027
キューブガーデンのギルド本部ロビー。
今日も添島さん達と同乗してスライムの森へ向う事になった。
いつもの時間に到着すると、すでに立っていた大谷さんの姿を見つけた。
「おはようございます、大谷さん」
「おう。これ、頼まれてたホーリーポーションだ」
「えっ? 添島さん達の分だけ頼んだはずですけど?」
僕は昨日、大谷さんに166個とは別に、30個の魔石を渡して、添島さん達用のホーリーポーションを1本づつ作って欲しいと頼んだ。
魔石の数で10本の作れるので、5本分を報酬として渡していたのだけど――
「報酬は4本分で良いとさ。今回はお前の心意気にプレゼントだとよ。貰っておけ」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
『……でだ、多紀、ちょっとだけ覚悟しとけ」
「え?」
そう告げられた矢先だった。
革靴の軽い足音。
黒のジャケットに白シャツ、紺のスラックス。
切れ長の目の、キャリアウーマン風の女性が一直線に僕達へ向かってくる。
近づくだけで空気が張りつめるような雰囲気だった。
「……あなたが、多紀彰斗君ね」
「え、あ、はい」
女性は僕の顔を一瞥しただけで――
「ちっ……また先に押さえられてるなんて」
(なんで舌打ち!?)
大谷さんは、特に驚いた様子もなく彼女へ軽く顎をしゃくった。
「来たな、蓮奈。よくここがわかったな」
「あなたの担当案件くらい把握してるわよ、大谷さん。
銀鷹の団長をなめないでほしいわね」
(……団長!?)
信じられない単語に僕は固まる。
彼女は僕を見下すでもなく、冷静に観察する目に変えた。
「魔核締めの魔石を1日で160個。
薬師部から報告が上がった。
――あなた、普通じゃないわ」
「い、いや、その……」
言葉に詰まる僕の前で、彼女は静かに名乗った。
「私は鷹森 蓮奈。29歳。銀鷹の代表よ」
「たかもりれんなさん」
「そうよ。覚えて置いてね」
じろりと見られ、僕は首をすくめた。
そこへ――
「多紀君、おはよー!」「今日もお願いします!」
聞き慣れた明るい声が近づいてくる。
添島さん達五人がロビーへ入ってきたのだ。
「この子達が……契約チーム。なるほどね」
鷹森がわずかに目を細める。
一歩出ようとしたその時、大谷さんが大きな声で踏み込んだ。
「お前ら、時間だ。さっさと車に乗れ」
「え? あ、はい!」
「説明は後で全部するから」
僕達は押し出されるようにロビーを離れた。
その直前、鷹森が僕へ名刺を差し出した。
「……多紀君。あなたみたいな魔眼使いは、狙われる。
困ったら、私に連絡しなさい。
銀鷹は――守る側よ」
名刺には
《銀鷹『シルヴァーホーク』団長 鷹森 蓮奈》
と印字されていた。
「は、はい……」
振り返ると、彼女は鋭い目で僕の背中を見送っていた。
◆
大谷さんの車が、ギルドの駐車場から出る。
「……ねえ、多紀君」
「今の人、誰?」
「なんか、すごく怖かったんだけど……」
添島さん達が揃って不安そうな声をあげる。
大谷さんは深く息を吐いた。
「さっきのは鷹森 蓮奈。クラン《銀鷹》のクランマスターだ。
魔眼使いの保護をしてる“まともな側の人間”だ」
「保護……?」
「実はな、世間一般では外れ職と言われているが、
魔眼持ちは、その価値を知っているクランに狙われる。
悪いクランも多い。働かせるだけ働かせて、使い潰すようなな」
五人が息を呑む。
「多紀は昨日、魔核締め魔石を160個だ。
あれを聞きつけて寄ってくるクランは多い。
だから蓮奈が急ぎで来た」
「多紀君が……危険な目に遭ったり……?」
「まあ、それは無い。強引な引き抜きはハンターの規約違反で捕まるからな。」
「そっか……良かった。」
添島さん筆頭に、皆の緊張した顔から安堵の表情になる。
「もしかして……大谷さんが声を掛けてくれたのって?」
「いや、あれは完全な偶然だな。まあ、その後は色々と手を回したけどな。」
「もしかして、私達が多紀君の狩りに同行したのって?」
「そういう事だな」
添島さんの問に、大谷さんが笑顔で答える。
「そっか……ありがとうございます。」
「これは俺個人としての矜持みたいな事もあるから、必要以上に感謝しなくていい」
「はい。」
「まあ、多紀君が常識外の行動で露見するのが早くなったのが予想外だったけどな」
そう言って、また笑いだす大谷さんだった。
大谷(あいつはなぁ……皺を気にして笑わないのが駄目だな)
◆銀鷹クランホーム◆
保奈美「例の子。どうでした。」
蓮奈「また……怖がらせてしまった。ほんともう!」
保奈美「そうじゃなくて」
蓮奈「大谷さんが絡んでたから安心していいわ」
保奈美「そうですか。大谷さんですか……」
蓮奈「なっ……なによ」
保奈美「来年私達、30です。み・そ・じ!」
蓮奈「判ってるわよ! 保奈美こそどうなのよ!」
保奈美「地上の男って、やっぱ楽よ。年収でマウント取れるから」
蓮奈「あんたって人は……」




