021
メディカルセンター内にも、ポーションの買い取り部屋があったので僕達はそこに向かった。
「ハイヒールポーションが100本!?」
買い取りを受け持つのは、鑑定スキル持ちの『学者』の男性。
一枝さんの出したポーションに驚きの声を上げる。
「期待の新人だ。これからも面倒をみてやってくれ」
「おぉ……もちろんだ!」
大谷さんの補足に受付の男性は冷静さを取り戻していた。
「それではこちらが今回の買い取り額です。このまま一枝さんの通帳に振り込ませて頂いてもよろしいですか?」
「いえ、30万円をこちらの多紀君にお願いします。」
視線を一枝さんから僕へと向ける受付員さん。
「もしかして、そちらが魔眼持ちの方ですか?」
「はい。僕が魔眼で魔核締めの魔石を集めました。」
「なるほど。そういう…判りました。では多紀様、こちらにハンターカードの提示を。通帳へと取り分の30万円を振り込ませていただきます」
「はい。よろしくお願いします」
僕達はギルド本部へと戻り、ロビーにあるハンターカードを読み取る機械にカードを通して入金されているか確認した。
通帳項目を確認すると――
『+300,000』
一枝さんからの入金が反映されていた。
そして昨日の収入と合わせて32万1千円の残金になっていた。
一枝さん…ほんとうに頑張ってたからなぁ……
何かお礼を考えないと。
◆
今日も成果に僕は気を抜くと笑いそうになるのを必死に抑えながら家へと辿り着く。
「ただいまぁ」
「おかえりー!」
いつも通りの元気な声が、真っ先に飛んできた。
日葵が走ってきて、僕の腕にしがみつく。
「お兄ちゃん、今日もおつかれさま!」
「ただいま。今日もいっぱい頑張ってきたよ」
靴を脱ぎながら笑うと、日葵は誇らしげに胸を張った。
「じゃあ、晩ごはん食べよっ! お母さんが待ってるよ!」
◆
リビングに入ると、テーブルには湯気の立つ料理が並んでいた。
お母さんがエプロンを外しながら、ほっとした顔でこちらに微笑む。
「おかえり、彰斗。今日は……大変じゃなかった?」
「ううん、全然。むしろ順調だったよ」
席に着いて、まずは今日の収入を伝える。
「今日は、僕が集めた魔石を使って薬師の一枝さんがポーションを作ってくれて、それで売上を分けてくれたんだ。30万円」
お母さんは手を止めて、驚きと喜びの中間のような表情になる。
「30万……? 本当に……? そんな……」
「僕が集めた魔石の買い取り金額がその値段になるんだ」
「そうなのね。でも、お金のことより……あなたが無事で帰ってきたのが一番よ」
「わかってるよ。危ないものは狩ってないし、場所も安全だし」
「本当に危なくないの?」
「スライムの森は、スライムしか出ないんだ。
それに――」
僕は箸を置いて、少し真面目な声で続けた。
「僕のスキルで、半径一キロ以内は全部わかるよ。魔物がいたらすぐ察知できる。
だから、危険だったら逃げる」
お母さんは長い息を吐いて、少しだけ肩を落とした。
「……あなたがそう言うなら、お母さんも信じるわ。
ただ、無理はしないでね。お願いだから」
「うん。大丈夫。無茶はしないよ」
その時、隣で日葵が手を挙げた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! “まがん”ってやつ、家の中のみんなも見えるの?」
「いや、一般の人は見えないよ。魔力にしか反応しないから」
「えー? じゃあお兄ちゃん、家では普通の人なの?」
「まあ、そうだね。
こっちだとステータスも、キューブガーデンの時の一割ぐらいしか出ないんだよ」
「へぇ〜! じゃあ、家では普通のお兄ちゃんだ!」
「日葵、普通って言い方は……!」
母が笑いながら軽く注意する。
テーブルに笑いが溢れ、食事はとても和やかに進んだ。
(……こうして三人で笑いながら食べるご飯は、久しぶりな気がする)
ふと、そんなことを思った。
日葵は僕と母の会話に混ざりながら、嬉しそうに笑っている。
――ああ。
こういう時間がいつまでも続くといいな。
◆
「明日もスライムに行くの?」
食後のお茶を飲みながら、母が聞く。
「うん。でも本当に無理はしないよ」
「……そう。それなら、気をつけてね。
暗くなる前に帰ってくること」
「わかってるよ」
母の声は前よりも柔らかかった。
少しずつ、僕のやっていることを理解しようとしてくれているのが分かる。
◆
夕食後。
日葵は宿題をしながら鼻歌を歌っている。
「お兄ちゃん、もうすぐ終わるからね。待ってて」
「うん。判った」
この後は約束通り日葵と遊ぶ時間だ。
◆ギルド本部販売部◆
職員1「青のハイヒールポーションが100本?! 久しぶりに見たな。なぁ…」
職員2「ダメですよ。もう収支書に記載されてます」
職員1「だよなぁ~」




