を、そっと頭に乗せる。
反応は、無かった。
「……分からないな」
気持ちを切り替える。
とりあえず、今日の分だ。
昨日の150個はヒールポーション用。
今日の150個はマナポーション用。
一枝さんの負担を減らす為に、今日は一時間早上がりになる。
それと、小さな怪我も直して欲しくて、ホーリーポーションを彼女達に使って貰ったから、また補充用に30個
魔眼を使って進んでいると、境界線付近で反応を見つけた。
ハンターだ。
その手前、スライムの森の中に魔物。
もう、討伐に向かっての移動を始めている。
(……もう、隠せないな)
僕は、隠蔽を諦めた。
◆
昼休憩。
SNSで連絡を取り合うのも日課になっていた。
予定通り、14時までに150個集まる事と。
大豊さんの大剣の手応えを聞く。
返ってくるのは、いい報告ばかり。
少し、安心する。
続けて、スライムの森にコボルトとゴブリンが侵入している事を伝えた。
すぐに、心配の返信。
(玲子)『危ないわよ。今日はもうやめたら?』
『大丈夫です。魔眼で接敵しないようにしてますので』
(恵美)『常に魔眼は使えないでしょ。無理しないで』
(遥)『魔力切れを起こす前には、必ず撤退してくださいね』
『了解です』
◆
180個と、神器の弾丸用の10個を余分に集めたのが13時40分。
僕は停留所のあるキャンプ地へ向かう途中、空を見上げる。
ギルドの偵察機が、スライムの森の上空へ入っていくのが見えた。
「……明日から、どうしようかな」
答えは、まだ出ない。
シャニア「彰斗は、スライムになにやってるのよ」
イレーザ「魔力を与えて大きくしたいみたいですね」
シャニア「で、あなたは休暇中でしょ。彰斗が来る時間は夕方なんだから、早過ぎ!」
イレーザ「休暇ですから、彰斗を眺めに来たのです」
シャニア「あっそ!」
イレーザ「実際に、スライムがあれほど肥大するなんて知りませんでした」
シャニア「私も知ってたら、枕なんかにしないわよ」
イレーザ「あれ、再現できますよね?」
シャニア「出来ると思うけど、私はもう無理よ? リネア様に頼まれても嫌!」
イレーザ「ずっと寝られますよ?」
シャニア「仕事中に寝るから良いのよ! 寝るのが仕事は嫌! 楽しくないでしょ!」
イレーザ「確かに……」
シャニア「試すなら、別の使徒を使えばいいじゃない? あっちでフラフラしているのが多少いるでしょ?」
イレーザ「……そうですね。彰斗はスライムだけの狩場を望んているようですし、リネア様に相談してみます」




