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◆北安城中学校 添島恵美◆
始業式前の朝の教室は、いつもより騒がしかった。
理由は単純だ。
同じ中学に覚醒者が5人。しかも全員がバスケ部。
そんな5人が、夏休みにハンター講習を受けていたことは、ほとんどの人に知られている。
「ねえ添島、ゴブリンってやっぱキモい?」
「剣とか、どんな感じ?」
「ナンパとかされた?」
次から次へと飛んでくる質問に、私は苦笑しながら答える。
「映像よりは……まあ、うん」
「私は槍にしたんだけど、ズン! って指した時の手応えは気持ちがいいよ」
「ナンパ? ……あぁ、普段よりも酷いのがいたね」
真名も、同じように当たり障りのない返しをしていた。
玲子は別のクラスだけど、きっと似た状況だろう。
私達は、意図的に一人の名前を出さなかった。
多紀君。
あの人の存在だけは、ここでは伏せておく。
余計な注目を集める必要はない。
それが、自然な判断だった。
「おはよう。あっ、恵美いたいた」
廊下側から聞こえた声に、顔を上げる。
「おはよう、薫」
声をかけてきたのは、同じバスケ部の薫。
クラスは違うけど、よく話す仲だ。
「ねえ、遥と弥生、まだ来てないの?」
その一言で、私は真名と一瞬だけ目を合わせた。
それから、教室の後ろを指差す。
「ねえ、あそこ。天井に付いてるの、カメラって分かる?」
「えっ?」
そこには、しっかりと存在感を示すカメラが設置されている。
「あ、あれね」
「そう。遥と弥生、家庭の事情で今日からリモート授業なの」
「えっ!?」
薫が目を丸くする。
「……そうなんだ。でも、なんでこの教室?」
「遥と弥生、二人で同じホテルに泊まってるから
それなら、カメラ一台とタブレット一台で、一緒に授業受けたいってなって。
事情を知ってる私と真名がいる教室がいいってことになった」
「そっか……」
薫は少し寂しそうに笑った。
その表情を見て、私はすぐに言う。
「でもね、遥と弥生、今日は手続きがあるから、昼くらいには登校するよ。
そのあと、バスケ部の3年でファミレス行かない?
3年間のお疲れ様会、しよ」
薫の顔が、ぱっと明るくなった。
「うん! 分かった!」
「『バスケ部』のグループメッセで流しておくね」
「私からも書いておく」
真名もそう言って、スマホを取り出した。
◆
始業式が終わって、教室に戻る途中。
スマホが震える。
(遥)『もうすぐ学校に着きます。』
(弥生)『着いたら生活指導室に向かいます』
「結構、早いね」
私が言うと、真名もスマホを見ていた。
「弥生達、お疲れ様会の話でテンション上がってたし
電車、早めたんじゃない?」
「あり得るね」
二人で顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。
慌てて準備して、少し早い電車に乗る二人の姿が簡単に浮かんだ。
「添島さん、大豊さん、ちょっといいですか?」
教室前で、担任の沙織先生に声をかけられる。
「「はい」」
「ホームルームが終わったら、生活指導室に来てください。
進路について、少し質問があります」
その言葉に、胸の奥が少しだけざわついた。
遥と弥生も、同じ場所に呼ばれている。
「……鹿屋さんも、ですか?」
私が訊くと、沙織先生は頷いた。
「えぇ、そうです」
(どうして学校側から?
まだ2学期が始まったばかりなのに?)
私は、そう思いながら小さく息を整えた。
「はい。分かりました」
◆神域管理室◆
シャニア「今日が3日。彰斗が来るのが9日。
たしか、毎週日曜日とか言ってたわよね」
イレーザ「この世界の暦の数え方を覚えたのですね」
シャニア「こんなの簡単よ。まあ、覚えたのは、この暦表の数字と、並び方での呼び名だけね
この、一番左にある赤い数字の列が日曜日」
イレーザ「彰斗が用意してくれたカレンダーですね。
私達の世界には、週という単位も、曜日という単位もありませんから、面白いです」
シャニア「そうね。言葉は翻訳出来ても、文字までは無理なのよね」
イレーザ「絵柄としか認識しないからでしょう」
シャニア「……これさ、彰斗をこっち側の世界に連れて行った時、苦労しない?」
イレーザ「常に私が傍にいるので大丈夫です」
シャニア「……あっそ」




