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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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024

 車がゆっくりとスライムの森の入口付近に停まった。

 朝の空気はひんやりしていて、それでも昨日よりどこか張りつめている気がした。


「じゃ、私達はコボルトの群れの方へ行くね」

 添島さんが窓から乗り出して僕に向けて軽く手を上げる。


 僕はリュックを背負い直し、スライムの森の奥へ足を踏み入れる。


 



 森に一歩入った瞬間、景色が“鮮明”になった。


 魔眼がいつも以上に反応している。


(……昨日より、ずっと見える)


 スライムの核の位置、跳ねる角度、体表の粘性の揺れ。

 視える情報が、まるで感覚と一体化したように脳に入ってくる。


 昨日までの僕なら、

 “視えてから動く”

 という順番だった。


 だが今日は違う。

 動く前に“動き方が分かる”。


 



 最初の一体を撃破するのに、わずか二秒。

 次の一体へ移動する前に、すでに核の位置が視えている。


 踏み込み、貫いて、拾う。

 また踏み込み、貫いて、拾う。


 繰り返すたびに、動きが洗練されていく。


(これは……もはや作業というより、流れだな)


 気づけば一時間で70個近く集まっていた。


 



 休憩のベンチで水筒の麦茶を飲み、スマホを見ると女子達からチャットが届いていた。


(遥)『ベリー集め終わりました』

(恵美)『そっちはどう?』

(真名)『大谷さん、今日ちょっと機嫌いいかも』

(弥生)『無理しちゃダメだよ』

(玲子)『今日もやりすぎてない?』


 読んでいるだけで少し笑える。


 僕は返事を送る。


『今、70個ほどです。今日は200個を狙っています』


 すぐに通知が鳴り響く。


(遥)『200!?』

(恵美)『やめなさい』

(弥生)『それは無茶!!』

(玲子)『ちょっと怪獣じゃないの!?』

(真名)『人間ですか!?』

(恵美)『多紀……お前はスライム職人か(大谷)』


(……職人って)


 苦笑しつつスマホをしまい、僕は立ち上がった。


 



 午後の狩りに入り、ペースはさらに加速する。


 昨日と今日の違いが分かる。


(やっぱり……レベル194はヒドイな)


 身体が軽い。

 視界が広い。

 判断が早い。


 狩って、狩って、狩って――。


 ついに百個超え。


(よし……もうひと頑張り)


 そう思った時だった。


 



 ――魔眼の視界の端に、淡い“魔力反応”が浮かぶ。


(……魔物?)


 スライムではない。

 核の光点とは違う、熱の塊。


 距離は900メートルほど。


 特有の魔力。

 特有の動き。


(……コボルトだ)


 スライムの森に、コボルトが入ってきている。


 その瞬間――僕の脳裏に、イザーラさんの言葉を思い出す。


『シャニアの枕にされたスライムが、巨大化して魔力を放ち、

 魔物達への威圧になっていました』


 巨大スライムが倒された今――。


(もう、それが始まっているのか……)


 スライムの森がじわじわと“通常の魔物地帯”に戻っていく。


 これは、近いうちに広まる情報だろう。

 だけど今は、できるだけ引き延ばしたい。なぜなら……


(僕が独りで、狩りが出来なくなってしまう。)


 僕はスライム狩りの手を止め、そちらへ向かった。


(……200個は無理か)


 しかし迷いはなかった。


 



 幸い、コボルトは三体だけだった。

 魔眼のおかげで、視界の悪い森の中でも強襲される事もない。


(……よし)


 タイミングを見て、距離を詰め――一気に核へ。


 動きは鈍い。

 魔眼で“丸見え”の格下相手にミスは起きない。


 三体を短時間で処理し、息を整える。


(……これで今日は大丈夫だと思うけど)


 僕はスライムの森の外周に沿うように走り、魔物の侵入が無いか調べた。


 



(恵美)『これから迎えに行きます』


 添島さんからチャットが届く。


「……あと少し粘りたかったけど、仕方ないか」


 僕は森を出て、バス停留所へと向かった。


 



 大谷さんの運転する車が来ると、女子達が手を振ってくる。


「お疲れー!」

「その笑顔怖いんだけど?」

「本当に200個集めたの?」

「疲れてませんか?」

「ほら乗って乗って!」


 彼女達の笑顔に、今日の嫌な事は全て忘れらそうだ。

 僕は一つ深呼吸して、車に乗り込んだ。


(……明日はどうなるかな)


シャニア「いい動きしてるじゃない。眷属かぁ~」


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