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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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029

◆多紀彰斗視点 ◆

 

 スライム狩りを終えた僕は、停留所横の休憩施設の外にいる。

 届いたばかりのメッセージを確認しようとスマホに手を伸ばすと――


 左腕の端末機が、耳をつんざくほどの警報音を発した。


《3の九にブラックホーンボア出現。周囲で活動中の者は直ちに避難》


「僕よりもみんなの方が近い……」


 胸が冷たくなる。

 すぐにスマホが着信し、通話の画面に鹿屋さんの名前が表示された。


「はい! 鹿屋さん。 どうし——」


 言い終わる前に、悲鳴がスマホを突き破った。


「きゃああああっ!!」

「待ってやだ!!」

「揺れてるっ!!」


「鹿屋さん!? みんな!? どうしたんですか!」


 反射的に叫んでいた。


「た、多紀君! 車に! 車に魔物が!!

 おっきな牙が……刺さって……振り回されて……!」

「大谷さんが森に逃げろって言ってるから! 多紀君、すぐ離れて!!」

 添島さんの声が混ざる。


 胸が張り裂けそうになる。

 落ち着け、と言い聞かせながら、僕は建物の屋上へと飛び上がり、神器を顕現させた。

 

 魔眼の有効距離は1km。そして真眼の有効射程距離は目視が可能な範囲が追加される。 つまり、イザーラさんから授かった神器のスコープを覗けば、その距離は飛躍的に伸びる。 そして神器のスコープは、現代機器のそれとは違い、空気の揺らぎも光の減少もなくクリアに見える。 しかも、倍率は僕が願った距離へと変動。 結果、遮蔽物が無い場所では、遥か遠くまで視る事が出来る。


スコープを覗く。

 視界が一瞬で歪みなく伸び、草原の奥、遥か地平まで射抜くように届く


(……見つけた)


  未来予測と真眼が同時に走り、視界が草原の先の目標物を捉える。

 信じられない速度で地面を削り、乗用車を引きずって疾走する黒い巨体――ブラックホーンボア。


(まだ……軌道が重ならない……!)


 撃つべき急所は、額の奥にある魔核。

 だが着弾の未来が視えない。

 未来予測は数秒先までしか視えないため、まだ交点が届かない


 猪と着弾の未来の軌道が重なる“その瞬間”を待つしかない。


  スマホから、震える声が届いた。



『たすけて……あきと……』 

(……もうすこしで……)


  交点が重なった。


 (――今だ)


 神器から解き放たれた青い閃光は、空気を裂き、一直線に目標へと走った。

 前回は反動で僕の肩が大きく揺れていたけど、レベルが上がったからか、軽い衝撃で収まる。


 


 次の瞬間、未来予測が一気に更新された。

 視界に重なるように“車の未来”が映る。


 ブラックホーンボアの魔核に着弾。

 直後に巨体が崩れ、暴走が止まる。

 そして、今度は急激なブレーキとなった肉の塊が、車のバランスを崩す。


(……やばい……!)


 ブラックホーンボアが消滅した反動で、車が横倒しになる映像がはっきり視えた。


「……あっ」


 思わず声が漏れた。

 未来の中で車がひっくり返る瞬間が、あまりにも生々しかったからだ。


(でも……!)


 怪我はする。

 だけど命に別状はないはず。

 ホーリーポーションがある。

 大丈夫だ……大丈夫だと、自分に言い聞かせる。


 それでも、心臓が早鐘のように鳴っていた。

 膝が震え、手から汗が落ちる。


「くそ……っ……!」


 撃った反動ではない。

 恐怖だ。

 僕が撃ったことで、みんなが怪我をする。

 その“事実”が、胸を締めつけた。


 「助けた」という事実と同時に

 「傷つけた」という感覚が、喉を焼いた。


(……早く……早く……!)


