019
◆多紀彰斗視点◆
二日目の静かな朝
朝の日差しが薄く部屋に入り込んでくる。
僕はいつもより少し早く目を覚ました。昨日の疲れは残っているはずなのに、身体が軽い。
台所に行くと、もう日葵が起きていて、椅子にちょこんと座っていた。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう。早いね」
パンを焼きながら、ゆで卵を剥いて皿に並べる。
こういう朝が、一番落ち着く。
「今日も行くの……スライム狩り?」
「うん。夜までには戻るよ。危なくもないから大丈夫」
日葵は安心したように微笑んだ。
「じゃあ、帰ってきたら一緒に遊ぼ?」
「もちろん」
パンの香りが部屋いっぱいに広がり、穏やかな時間が流れる。
食事を終え、片付けをして、荷物をまとめると日葵が玄関までついてきた。
「いってらっしゃい!」
「行ってきます」
その一言が、僕の背中を押してくれる。
◆
キューブガーデンに到着した僕は最初に、オベリスクの前に立ち、手を触れる。
白い光が一瞬走り、僕のステータスが浮かび上がる。
(……やっぱり)
表示された数字に、小さく息を呑んだ。
「194……か」
イザーラさんから言われていた通り、昨日の巨大スライムの経験値がしっかり入っている。
体が軽く、視界が鮮明だ。
魔眼も、いつもより反応が速い気がする。
(大きい相手と戦うつもりはないけど……これはありがたいな)
そう思いながら、僕はギルド本部へと向かった。
◆
巡回バスでスライムの森へと着いた僕は、体を早く動かしたい衝動に駆られていた。
スライムを捉えるスピードが昨日よりも圧倒的に速い。
踏み込み、突き、離脱──流れるように動けるようになっていた。
(レベルの影響って、こんなに大きいのか……)
僕の手には来る途中のホームセンターで買ってきたステンレス製のトングが握られている。
そう、大谷さん推薦の栗拾いトングだ。
そして思った通り、ステータスの上昇の影響で、刃先が無くてもスライムの体を貫通して魔核を破壊出来ている。
魔眼のおかげで核の位置も迷わないし、なりより僕は魔眼の上位称号『真眼』になって色々と出来る事が増えていた。
まず、50レベルを超えて中級のスキルを得た僕は、威圧を覚えた。
これはレベルが低い相手に有効で、その差がおおきければ大きい程効果が大きくなる。
だから僕に見つかったスライムは遅い動きがさらに遅くなり、もうその場でプルプルと震える事しか出来なくなっていた。
そして魔力の消費がほぼ無くなり、常時魔眼を使えるようになった。
それからレベル100の上級になると称号が真眼になり、そして真眼のスキルが『魔力を実体として認識する』だった。
これがはっきりとしたチート能力なのは直ぐに判った。
空気中にある魔力を掴む事も、魔物の体内にある魔力を取り出す事も、自分の魔力を与える事も出来る。
さらに150レベルで覚える固有のユニークスキルという存在もあった。
僕の固有スキルは『未来確定視』
効果はバタフライ効果の影響を受けない“数秒後の確定未来”を視る。
だから僕は、レベル194になっている事も含めて、誰にも言わないと誓っていた。
1時間ほど経つと、僕のウエストポーチはだいぶ重くなっていた。
「これで50個目。良いペースかな」
昼までには余裕で達成できそうだ。
◆
その頃、添島達は──。
ハンターギルド主催の夏季特別初心者講習に参加していた。
今日も大谷が講師として同行し、コボルト群れへの実地訓練が行われている。
「大谷さん……昨日のポーション作りで痛感した事なのですが……多紀君のペースに着いていけそうにありません」
遥が申し訳なさそうに言う。
「まあな。魔力が足りないなら鍛えれば問題ない」
大谷の声は淡々としているが、厳しさの奥に優しさがある。
「だ、だけど……」
「心配しなくていい。ちゃんと打開策はある。今日はそれを教えてやろう」
遥は小さくこくりとうなずいた。
そのやり取りを、他の四人も真剣に聞いている。
「私達も頑張らないとね」
恵美が言い、
「そうですね。」
弥生も頷く。
◆多紀彰斗視点◆
スライム狩りの休憩中、ベンチに腰掛けてスマホを見ると──
グループチャットがにぎやかになっていた。
(真名)『午前の実習終わったよ』
これは大豊さんから
(恵美)『コボルト18匹倒しました。』
添島さんから
(弥生)『そちらはどうですか?』
豊賀さんから
(玲子)『調子はどう?』
鹿屋さんから
(遥)『午後からはロレの実集めです』
一枝さんから
読んでいるだけで、皆の空気が伝わってくる。
僕も返した。
『50個あつまりました。15時までには余裕で100個いけそうです』
すぐに通知が連打された。
(遥)『えっ!?』
(玲子)『はやっ!!』
(恵美)『2日目でそれはおかしいって!』
(真名)『どういうこと?』
(弥生)『多紀君?』
そして、その驚きは当然のように大谷さんにも伝わり──
(恵美)『多紀……マジか……(大谷)』
という一文が追加された。
(……大谷さんまで驚かせるとは)
少しだけ、くすぐったい。
◆
約束の時間、少しスローペースにしても予定通り、魔石は100個に届いた。
(恵美)『ロレの実100個集め終わったから迎えに行くね』
(玲子)『すごい量なんだけど?』
(弥生)『多紀君のお土産用もありますからね』
(遥)『車に積めるのが大変でした』
(真名)『私がね!』
と添島さん達からの通知に、僕は笑みが零れる。
◆
待ち合わせはスライムの森に一番近い回送バスの停留所。そこに大谷さんの車が現れる。
助手席の扉が開いて僕に視線を向ける大谷さん。
「待たせたな」
僕は大谷さんに「ありがとうごさいます」と答えて車に乗り込む。
「そういえば、大谷さんって臨時講師じゃなかったですか?」
「まあな。でも彼女達の担当を引き続き頼まれたんだ。ベリー集めにポーション作りは他のチームではやらないからな」
「なるほど。でも…収入は減るんじゃないですか?」
「ああ、心配しなくていい。俺も気分転換に丁度いいしな。普段でも飽きたら長期休暇で旅行に出る。それと同じ気分だ」
「そうなんですね。」
「ああ、まあ誰も相手が居ない独り旅だけどな!」
僕はどう答えたら良いか悩んでいた。
後ろの添島さん達も無言だった。
「そうだ。ホームに着いたら多紀君はどうする? 彼女達にはポーション作りの秘技を教えるんだが見てくか?」
「……そうですね。あまり遅くならないなら、見学させてください。」
無言の圧力が後ろから伝わって来ていた。
玲子(もっと居なさいよ! 今日別行動だったんだから!)




