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スライムを狩る仕事です。  作者: 紅花翁草


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101

 2学期の始業式が終わり、教室には独特の気だるさが漂っていた。


 夏休み明け特有のざわつきの中、ホームルームが始まる。

 担任の加納先生は、出席確認を終えると、こちらを見て視線を留める。


「多紀。あとで生徒指導室まで来い」


 一瞬、教室が静かになる。


(……身に覚え、ないよな)


 そう思いながらも、念のため訊いておく。


「すぐ終わりますか?」


「日本ハンターギルドからちょっとな。事実確認だけだ。直ぐ済む」


「判りました」


 それを聞いて、少し安心する。


「彰斗」


 隣の席から、美奈が小声で声をかけてきた。


「私はここで待ってるからね」


「うん。待たせてゴメン」


 自然なやり取り。

 それだけの会話なのに――


 それを、面白くなさそうに見ている視線があった。


 朝倉圭太だ。


「……へえ」


 わざとらしく、少し大きめの声。


「なんかやらかしたんじゃないのか? 多紀」


 教室がざわつく。


ハンターギルド。

 生徒指導室。


 その単語が、彼の中で勝手に結びついたのだろう。


「ギルドから呼び出しって、普通じゃないだろ」


 その言葉に、数人が視線を向ける。


 だけど、加納先生は即座に言った。


「朝倉。みっともないからやめろ」


 低い声だが、よく通る。


「自分の価値を下げるだけだぞ」


 一瞬、朝倉は言葉を詰まらせた。

 けど、すぐに噛みつく。


「ここで言えないって事だろ? そういう事だと、誰だって思うよな?」


 周囲に同意を求めるように視線を走らせる。


 加納先生は、深く溜め息を吐いた。


「これは、多紀本人の進路についての確認だ」


 ぴたりと、空気が止まる。


「プライベートな話を、教室でするわけがないだろ」


「……なんでギルドが進路に関わるんだよ」


 朝倉の声が、少し震える。


「まさか……養成学校への推薦なのか?」


 加納先生は、否定もしなかった。


「まあ、遠からず。って事だな」


 そして、釘を刺す。


「だから、軽はずみな言動はやめとけ、朝倉」


 朝倉は唇を噛み、小さく呟いた。


「……嘘だろ……なんで……」


 そして、納得したように続ける。


「あぁ、魔眼は最初は使えるからか」


 声が、次第に大きくなる。


「索敵だけだろ? パーティーの荷物持ちとしては優秀だもんな!」


 教室の空気が、重くなる。


 僕は、朝倉の挑発には乗らない。

 その、目的を理解していたから。


 白崎美奈。

 彼の視線の先にあるもの。


 だから、感情的に言い返す気はなかった。


 ただ、一つだけ。


「先生」


 静かに声を出す。


「それなら、白崎さんも一緒でも良いですか?」


 教室が、再び静まる。


「僕の進路について、決まったら伝える事になっているので」


 朝倉が、こちらを睨みつける。


「なんだよ、それ……!」


 加納先生は、また溜め息を吐いた。


「……判った。白崎も一緒に来い」


 そして、教室全体を見渡し、


「他の者は、とっとと帰れ!」





 生徒指導室は僕達だけ。もちろん静かだった。


「この学校で覚醒者が出たのは、4年ぶりくらいか」


 椅子に腰掛けながら、加納先生が独り言のように言う。


「その時も一人じゃなくて、数人いたな」


 少し間を置いて、こちらを見る。


「そいつらは普通に高校へ行った」


 そして、本題。


「多紀は、どう考えている?

 ちなみに、ハンターギルドから――」


 一瞬、言葉を選び、


「養成学校への特別推薦が来ている」


 驚きはした。

 でも、動揺はなかった。


 東円寺さん。

 ギルドの人達。


 思い当たる節はいくつもある。


「やっぱり、そういうのもあるのかぁ」


 思わず、そう口にしていた。


 その反応に、加納先生と美奈が目を見開く。


「……落ち着いてるな。

 全寮制。食事も生活費も、学業費用も全部無料だぞ」


 隣に座っている美奈が、僕の袖をぎゅっと握るのが分かった。


(離れる……)


 その不安を、必死に表に出さないようにしている。


「僕にとっては、それ全部デメリットなんですよね」


 はっきり言った。


「だから、推薦は受けません」

「そうなのか?」


 一瞬、不思議そうな顔をしてから、


「あぁ……妹さんか。すまん。忘れていた」

「はい」


 そして、もう一つ。


「収入に関しても、もう心配いらなくなったので」

「……そうなのか?」

「はい。先生が、僕の一日の収入金額を知ったら、たぶん怒ります」

「……まじでか?

 ここは聞く流れだよな?」

「……ですね」

「……いくらだ」

「150万円です」

「はっ?」


 加納先生が、素で声を上げた。


「マジふざけるな! えっ? 一日でそれか!?」

「はい。赤ポーションの騒動で、青ポーションの値段が以前の6倍になったので」

「……お前、それを作れるのか?」

「いえ。僕のギフト『魔眼』が、素材を効率よく集められるだけです。

 素材の買い取りだけで、その金額になります」


 しばらく、沈黙。


「……ハンターはハイリスク・ハイリターンだとは聞いていたが」


 額を押さえながら、呟く。


「それほどまでとはな……」


 少し考えてから、


「なら、高校には行かないのか?」

「いえ。母さんが、高校生活でしか得られないものがあるから行きなさいって」

「それについては、俺も賛成だ」


 加納先生は、頷いた。


「ハンターは大人になってからでも出来るが、高校生は今しか出来ない」

「はい」

「そうか」


 立ち上がり、締める。


「じゃあ、多紀は皆と同じように高校受験だな」

「桑名の高校を希望します」

「判った。学校からの回答は、そう伝えておく。

 話は以上だ」

「はい」


 生徒指導室を出ると、美奈が小さく息を吐いた。


「……よかった」


 その言葉に、僕は少しだけ笑った。


 選ばれる立場になっても。

 選ぶ基準は、変わらない。


 家族の為。それが最優先だから。


◆彰斗達が退出した後の教室◆


男子生徒「朝倉、おまえってそういうやつだったんだな」

朝倉圭太「なに? そういうやつって?」

男子生徒「誰かの努力を認めない。お前は、自分の努力を誇りに思ってたよな?

     それがなんだ? 俺はハンターの事は分からない。

     だけどな、多紀がずっと頑張っていた事は知っている。

     たぶんハンターになってからも、いつも通り頑張っていたんだろうな。

     だから、ギルドから認められた。

     そうじゃないのか?」

朝倉圭太「魔眼は、そういうのじゃないだよ。

     努力なんて必要ないんだよ」

男子生徒「分かった。それに関してはまあいい。

     だけどな、多紀と白崎の間に入るのはバカだろ?

     お前が覚醒者になったからといって白崎が多紀を捨てると?

     本気で思っているのか?」

女子生徒「「「「そうよ! そうよ!」」」」

    「現実をちゃんと見なさいよ!」

朝倉圭太「女子うっさい!

     ただの幼馴染だろ! あれくらい、俺と朱音あかねと変わらないだろ!

     幼馴染ってだけの関係だろうが!」

女子生徒「……朝倉、あんたそれ本気で言ってるの?」

朝倉圭太「当たり前だろ」


  バン!


朝倉圭太「痛ってぇ! おい! 朱音! ちょ! おい! 待てよ!」

女子生徒「「「「最低」」」」


男子生徒「朝倉お前……本当にバカだったんだな」



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