033
◆添島恵美視点◆
ブラックホーンボアの一件から一夜明けても、私の中の感覚はまだ落ち着ききっていなかった。
レベルが上がった。確かに、それは嬉しい。けれど、身体がそれに追いついているかと聞かれたら、正直に頷けない。
そんな私達の様子を見ていたのだろう。
朝の打ち合わせで、大谷さんは少しだけ言葉を選びながら話を切り出した。
「レベルは上がったがな。だからって、いきなり無茶をする必要はない」
私達全員を見回し、大谷さんは続ける。
「講習はまだ残り3日ある。この3日は、格下のゴブリン相手に、連携と戦闘感覚を固めるのはどうだ?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かがすっと収まった気がした。
真名も、迷うことなく頷く。
「うん。私も、それがいいと思う」
「私も賛成です」
声に出してそう言いながら、私は内心でほっとしていた。
強くなった、というより――変わってしまった。
その感覚を、ちゃんと確かめる時間が欲しかったから。
「それとだ」
大谷さんが真名の方を見る。
「大豊。大剣を試してみないか?」
「……え?」
一瞬、真名は目を丸くした。でも次の瞬間、その表情がぱっと明るくなる。
「試したい!」
即答だった。
真名らしい、と私は思う。確かに大剣の方が彼女の動きに合っている。
◆
狩場はスライムの森の東側。
いつも通り、多紀君を誘って車に乗り込む。
移動中、大谷さんは多紀君に、昨日の件と私達のレベルが上がっていた事、今日はゴブリン狩りで調整をする事を説明した。
「いきなりの大剣ですか?」
多紀君は少し心配そうだった。
「ああ。力が付いたからレイピアじゃ役不足だ。そして剣と盾はな、大豊の性格的に難しい。
それで、受けも出来る大剣だ」
その説明に、多紀君も納得した様子で頷く。
真名は、前向きな笑顔を浮かべていた。
◆
スライムの森で多紀君を降ろし、そこから車で少し東へ。
開けた草原で車が止まる。
大谷さんが真名に渡したのは、黒一色のクレイモアと呼んでいる剣だった。
長い刀身と、重厚な造り。
「……黒」
真名が小さく呟く。
「ああ。切れ味が一番落ちない色だ。サイズも、これが一番合ってる」
「……それなら」
真名はそう言って、剣を構えた。
次の瞬間、大剣が滑らかに振るわれる。
重さを感じさせない、流れるような動き。
私は思わず、見惚れていた。
「急激なレベルアップは感覚を狂わせる」
大谷さんの声で、我に返る。
「今日は、それを克服するぞ」
「「「「「はい」」」」」
自然と、背筋が伸びた。
◆大豊真名視点◆
ゴブリンを見た瞬間、正直に言えば少しだけ身構えた。
レッサーゴブリンより一回り大きい。
でも――。
(……怖くない)
ブラックボーンボアの、あの圧倒的な威圧感。
それに比べたら、目の前のゴブリンはずっと軽い存在だった。
大剣を振り下ろす。
重い。けど、思ったほどじゃない。
刃が当たった感触は――あっけないほどだった。
一振り。
ゴブリンは、真っ二つに倒れた。
「……え」
思わず声が漏れる。
自分がやった事なのに、実感が追いつかない。
次も、その次も。
同じだった。
(ステータスって……こんなに違うんだ)
高揚が、胸の奥から湧き上がる。
「過信はするなよ」
大谷さんの声で、頭が冷えた。
「……はい」
そうだ。
調子に乗ったら、きっと足元をすくわれる。
「それじゃあ今日は、ロレの実とロナの実を集めるぞ。それぞれ150個だ」
その言葉を聞いて、ふと、多紀君の事を思い出す。
彼は、いつも通りだった。
何があっても、変わらない。
それが、なんだか可笑しくて。
私は、少しだけ笑った。
鹿屋玲子「威力が凄いんですけど!?」
大谷「だろ。だから空撃ちさせたんだ。命中率が安定するまで後方からの援護射撃は禁止」
豊賀弥生「私の強化魔法は?」
大谷「これだからな。まずは全員が素の力に慣れてからにしてくれ。危ないからな」
一枝遥「先生、何故か……ゴブリンの動きが遅く見えます」
大谷「あー。視覚や聴覚も上がるからな。特に集中している時にそう感じる。だから、集中して感覚を覚えろよ」
添島恵美「真名が一人で全部倒してますけど……」
大谷「今日は大豊と添島を交互にメインアタッカーを変えて訓練。鹿屋も初撃アタックを今日から覚えるぞ」




