022
母が夜勤のパートに出掛け、玄関の鍵が閉まる音がした。
家の中が静かになると、僕は日葵を寝かしつけ、ようやく一息をついた。
(……今日の一枝さん、すごかったな)
ポーションをあれほど作り続けて、最後にはハイヒールポーション100本を完成させた。
疲労も限界だったろうに、あれは本当に凄かった。
(何か……お礼をしたいな)
そう思った瞬間に、スマホを手に取っていた。
相手は――添島さん。
5人のリーダーで、皆をまとめる役割をいつも自然に果たしてくれている。
僕は慎重に文章を打つ。
『一枝さんの頑張りに、僕としては感謝の気持ちを込めた贈り物を渡したいのですが、何か良い案はありませんか?』
(……よし。送信)
メッセージを送った瞬間、胸の奥が少しむず痒くなった。
◆ 添島恵美視点 ◆
「……え?」
スマホが震え、私は画面を確認した。
多紀君からの“個人チャット”だった。
私は一瞬だけ驚いたけれど、すぐに深呼吸して本文を開く。
(……ああ。そういうこと、ね)
思わず、少し微笑んでしまう内容だった。
気遣いが自然で、押しつけがましくない。
だからこそ――好感度が上がってしまう。
(でも……玲子は、どう思うかな)
5人で泊まっている宿泊施設。
同じ部屋で並んで座る玲子――今日の実習でもずっと多紀君を気にしていた。
胸が少しだけ重くなる。
(多紀君は自然体なだけ……でも、玲子の気持ちを考えたら……
いや、いいの。私がちゃんとコントロールすればいいだけ)
そう自分に言い聞かせて、私は決断した。
「みんな、ちょっとこれ見て」
私は多紀君から届いたメッセージを、あえて皆に公開した。
「えっ、なに? なになに?」
真名が身を乗り出し、
弥生が「あ〜」と頬を緩ませ、
玲子は黙って画面を覗き込み、
そして――遥は目を丸くする。
「えっ……え、えぇっ!? わ、私……?」
嬉しい驚きがそのまま顔に出ていた。
「ふふ、頑張った成果よ、遥」
私は軽く微笑む。
「でも……私……そんな……」
「謙遜しすぎ」
「そうそう。あれだけ作ってんだよ?」
「普通なら倒れてるよ」
「いや、倒れてたよ実際……」
それぞれが笑いながら、遥を励ます。
「それで、遥は何が欲しいの?」
私が聞くと、遥は指先をちょんと合わせながら悩む。
「ん〜……今すぐっていうより……
欲しくなった時に言わせてもらう、じゃダメかな?」
「もちろん、いいよ」
私は優しく頷いた。
「じゃあ私から多紀君に伝えておくね」
「うん。お願い……」
遥は嬉しそうに微笑んだ。
◆ 多紀彰斗視点 ◆
既読はついたのに、なかなか返事が来なかった。
(……もしかして、迷惑だったかな)
胸が少しざわつく。
考えすぎだ、と分かっていても落ち着かない。
その時、通知が鳴った。
添島さんからの返信だ。
(恵美)『一枝さんは今すぐ欲しい物は特にないそうです。
欲しくなった時に言わせてほしい、との事でした。』
(あ、そっか……。直接聞けば良かったんだ)
「なんで添島さんに訊ねたんだろう……?」
小さく呟く。
でも、もう送ってしまったものは仕方ない。
僕は丁寧に返事を打った。
『ありがとうございます。それじゃあ保留という事で、
いつでも欲しい物が出来たら言ってくださいと一枝さんにお伝えください。
直接聞けば良かったと今更気付きました。
添島さん、お手数かけてしまってすみませんでした。』
送信。
深呼吸。
◆ 添島恵美視点 ◆
「……ふふっ」
届いた多紀君の返信を読み、私は小さく笑ってしまった。
(本当に律儀な人だなぁ……)
だが――背後から強烈な視線。
「ちょっと恵美、見せてよ」
「ねぇ早く〜」
「その内容、私たちも見たい」
「ほらほら、出しなさい」
……圧がすごい。
「はいはい、分かったわよ……」
私は再び、みんなに画面を見せた。
「……ああ〜〜〜」
「これ、好き」
「礼儀正しいのに自然って最強でしょ」
「こういうの、落ちるよね」
「多紀君……罪深い……」
「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて……!」
遥が真っ赤になって叫ぶ。
◆
しかし、そんな遥の反応もまた女子トークの燃料となり――
しばらく部屋は、
『多紀君の天然・誠実・気遣いの凄さ』
を語り尽くす会となった。
その夜、5人は遅くまで笑い続けた。
玲子(何かない? 私から彰斗に送るメッセージ……何かないの! あぁー思いつかないぃ!)




