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◆多紀彰斗視点◆
ホームに着いた僕達を出迎えたのは、ギルド直属の『聞き取り課』という、なんともラフな感じの名前の人達だった。
ブラックホーンボアの当事者として、大谷さん達から話を聞くらしい。
僕はただの同乗者という扱いで、事情聴取には参加しないとの事で、そのまま帰る事になった。
「皆さん、また明日」
「うん。またあしたね」
「またね」
「気を付けて」
「……ありがと」
軽く手を振って別れる。
帰りの車内で聞いた話では、ロレの実のほとんどが傷付いたり潰れたりしてしまったらしく、今日のポーション作りは延期ににした。
まあ……正直、今の心境でポーション作りなんて無理だったと思う。
ロレの実が無事でも、きっと延期していただろう。
代わりに、おやつとして食べられそうな物を三個だけ分けてもらった。
(……そうだ。イレーザさんに感謝を伝えないと)
守護者としての面倒事は一旦置いておくとしても、神器があったからこそ助ける行動が出来たのは事実だ。
それに、真眼を得られた事も大きい。
……ん?
レベルが一気に194になったのはシャニアさんのおかげ?
巨大スライムの経験値は、シャニアさんの行動がきっかけだったし……そもそも、シャニアさんが昼寝していなければ、僕が神器を授かる事もなかった。
(じゃあ……イレーザさんとシャニアさん、両方に感謝、かな)
イレーザさんの眷属になった事で、僕はオベリクスに触れると、ステータス画面とは別の表示が同時に現れるようになった。
それは、オベリクス内部にある、管理者の仕事場兼生活空間――《神域管理室》への転移項目だ。
ただし、注意点が一つある。
端末機の機能をオンにしたままだと、GPS情報やバイタルサインが突然消える事になる。
だから僕は、転移する時は必ず、武器庫受付で端末機を武器と一緒に預ける事にした。
僕の武器は購入時の状態のままの栗拾いトングだから、本来は預ける必要はないのだけど、毎回持ち歩く手間を考えると、預けた方が楽だ。
それに、端末機の紛失が怖いと大谷さんに相談したところ、武器と一緒に預ける人も多いと教えてもらった。
今回の魔石も一緒に保管した方がいいと言われ、銀行の貸金庫みたいなものだと思えばいい、と。
帰り支度を済ませた後、僕が向かったのはフードコートにあるケーキショップだった。
もちろん持ち帰り用で、イレーザさんとシャニアさんへのお土産だ。
「いらっしゃいませ。どれになさいますか?」
可愛い制服を着た店員さんの笑顔に会釈で返し、僕はガラスケースを覗き込む。
「お薦めのケーキを六種類。それを二セットお願いします」
「当店のお薦め品を同じ内容で二箱、お作りする形でよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「畏まりました」
こうしておけば、「お店のお薦めです」と言える。
相手に好みじゃない物があったとしても、受け取った側は「これは苦手」と伝えやすいし、贈った側も次の参考になる。
営業マンだった父から教わった、小さなテクニックだ。
◆
ギルド本部の入口から見て、オベリクス側を正面。
ステータスボードの台座がある関係で、自然とそうなっている。
その裏に回り、人の視線が無い事を確認してから、僕はオベリクスに触れた。
一瞬、足元が抜けるような浮遊感。
次の瞬間、視界が切り替わる。
白と金を基調にした、静かな広い部屋。
オベリクス内部に存在する管理者領域――《神域管理室》。
「……あ、来た」
声の方を見ると、長いソファに足を投げ出したシャニアさんが、光の板のような端末を操作していた。
「お邪魔します。シャニアさん」
「はいはい。で、その箱はなに?」
……視線が完全にケーキ箱に向いている。
「地球のお菓子です。口に合うか分かりませんけど」
「甘い?」
即答だった。
「たぶん、甘いです」
「たぶんって何よ」
箱を開けた瞬間、ふわっと甘い匂いが広がる。
「わぁ……見た目からして柔らかそう……!」
シャニアさんは迷うことなく一つ手に取り、口に運んだ。
「……っ」
一瞬の沈黙。
そして、表情がぱっと明るくなる。
「なにこれ……美味しい……!」
二口、三口とあっという間に食べ終える。
「スポンジがふわふわ……クリームも軽い……。マナベリーの果実には劣るけど、これはこれで良いわね」
気に入ってもらえたようで、正直ほっとした。
「これなら、いくらでも食べられるわ」
そう言って、二個目に手を伸ばす。
「……シャニアさん。今日はそれだけじゃなくて」
「あ、そうだった」
完全に忘れていたらしい。
僕は、今日起きた出来事を簡単に説明した。
ブラックホーンボアの出現。
仲間の車が襲われた事。
神器のスコープを使い、真眼と未来予測で魔核を撃ち抜いた事。
「それで、お礼を言いに来ました。神器を授けてくれて、ありがとうございました」
シャニアさんは最後の一口を飲み込んで、ふうと息を吐く。
「まあ、そのクラスの魔物が出るのは自然なことよ」
「……そうなんですか?」
「頻繁じゃないけどね。世界の歪みの規模から、あの程度は出る」
少し考えて、僕は言った。
「……ここが、そういう世界だとは知りませんでした」
「でしょうね」
肩をすくめるシャニアさん。
「たぶん、情報操作されてるわ」
「情報操作……?」
「危険だって分かったら、やる人は減るでしょ? でも、この世界を守るには、その役目を引き受ける人が必要なの」
「……だから」
「隠すのよ」
淡々とした声だった。
「ちなみに、イレーザは今いないわよ」
「え?」
「管理者補助の解任。と言えばあれだけど。まあ、功績からの休暇。長期のね。今は私が一人で管理してる」
なるほど、だから姿が無かったのか。
「じゃあ、このもう一箱は……」
「明日も持って来なさい。イレーザに渡すから」
……本当でしょうか。
「ここで嘘を言っても、後で聞いたらすぐ分かりますよ?」
「分かってるわよ……ちゃんと渡すから。明日ね」
その言い方で、だいたい察した。
「……分かりました。じゃあ、また明日」
「ええ。明日も来なさい」
やっぱり、それが目的だった。
僕は苦笑しながら、転移を選択した。
イレーザ『今、そちらに彰斗が来てませんか?』
シャニア『さっき帰ったわよ』
イレーザ『どうして連絡してくれないのですか!』
シャニア『明日も来るって。じゃあね』
イレーザ『はぁ…判りました』
シャニア(さて……これで残りのケーキも私の物~)




