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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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「ただいま」


 玄関を開けると、母さんと日葵が夕食の準備をしていた。


「おかえり、彰斗。今日はどうだったの?」


「うん。今日は……48万円だった」


「よん……じゅ……?」


 箸を持つ母さんの手が止まり、視線が空中で固まる。


 日葵は素直に目を輝かせた。


「すごいよお兄ちゃん! 今日もいっぱい!」


「うん! 今日も一枝さんって子が頑張ってくれたんだ」


 



 夕食後、三人でリビングテーブルを囲んだとき。


 僕は意を決して口を開いた。


「……あのさ。2つ、話があるんだけど」


「なに?」

 母さんが真剣な表情になる。


「まず……日葵の中学受験を桑名の学校にしたい、そして皆で桑名へ引っ越したい。」


 その瞬間、二人とも固まった。



「引っ越し……? どうして?」

 母さんが静かに尋ねる。


「日葵が、学校で……良く思われてない子がいる。

 明確なイジメじゃないけど、嫌な思いはさせてたと思う」


 日葵は目を伏せ、唇を噛む。


「……ごめんね、日葵。

 気づいてあげられなくて……」

 母さんは娘の肩を抱き寄せる。


 日葵は、小さな声で答えた。


「……お兄ちゃんとお母さんがいれば、どこでもいいよ」


 その言葉に、母さんは胸を押さえるように目を細めた。

 “離れたくない友達がいない”という現実を悟ったからだとおもう。





「……それと、高校のことだけど」

 母さんは顔を上げた。


「桑名で暮らすなら、あなたは“高校に行く”のが条件よ」


「やっぱり……行かなきゃダメ?」


「ダメよ。

 母親としては、高校生活を送ってほしい。

 友達もできるし……勉強だって、絶対あなたの力になる」


 僕は、小さな声で頷いた。


「……分かった。

 頑張ってみるよ」


「それでいいの。頑張りなさい」

 母さんは優しく微笑む。


 



 そして今度は母さんから、ひとつの話を切り出した。


「それでね……


 あなたが稼いだお金は、あなたが18歳になるまで、

 母親である私が管理します」


「えぇぇーーー!?」


 素っ頓狂な声が出た。


 これだけは本気で困る。


「ちょ、ちょっと待って! それは……!

 ダメじゃないけど、あの……!」


「母さんが働いてる間くらい、学校に集中しなさい」


「いや、それは分かるけど……!

 でも、だったら……!」


 僕は思わず前のめりになって懇願した。


「家族の生活費とか、家賃とか……

 引っ越し代には使ってよ。

 僕と日葵のためにも……無理しないでほしい」


 母さんは一瞬だけ驚いた顔をし、また優しく目を細めた。


「彰斗……」


 けれど僕は止まらなかった。


「それと……仕事。

 もっと楽なやつに変えてよ。

 夜勤とかじゃなくて……普通のやつに。

 母さんが倒れたら……本末転倒だよ」


 日葵も勢いよく続いた。


「そうだよ!

 お母さんが休めなくなるの、いや!

 お兄ちゃん言ってたもん!

 お金がいっぱいあれば、お母さん頑張らなくていいって!」


 母さんの顔が、少しだけ歪む。


「……そう……言ってたの?」


「うん……!」


「……そう」


  母さんは少し寂しそうな顔をしながらしばらく言葉を失っていた。




 そして、深く息を吐く。


「……ありがとう。

 二人とも……本当に優しい子だわ」


 軽く抱き寄せられ、胸の奥がじんと熱くなる。


「……それと。

 2学期からの成績を落としらハンターの仕事は休んでもらいます」


「ええぇぇぇーーー!!」


 母さんはそう言いながら、どこか楽しげに笑った。


 



「……じゃあ、行ってくるわね」


 バッグを肩にかけ、母さんは玄関へ。


「気をつけてね!」

「いってらっしゃい!」


 ドアが閉まり、静かな家に、小さな余韻だけが残った。


 



 日葵がちょこんと僕の服をつまむ。


「お兄ちゃん……引っ越し、怖い?」


「大丈夫。

 どこ行っても、僕と母さんがついてるよ」


「そっか……じゃあ、わたし頑張る」


 日葵は笑って、僕の袖を離さない。


「今日は一緒に寝ていい?」

「もちろん」


 日葵が眠りにつくまで、ずっと隣に座っていた。


 



 家族として、前へ進む準備は整った。


 まだ不安はある。

 未来だってどうなるか分からない。


 でも――


(大丈夫だ。守っていこう。二人のことを)


 静かな夜が、ゆっくり過ぎていく。



 一章 完

多紀美弥子「和仁さん……彰斗は貴方に似て、本当に優しい子です。和仁さんに守られた私が、今度は彰斗に守られています。ごめんなさい。そしてありがとうございます。貴方に迎えられた事、本当に感謝しています」



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