 未来予測が示すタイミング――


 あと1秒で衝撃。

 0・5秒、0・3秒――


「っ……!!」





 停留所の向こう、草原の奥から

 地面が割れるような轟音が響く。


 僕は歯を噛み締めた。

 その衝撃音と同時に、スマホ越しに複数の悲鳴が飛び込んでくる。


 


「きゃああああっ!!」


「いやっ……!!」



 肺の奥が痛いほどに締め付けられた。

 未来予測で視えていた“横転の瞬間”が、現実の音として届く。


 心臓が、跳ねた。


「鹿屋さん!? 皆さん!? 大丈夫ですか!!」

 



◆ 鹿屋玲子視点 ◆

 


 車が急に揺れた瞬間、私は落としたスマホを拾おうとして、画面に親指が触れた。

 そのまま通話がつながり、多紀君の声が飛び込んできた。


 


『鹿屋さん!? みんな!? どうしたんですか!』


 


「多紀君! 車に! 車に魔物が!!

 牙が刺さってっ……怖い……どうしよう……!」


 


 車体がグラグラと揺れる。

 外では地面を削る轟音。

 隣では恵美たちが悲鳴をあげている。


「大谷さんが森に逃げろって言ってるから! 多紀君、すぐ離れて!!」


 

 恵美の声がスマホに混ざる。

 でも、多紀君の声は震えていた。


 『みなさんは!? 無事ですか!?』


「ぶ、無事じゃないっ……車が振り回されて……

 たすけて……あきと……」





『あっ』


 それは、終わらない恐怖から目を逸らしていた時

 

「……えっ?」


 多紀君の、小さな声。

 でも、聞き間違いじゃない。


 その直後だった。


 ドゴォォォォンッ!!!


「きゃああああああっ!!」


 


 車が跳ね上がり、横転した。

 身体が横に投げ出され、痛みで涙が滲む。


「鹿屋さん!? 皆さん!? 大丈夫ですか!!」


 体勢を整えるのもやっとの状態で、スピーカー越しに私は応えた。


「私は無事! みんなも……!」


 恵美達も震える声で、多紀君へと声を届けた。


 


◆ 大谷修司視点 ◆

 


 くそ……これはまずい。

 ボアの牙が助手席から突き破り、フロントガラスまで砕かれている。


(3列目にドアはねぇ……

 そうじゃなくても、飛び降りるなんて無理に決まってる……!)


 時速100キロ近い暴走。

 車は引っ掛かった牙でボアに引きずられている。


(目を狙えれば……だが角度がねぇ……!)


 このままじゃ全員が死ぬ。

 だが止まる手段は、正面の森しかない。


(あそこは……多紀がいる……!

 頼むから巻き込まれるなよ……!)


「全員!! しっかり掴まってろ!!

 必ず助ける!!」


 叫びながら、アクセルを踏み込む。

 ボアに主導権を握らせないためだ。


 


「鹿屋!! まだ多紀と繋がってるか!?

 繋がってるなら伝えろ!!

 猪を森にぶつける! 避難しろ!!」


 少女たちの悲鳴が車内に響く。

 俺は歯を食いしばり、ハンドルを押し返し——


(持ってくれよ……!)




 ――車体が軽くなった。


 ボアの気配が、急に消えた。


(なんだ!?)


 その直後、車は横に滑り、横転した。


 


 


◆鹿屋玲子視点◆

 


 車から外へ出たとき、私は足が震えていた。

 土や草の匂い、焦げ臭い風。

 みんなも半泣きの顔をしている。


 


 少し離れたところで、大谷さんがボーリングの玉のような大きな赤い魔石を抱えていた。


 


「……なんか知らんが、ボアが死んで消えた。

 とりあえず無事でよかった」


 


 その言葉を聞きながら、私はスマホを見下ろす。


 


(多紀君……

 あの瞬間、“あっ”って……言ったよね……?)


 


 胸につかえが残る。

 恐怖と、安堵と、そして——


 


(……多紀君が、私たちを……?)


イレーザ『シャニアさん、今、彰斗が神器を顕現していると思いますが、調べてください』

シャニア「えっ! そうなの! ……見逃した! 彰斗の活躍見逃した! あー! くやしいぃー!」

イレーザ『シャニアさん? 返答を」

シャニア『彰斗は傷一つ付いてませ~ん! 問題ありませ~ん』

イレーザ『ちょ!? シャニアさん?!』


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