014
イザーラと名乗った女性は、ゆっくりとスライムへと手を向けた。
「あなたを呼んだ理由はひとつ。知り合いを救ってほしいのです」
「知り合い……?」
「ええ。管理者である私の上司。彼女は六年以上、あのスライムの中で眠り続けています」
イザーラさんの声は静かだが、奥底に怒りを押し殺したような響きがあった。
僕は青い光の揺れる方へ目を向け……息を呑んだ。
巨大スライムが、部屋いっぱいに膨れ上がっていた。
小さな家なら丸ごと飲み込みそうな大きさだ。
これ……魔力反応が強すぎて眩しい。
そんな状態の僕の魔眼でも、スライム内部の淡く光る“核”をとらえていた。
だけどその核のすぐ隣。
そこに、ひとりの女性が眠っていた。
「……あれが?」
「そう、あれが上司のシャニアです。彼女はダンジョンの管理・構築を担う管理者のひとり。彼女も女神の使徒です」
イザーラさんは静かに続けた。
「六年程前、彼女は新しいダンジョンを形成するため、この地下遺跡を訪れました。そこで……スライムを枕に昼寝をしてしまったのです」
「……は?」
「説明すると長く……はないですね。シャニアさんは膨大な魔力量を持っています。
スライムはその魔力を“餌”と認識し、吸収し続けた結果、あのように巨大化したのです」
とんでもない話だった。
「では、シャニアさんは……ずっとあの中で?」
「はい。魔力を吸われ続けていますが、管理者は肉体が強化されているため死にはしません。ただ……ずっと眠ったままです」
六年も。
そんなことがあるのか。
「彼女を助けるには、スライムを破壊するしかありません。しかし普通の攻撃では、内部の核にたどり着けません。かと言って私が力を使えば彼女は塵となるでしょう」
イザーラさんは僕を見つめた。
「だからこそ、あなたが必要なのです。
“魔眼”で核の位置を正確に捉え、そこへ攻撃を届かせることができる唯一の存在」
そう言うと、彼女は何も無い空間から白銀に金縁の……そのままの形で言えば大きなライフルのような武器を手にする。
「それは……」
「対物ライフルを模倣した武器です。あのスライムの魔核を破壊させるために私が創製しました」
差し出されたそれを、僕は慎重に受け取った。
見た目の重厚さに劣らず、ずしりと手に重みが伝わる。
「で、でも……核は女性の、お腹あたりにありますよ。撃てば……当たります」
「大丈夫」
イザーラさんは微笑んだ。でもちょっと怖い。
「その程度の武器で、私達使徒には傷は付きません。むしろ、起こすために、その痛みが必要なのです」
淡々とした声だった。
嘘をついている気配はない。
(……やるしかない、か)
僕は巨大スライムへ向き直る。
魔眼を開き、核の位置を正確に捉える。
深く息を吸い、ゆっくりと狙いを定める。
(え…ちょっとまって…こういうのって反動で僕が吹っ飛ばないか?)
「あの…これ撃ったら衝撃凄くないですか? 僕の肩とか壊れませんか?」
「心配には及びません。それはもう貴方の神器ですので、傷を付けるという事は起きません。」
「し…」
(いや、考えるのはもう止めよう。)
「……撃ちます」
「ええ」
引き金を引いた瞬間、洞窟内に乾いた破裂音が響き――
巨大なスライムの中心に向かって、光が一直線に走った。
次の瞬間。
弾け飛ぶようにスライムが夢散し、飛沫が光の粒となって消える。
そして奥から――
「いっったぁぁぁぁぁぁぁーーー!?!?
」
場違いなほど元気な悲鳴が響いた。
その声は、六年間眠っていたとは思えないほど力強かった。
イレーザ(やっとこの時が来た! さぁ! シャニアさん! リネア様の……いえ私からの鉄槌を喰らいなさい!)




