017
家に着くのが、思っていたより少し遅くなってしまった。
玄関の扉を開けると、廊下で日葵がこちらをじっと見ていた。
「ただいま」
「おかえり!」
電車に乗る前に「ちょっと遅くなる」と電話しておいたので拗ねてはいない。
でも母さんはもうパートに出ていて、家にはずっと一人だったはずだ。
その寂しさがあったのだろう。日葵は小走りに近づいてきて、そのままぎゅっと抱きついてきた。
「ご飯は食べた?」
「うん!」
「じゃあ、美味しい果物を食べようか」
僕はリュックを開けて、今日のお土産、マナベリーを取り出して見せた。
本当なら、予定どおりの時間に帰れていればパンケーキを作るつもりだったけど、今日は簡単に切るだけにする。
キッチンでロレの実とロナの実を切り分け、皿に並べてテーブルへ運んだ。
「おいしい!」
日葵は頬をふくらませながら喜んで食べる。
「今日はね、昼から少しだけのスライム狩りだったけど……2万と千円になったよ」
「すごい!」
その反応が本当に素直で、僕も自然と笑ってしまう。
果物を食べながら、大豊さんたちとの狩りのこと、コボルト戦、ちょっとした祝勝会気分になった話も全部日葵に聞かせた。
家事を終えて、二人で風呂に入り、布団に潜り込む頃には、家の中はいつもの静けさに戻っていた。
そして──ようやく今日の“非日常”について考え始める余裕が生まれた。
◆
(……本当に、僕は眷属になったんだろうか)
左手の甲に出来た紋章を眺める。
眷属としての証がそこにある。
(手袋を両手にしていて助かった。左手にも紋章なんて……中二病だよこれ)
イザーラさんとシャニアさん。
あの二人が話していた“守護者”という役目。
イザーラさんとは、武器を貰ったあの瞬間に眷属として繋がったらしい。
自覚は薄いけど、心のどこかに確かに“別の世界”の気配がある。
守護者とは、イザーラさん側の世界で起きている問題を解決している人達で、強力な魔物を討伐する存在だという。
それには、遠からず僕達の世界にも影響している事でもあると言われ──
僕はいつでも向こうへ渡ることもできる。そして仕事が終われば直ぐにでも帰って来れる。──そう説明された。
(でも……今はまだ無理だ)
まず家族。
日葵を守ることが、僕の中で優先順位の一番上にある。
だから、イザーラさんの誘いには答えを待ってもらっている。
(イザーラさんから渡された神器……)
白銀に金色の縁取りをした、美しい……けれど、現実離れした銃。
普段は身体に融合して存在が消え、必要な時に願えば顕現するらしい。
(こんなの……本当に僕が扱っていいんだろうか)
弾丸は、スライムの魔核締めの魔石を一つで作る事が出来る。これは付随するスキルだった。
十二・七ミリ弾──この世界の対物ライフルと同じ規格らしい。
(……いつか、使わなきゃいけない時が来るんだろうな)
暗い天井を見つめながら、静かに息を吐いた。
横では、日葵がすでに眠っている。
その寝息が穏やかで、僕の心も落ち着いていく。
(まずは、明日だ。
スライム狩りをして、ちゃんと稼いで……
こうして日葵と笑って食べられるものを用意してやらないとな)
目を閉じると、疲れが一気に身体を包んだ。
こうして今日も、僕の日常と異世界の非日常が、静かに重なっていくのだと実感しながら──意識はゆっくりと眠りへ沈んだ。
講師「添島達と彼は繋がったのか?」
大谷「はい。良い感じに纏まりました」
講師「そうか。添島達を最後まで頼んで良いか?」
大谷「こちらからお願いした件ですし、俺からもそう願おうかと思っていたところです」
講師「宜しく頼む。貸し出し車はそのまま最後まで使ってくれ。私から申請を通しておく」
大谷「ありがとうございます」
講師「なに、一組の講習者をボランティアで見てくれる君への配慮だ。気にするな」




