表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/107

032

◆鹿屋玲子視点◆

 

 『聞き取り課』の人達は、思っていたよりずっと淡々としていた。


 質問は必要最低限。

 車が襲われた状況、見た魔物の特徴、怪我の有無。

 こちらが答えると、特に深掘りもされず、淡々と記録されていく。


 ……正直、拍子抜けするほど、あっさりだった。




「以上です。ご協力ありがとうございました」


 それだけ言って、聞き取りは終わった。


 なのに、胸の奥に残るこの感じは、何だろう。


 車が止まった、あの瞬間。

 スマホ越しに聞こえた、彰斗の声。


 ――『あっ』


 ただの偶然かもしれない。

 衝撃で、何かが聞こえたように感じただけかもしれない。


 確証なんて、どこにもない。


 それでも——

 これは、口に出してはいけない事だと、はっきり分かっていた。


 理由は説明できない。

 でも、本能的に感じた。


 だから私は、何も言わなかった。

 平静を装って、皆と一緒にその場を後にした。


 


「まあ……俺達にも、さっぱり分からない事だったしな。

 とりあえず、気持ちを切り替えて行こう」


 少し重たい空気の中で、大谷さんがそう言って場を締めた。


 誰も反論しなかった。

 たぶん、みんな同じ気持ちだったんだと思う。




 大谷さんは、床に置かれていたバスケットボールくらいの赤い魔石に視線を向ける。 


「それでだ。

 こいつを換金してこい。

 これは、お前達の物だからな」


 一瞬、言葉が出なかった。



「でも……」

 恵美が、少し戸惑いながら口を開く。


「大谷さんも一緒にいましたよね?

 それなら……大谷さんの分も……」


 大谷さんは、首を横に振った。


「いや。俺は今、臨時講師って立場で、お前達と行動してる。

 ギルドから正式に依頼された臨時講師は、その期間中に得た報酬の権利は無い。決まり事だ」


 そう言って、手をひらひらと振る。


「ほら、行った行った。

 この後もちょっとやる事がある。とっとと済ませてこい」


 その仕草に押される形で、私達は魔石を持って動き出した。


 


 入口から、恵美が大きな赤い魔石を両手で抱えて歩く。

 どうしても目立ってしまって、周囲の視線が痛い。


 私達は少し萎縮しながら、買い取り窓口へ向かった。


「ブラックホーンボアの魔石……確認しました」


 受付の人は、淡々とそう告げる。


「規定通り、70万で買い取りいたします。レッサーゴブリンの魔石代合わせて、                      

 チーム添島のパーティーメンバーの口座へ振り分けます。

 皆様、ギルドカードの提示をお願いします」


 一瞬、誰も声を出せなかった。


 ……70万円。


 金額が大きすぎて、驚きの声すら出てこない。


 みんなで顔を見合わせてから、ぎこちなくギルドカードを差し出した。


 


 その様子を、少し離れた場所から大谷さんが眺めていた。


「じゃあ、次だ。外に出るぞ」


 目的地も告げられないまま、私達はギルド本部の外へ連れ出される。


 


 オベリスクの前で、大谷さんは足を止めた。


「ここで、ステータスを確認してみてくれ。

 それと、何があっても声を出すなよ。

 さっきみたいに、静かにな」


 ……その言葉で、察した。


 もしかして。

 あの魔物の経験値が、入っているのでは。


 


 静かに、ステータスを確認する。

 

 表示された数字を見た瞬間、息が止まった。


 レベル24。


 全員、同じ数字だった。


 つい昨日まで、レベル8だったはずなのに。


 大谷さんも、自分のステータスを確認してから、低く息を吐く。


「……やっぱりな。俺も1つ上がってる」


 そして、ぽつりと呟いた。


「明日からの活動……考え直さないとだなぁ」


 その意味を、正直、私達はまだ理解できなかった。


 ただ、世界が少しだけ、違って見えた。


 



 宿泊部屋に戻ると、自然とみんなで集まった。


 誰かが仕切るわけでもなく、輪になって座る。


 


 レベルが上がった事への戸惑い。

 嬉しさ。

 それと同じくらい、はっきりとした魔物への恐怖。


 


「……これから、どうするんだろうね」


 


 誰かの呟きに、誰もすぐには答えなかった。


 


 しばらくして、私が小さく口を開く。


 


「……彰斗が……」


 その名前を出しただけで、不思議と気持ちが落ち着いた。


 恵美が、みんなを見渡して言う。


「今は……多紀君との関係を続けよう。

 私達が、どこを目指すかは、まだ決めなくていいと思う」


 全員が、静かに頷いた。


「……そうだね」


 

 その時。


 

「ちょっと待って」


 

 弥生が、にやりと笑う。


「鹿屋さ。

 さっきからずっと、多紀君の事『彰斗』って呼んでない?」


「……っ!?」


 一気に顔が熱くなる。


「い、いいでしょ! 別に!」

「へぇ~?」


 部屋に、少しだけ軽い空気が戻った。


 

大谷『蓮奈か。どうした?』

蓮奈『ブラックホーンボアに襲われたって聞いたけどホント!?」

大谷『あぁ、もう広まっているのか。全員無事だぞ。多紀は別の場所に居たからそもそも関わってない』

蓮奈『貴方は!』

大谷『無事だ。まあ、無事だった理由が意味不明なんだけどな』

蓮奈『それなら良いわ。それで今日の夜、暇?』

大谷『飯か。良いぞ。臨時講師中だから飲めないけどな』

蓮奈『それでいいわ。じゃあ、迎えに来て。私は飲むから』

大谷『判った』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