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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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◆統括指令室◆


 日本中央ギルド本部、

 その中央に位置する統括指令室は、普段は静かに任務が進む場所だ。


 だが今は違う。

 警報を示す赤いライトが室内を照らし、正面の大型モニターには巨大な魔物の映像が映し出されていた。


「ブラックホーンボアの出現を確認! 周辺のハンターに緊急警報、すでに送信済み!」

「偵察ドローンGDR-02、対象を追跡中……現在進路は2の八へ!」

「……待ってください、車が一台、進路予想上を走行中!」


 

 オペレーターたちが声を荒げるたび、室内は不穏な空気で満たされていく。


 巨大な黒い獣が木々を押しのけ、走り、地面をえぐり、そして——


「っ、衝突します!」


 乗用車の横へぶつかり、牙が突き刺さった。


「助手席部が大破の模様! 」

「対象は進路を変えず移動! まもなく2の七に入ります!」

「車体はそのまま並走しています! これはボアの牙が引っ掛かっているようです!」


 焦りに満ちた声が飛び交うその中心で、ひとりだけ落ち着いている人物がいた。


 

 ギルド統括指令室総司令

 安藤 将司(58)Lv68《学者》

 

 背筋の伸びた中年の男。

 白髪が混じる髪を短く整え、眼鏡の奥で冷静な目が画面を追う。


 かつて自衛隊の情報幕僚として長年任務にあたってきた男。

 その昔、東円寺慶の上官だった人間だ。


 東円寺がギルドに呼ばれる際、安藤もまた推薦され、

 そして今の総司令の椅子に半ば押し込まれた。


「ふむ……接触時に回避して衝撃を最小限に……良い腕ですね。臨時講師の、魔眼の大谷ですか」


 淡々とした口調とは裏腹に、その目は鋭い。

 

「車体が加速した模様! 前方の森へと進路が変わりました!」


「これは……森の樹々にぶつけて止める作戦ですね」




「映像に乱れ!」


 次の瞬間だった。


 ブラックホーンボアの巨体が、何かに弾かれたように揺らいだ。


 


 そして—— 消えた。


 


「総司令! 対象が……消滅しました!!」

「ログに攻撃反応がありません!」

「な、何が起きたんですか……!?」


  室内が騒然とする。

 安藤は深い溜息をひとつつき、椅子を回した。

 


「——で?」


オペレーター達「……え?」


「調べたいんですか?」


室内が静まる。


「いいですよ。ですが、原因究明まで残業です。

 徹夜も覚悟してください。

 今日だけじゃ終わりません。……どうします?」


 沈黙が落ちた。

 そして、一番年下のオペレーターが叫んだ。


「み、見なかったことにしましょう!!」


「賛成!!」

「異議なし!!」

「自然消滅ってことで!!!!」


 安藤は満足げにうなずいた。


 

「よろしい。自然消滅で処理します。

 ただし、現場への事情聴取は必要です。

 ——追及はしません。彼らは被害者でもあるのですから」


「了解しました! 案件六課を向かわせます!」



 『特別案件聞き取り課(案件六課)』

 重大事案を「深掘りしない」専門班だ。

 安藤の直属で、火消しとしては最強の部署である。



 


◆スライムの森の南の草原◆

 

 衝撃で横転した車。

 ブラックホーンボアが消えた後、大谷修司は車を無理やり起こし、エンジンを掛け直す。


「動く……よし。帰るぞ」


 助手席側のドアは消え、フロントガラスはほぼ無い状態。

 けれど走れる。

 それが今は重要だった。


 


 恵美も、真名も、弥生も、遥も、玲子も——

 極度の恐怖から解放され、全員ぐったりと座席に沈み込んでいる。


 誰も喋らない。

 喋れる状態ではなかった。



 


 

 停留所に到着した瞬間、

 そこに立っていた彰斗が走り寄った。


「皆さん!! 大丈夫ですか!?」


 その声を聞いた瞬間——

 少女たちの目に涙が溢れた。


「……あきと……!」

「多紀君……!」

「多紀君の姿見たら……なんか……」


 彰斗の方も、目が真っ赤だった。


「……生きてて……よかった……本当に……」


 十五歳の少年少女。

 そこにいたのは、ただ必死で生き延びた子供たちの姿だった。

 


 


 

 助手席はドアが消えていて危険なため、

 彰斗は三列目中央に乗ることになった。


「椅子はあるので大丈夫ですよ?」

「ダメ!!」

「危ない!!」

「後ろに来て!!」


 

 女子五人の総攻撃で即却下。


 最終的に——


 多紀は三列目中央、左右に玲子と遥。



 恐怖が抜けきらない二人は、

 彰斗の腕にそっと腕を回し、身体を寄せてきた。


 けれど多紀は何も言わなかった。

 二人の震える手をそっと握る彰斗。

 彼女たちがどれだけ怖い思いをしたか、彰斗はその瞳で見ていたのだから。


 真名・恵美・弥生も、何度も振り返っては心配そうに見つめる。


 恵美は大きく深呼吸をして、ようやく力を抜いた。


 

 大谷は前を見たまま、低い声で言った。


「ガラスが無いから速度は出せない。ちょっと遅くなるが、落ち着くのに丁度いいだろう」


 

 車はゆっくり、静かに森を離れていく。


 


 


◆統括指令室◆

 

「総司令、案件六課が当事者達の所へと向かいました」

「うむ。よろしく頼むと伝えろ」

「追及は……」

「しない。いいですね?」

「了解です」


 安藤は立ち上がり、伸びをした。


「さて。今日も定時ですね」


 その言葉に、指令室の空気が少しだけ明るくなった。

◆案件六課◆

課長「上からの指令だ」

部下1「対象は?」

課長「新人講習中の15歳の少女5名と講師1名。現場状況の聞き取りだ。詳細はそれ」

部下2「なるほど、うちの管轄ですね」

課長「そういう事だ。よってこの件は私と三宅、橘の3名で向かう」

部下1「どうしてですか! この部署暇なんですよ! 仕事くださいよ!」

課長「未成年者の、それも女の子にお前の顔を見せられるか! 泣くわ!」

部下2「あの……俺は?」

課長「自分の胸に聞け」

部下2「あっ……はい」

部下1「毎回毎回、女性に個人情報を聞き出すお前が悪い」

部下2「それで合コン行けたじゃないですか! 楽しかったでしょ!」

部下1「まあな……」


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