011
「撤退が正解だな」と言った大谷さんが、僕達の顔色をひと通り見てから静かに続けた。
「……だが、今回は経験しておくのも悪くない。多紀君が参加すれば問題なくいける」
「僕もですか?」
「あのスピードがあれば余裕で避けられるだろう。まあ、なにかあれば俺がすぐ入るから、いい経験になる」
そう言われてしまえば、断る理由はなかった。
一度目の見学で、コボルト自体にそこまで恐怖を感じていなかったのも大きい。
「まあ、それなら……はい。参加します」
「よし。じゃあ全員、気持ちを切り替えるぞ」
大谷さんの声に、添島さん達は緊張で肩をすくめている。
けど、さっきよりは“怖いけど行けるかもしれない”という空気に変わっていた。
「大豊さん。今回、多紀君は君と同じ前衛のアタッカーに入る。二人で前を受け持ってくれ」
「……はい! お願いします、多紀君」
「お手柔らかにお願いします」
最前列へ並び、僕と大豊さんは視線を合わせる。
大豊さんの剣がわずかに震えているのは、緊張のせいだろうか?
「行くぞ」
大谷さんの指示で、僕達は“コボルトリーダー率いる群れ”へとゆっくり距離を詰めていった。
◆
結果は……最初は、正直かなりぎこちない連携になった。
僕が踏み込むと、大豊さんも同じタイミングで前へ出てきて、互いに軌道が被る。
逆に僕が下がった瞬間、大豊さんも同時に下がってしまい、間合いが取れなくなる。
コボルトの爪が交差し、土が跳ねる。
「えぃ!」
鹿屋さんのウィンドショットが、僕達の隙を狙ってきたコボルトの側頭部を撃ち抜いた。
突風のような魔力弾がコボルトの体勢を弾き飛ばし、その隙に僕と大豊さんが一歩引いて立て直す。
「助かった……!」
「鹿屋さん、ありがとう!」
「べ、別に。前衛が詰まってるから撃っただけよ……!」
鹿屋さんはそっぽを向きながらも、その仕草で照れているのが判る。
そして一度の、呼吸を合わせるポイントが掴めた途端、お互いの動きが急に噛み合い始めた。
僕が横へ誘導するように一歩踏み込めば、大豊さんがその軌道の裏を突く。
逆に大豊さんが強気に前へ出れば、その死角を僕が埋める。
コボルト達の攻撃は単調。
動きが分かれば怖くない。
斬り払い、かわし、突き……気づけば三匹、四匹と倒していき、最後に残ったのは
「コボルトリーダーには気を付けろよ!」
大谷さんの声で、僕は一歩前へ出た。
「多紀君、牽制だ!」
「はい!」
コボルトリーダーは通常の個体より頭ひとつ分大きく、赤黒い魔力を纏っている。
僕は踏み込み、フェイントを混ぜた突きで意識を完全にこっちへ向けさせる。
「今!」
振り上げられた爪が僕へ迫った瞬間、背中側から鋭い気配。
大豊さんの剣が、コボルトリーダーの胸部へ一直線に突き刺さった。
光が弾け、リーダーが霧散する。
「やった……!」
「よし!」
自然と大豊さんとハイタッチをしていた。
大豊さんは満面の笑みで、緊張の汗を拭いながら息を弾ませている。
「すごいじゃない、真名!」
添島さんが走ってきて肩を叩く。
後ろの方で、鹿屋さんがじっとこちらを見ていた。
表情はつとめて無表情。
なのにほんの一瞬、視線にチクリと刺さるような視線が混ざった。
(……え?)
鹿屋玲子「……ずるい」




