028
◆ 一枝遥視点◆
車内には、朝のひんやりした空気と、少しの緊張が混じっていた。
講習は今日で4日目。あと3日あるとはいえ、内容は日ごとに難しくなっている。
わたしは昨日の夕方に皆で確認したことを思い出しながら、そっと口を開いた。
「……あの、大谷さん。昨日のレベル確認のことなんですけど……」
大谷さんがミラー越しにこちらを見る。
「ん、どうだった?」
「わたし、レベル……15でした。
で、みんなはレベル……8で……」
車内の空気がわずかに揺れた。
「大谷さん、この差って、大丈夫ですか?」
大谷さんは当然だという顔で言った。
「問題ない。
いいか、お前ら。レベル差は“20を超えた辺り”から急激に近づく。
極端な例を言えばだな……」
指を一本立てた。
「レベル19とレベル1が、一緒に狩りを続けたとする。
——レベル22ぐらいで並ぶ」
「「「「えっ!?」」」」
一斉に声が上がり、車が揺れた気がした。
「だから心配するな。誤差みたいなもんだ」
「よかった……」とわたしが息をつくと、
真名が笑った。
「遥の努力した結果だし、全然気にすることじゃない」
恵美も続く。
「そうそう!」
話がまとまったタイミングで、今日の予定を告げる。
「今日はコボルトじゃない。レッサーゴブリンに行くぞ」
「え……っ」
恵美が目を丸くする。
真名も眉を寄せる。
弥生は小さく肩をすくめ、
玲子はわずかに震えたあと、すぐ胸を張った。
「べ、別に……怖くないし……!」
いや怖いんだろうけど……かわいい。
わたしは不安を押し出すように聞く。
「……わたし達、できますか?」
「ああ。問題ない」
大谷さんは即答した。
「昨日の動きなら十分いける。それに——」
バックミラー越しに、わたしたちを順番に見た。
「ハイヒール1本にホーリーポーション1本があるだろ。」
そう、昨日作った【全166個】のうち、【160個】は売った。
残った6個はわたしたち5人+多紀君の分。
そこにさっき、大谷さんからホーリーポーションを1本貰った。
詳細を聞いた時、私達は驚いていた。
166個の魔石で驚いていたのに、実はもう30個持っていた事や、それを高価なポーションにしてサプライズでくれるなんて――
ポーション専用の、ウエストポーチの中の小瓶に触れる。
多紀君は助手席の横顔のまま、静かに聞いていた。
わたしと目が合い、ほんの少し微笑む。
(……ほんと優しいな……ありがとう多紀君)
◆
しばらくして、車がスライムの森の入口に停まった。
「多紀君、無理はするなよ。帰りはいつもの停留所でな」
「はい。ありがとうございます。皆さんも、無理はしないでくださいね」
多紀君が降りると、全員が手を振った。
「気を付けてね!」
「無理しちゃダメだよ!」
「水分補給しなよ!」
「……また連絡して」
「……が、頑張って……!」
多紀君は一人ずつ視線を返し、笑って手を振った。
(……行ってらっしゃい、多紀君)
車のドアが閉まり、
今度はわたしたちだけの時間が始まった。
◆
レッサーゴブリンのいるエリアは、空気からして違って見えた。
木々の隙間から濁った気配が漂い、動物の鳴き声も少ない。
そして、初めて見る姿に全員が一瞬固まる。
「う……」
「これ……けっこう……」
緑灰色の皮膚。
ぎょろぎょろした目。
短い手足のくせに爪は鋭く、動きだけは軽い。
(見た目が無理……でも……大丈夫……!)
大谷さんの声が飛ぶ。
「豊賀。ステータス強化だ」
「は、はいっ……! 《ステータス強化》!」
ふわっと身体が軽くなる。
視界がクリアになり、呼吸が楽になった。
(こんなに違うんだ……これが弥生の聖女スキル……)
真名が前に出る。
「みんな、行くよ!」
「「「はい!」」」
◆
戦闘は驚くほどスムーズで
3匹。
5匹。
また3匹。
真名と恵美の連携は本当に見事で、
玲子の魔法は正確で、
弥生も時々前に出てフォローし、
わたしも昨日よりいっぱい動けてる。
(……なんか……みんなも、昨日よりずっと強い……)
戦闘の合間には、ロレの実の採取。
「ここにもある〜!」と真名。
「多紀君が言ってた150個までもうすぐかな」と恵美。
「ついでにお土産も採ろ。ねっ! 玲子」と弥生。
玲子は顔を少し染めながら、
「べ、別に……あいつが喜ぶからとかじゃないし……!」
と、また強がっていた。
(いや、絶対そう……)
◆
昼休憩、みんなで簡易ベンチに座り、水を飲んで息を整える。
わたしはスマホを開き、多紀君へメッセージを送った。
『順調です。レッサーゴブリン、倒せています』
返ってきた返事はすぐだった。
(多紀)『良かったです。皆さんの動きなら大丈夫だと思っていました』
「……っ……」
胸の奥がじんわり温かくなる。
グループチャットなので当然皆も見ている訳で――
恵美達も多紀君へとメッセージを送り出していた。
◆
夕方 ― 停留所へ向かう途中
私達は結果に大満足していた。
ロレの実:150個
お土産:10個
レッサーゴブリン:25匹討伐
「よくやったな、お前ら」
大谷さんの声に、わたしたちは少し誇らしくなった。
あとは多紀君を迎えに行くだけだ。
玲子がスマホを開き、
「今向かってるよ」
と送信。
……その直後。
――ピュイイイイイイイッ!!!
車内に鋭いアラームが響く。
端末画面が赤く点滅した。
「えっ……?」
「な、なに……?」
大谷さんの表情が強張り、低く言った。
「俺は運転中で確認出来ない。添島、端末機のメッセージを読んでくれ」
「3の九にブラックホーンボアの出現を確認。周囲で活動中の者は直ちに避難」
それは私達が居た場所のすぐ南の地区だった。
多紀彰斗(あれ……なんか上から目線で答えてないかこれ? えっ……皆の返信が嬉しそう……いや、気を付けないとな)




