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わたしのジンくん


ガタンゴトン。

平日の空いてる電車に揺られて、人気の観光地まできた。

都心に近いところだし、電車で1時間もかからなかった。意外と近いんだなぁ。


ジンさんに恋してるって自覚してからも、ジンさんとは変わらずメッセージが続いてる。

日常会話も弾んでて、正直良い感じじゃない?

なんてね、わたしはいつも恋に前向き過ぎる。


今日も遊びに行くんだって、ジンさんには報告済み。ふふ。


「久々だなぁー!」

リンちゃんが楽しそうな声をあげる。

「ねぇミオ、ついこの前ここにユウキとジンが居たと思うとなんかやばいね。」

「うん。ロケ地巡りって全然してこなかったけど、意外とドキドキするね。」


わたしとリンちゃんは、あんまり聖地巡礼というものに興味がなかったんだけど、今回は二人で遊びにきてみた。

というのも、先週オンエアされた『ファムファムファーム!』で、ジンくんとユウキくんがペアになって食べ歩きするロケをやっていたから。


ジンくんとユウキくん、そのペアならわたしとリンちゃんが行かないわけにいかないよね!と、わざわざ有給を取っちゃった。


「平日でも割と混んでるね。」

「ほら、インバウンド?ってやつでしょ!海外の方も多く来てるみたいだよ。」


そんな話をしながら、商店街を練り歩く。

ジンくんとユウキくんが行ったお店はどこかなぁ。


ブブッ。


ジーンズのおしりのポケットに入れているスマホが震えた。

「ミオ待って、今お店調べるから。」

道の隅っこに立ち止まったタイミングで、わたしもスマホを取り出した。


「ミオちゃん、おはよう。

今日はお出かけって言ってたね。

楽しんでね。」


いつも通り優しいジンさんからのメッセージ。ちょっと口角が上がってすかさずリンちゃんにツッコまれる。

「ちょっとー。何にやけてんの?誰よ!」

「ん?いや、べつに?にやけてないよ?」

なぜか誤魔化そうとちょっと早口になる。

「あ、分かった!“ジンさん”でしょ!まだ続いてんの?あ、ねぇもしかしてジンだった?」

いたずらっ子のように笑うリンちゃん。

もう、からかわれてる。


「そんなわけないでしょ!あ、でもね、ジンくんと似てるところはあるかも。」

「え?どんなところ?」

「んー、例えば優しい言葉選びとか、なんか難しい言い方するところとか、複雑にものごとを考えてそうなところとか?」

「ねぇそれ、後半褒めてんの?」

リンちゃんがケラケラと笑う。

「ジンの悪口?」

「違うよ!わたしの好きなところだよー!」

必死に言い返してから気づく。

「へぇ?好きなところねぇ。」

にやにやとするリンちゃんを見て、やっちゃったと思った。


「もう!早く行こ。ほら、ここ真っ直ぐだって。」

慌てて地図を見せながら、道を指す。

「あ、ほんとだ。ミオやるじゃん。いつも地図読めないのに。」

「たまにはね?やるんだよ、わたしだって。行こ行こ。」


人を避けながら真っ直ぐ商店街を進むと、左手側に抹茶メインの喫茶店が見えた。

「あ、ここじゃない?ほら、写真あるよ。ユウキー!」

立て看板にロケの時の写真が貼ってあった。

写真を見ただけでリンちゃんはもう声が高くなってる。可愛いなぁ、もう。さっきまでわたしをからかってたリンちゃんとは別人のよう。


看板を写真に撮ってると、背がすらっとした海外の方が隣にきて、何か話しかけてきた。

「Are they〜〜」

英語分からない……でもFamousって言葉だけ聞き取れて、なんか「イエスイエス!」って答えてみる。


ジェスチャーで身振り手振り「I love he!」ってジンくんの写真を見せる。

よくわからないまま盛り上がって、バイバイってしたけど、リンちゃんは「さすがミオだわ」ってまた笑ってる。


「ああいうとき、絶対無視しないのも、徳を拾えてるんじゃない?ミオのそういうところ、尊敬してるよ。」

今度はすごく優しくリンちゃんが言ってくれたから、なんだかジンさんにも報告したくなった。後で言ってみようかな。


平日だったからか、すんなり座れたけど、店内はそれなりにお客さんがいた。

みんなジンくんやユウキくんのアクスタを出してる。

やっぱりファン仲間だぁ。


「楽しいね!」って話しかけてみたいな。

でも、やめておこう。

心の中にしまっておく。

人の引いてる線がたまに見えなくなるのは、わたしの悪い癖でもある。


ほんとはみんなで盛り上がって、Famousを応援できたらいいんだけど。

ジンくんのかっこいいところとか、ジンくんファンと喋りたいなぁ。

でも、突然知らない人に話しかけられたら、嫌な気持ちになる人もいるもんね。


「ジンのさぁ、あの時のあの顔めっちゃ可愛くなかった?」


ジンくんのこと話してる!

混ざりたい……分かるよ、あのアイス食べたときの嬉しそうな顔でしょ?

喉まで出かけた声をグッと飲み込む。


待て待て、わたし。

推し被りが苦手な人もいるでしょ。

推し方は人それぞれ。

わたしは平気でも、相手は気になることがあるかもしれないし。


周りには普通のお客さんもいる。

ここはライブ会場じゃないんだから。

Famousのためのお店じゃない。

横目でチラチラ見つつ、うん。

やめておこう。我慢我慢。


「ちょっとお手洗い行くね。」

リンちゃんが席を立ったので、スマホを手に取る。ジンさんにお返事しようかな。


「今日はこの前ジンくんがロケに来てた商店街に来てるんだ。抹茶のお店に入ったんだけど、全部美味しそうで、何食べようかなぁ。」

メニューを端から端まで見ても、全部が美味しそうに見えたから、そのままジンさんに送ってみた。

「そうなんだ。いいね。抹茶屋さんなら、抹茶しるこはどう?」


1、2分で返信が来る。

抹茶しるこ……あ、これか。

メニューの中から見つけると、すごく美味しそう。しかも、これジンくんがロケの後に食べたって裏話で番組ホームページに書いてあったやつじゃない?

オンエアでは抹茶ソフト食べてたのに、そのあとにおしるこも食べてたって。

他のお店でも色々食べてたのに。


ジンくんって、やっぱりたくさん食べるな。

そういうとこ好きなんだよね。ふふ。


それにしても、偶然がすごいなぁ。

これにしようかな。


「すごい偶然!ジンくんも抹茶しるこ食べたんだって。それにしようかな。一緒に考えてくれてありがとう。」


トイレは混んでいるのか、リンちゃんがまだ順番待ちしてるのが見えた。

先にアクスタ出して写真撮ってようかな。

ジンくんのアクスタを取り出して、先に出された湯呑の横に立てかけた。

和の感じも似合うなぁ。



あれ?俺、撮影のときは抹茶ソフト食べたよな。

この前ロケで行った抹茶屋さんに今ミオがいるらしい。

空き時間に食べて美味しかった抹茶しるこを勧めたら、なぜか俺が食べたのを知ってる。

……バレたかな?

いや、こんくらいならバレへんかな。


近くにいた高橋に聞いてみた。

「なぁ、この前のバラエティのやつ、俺抹茶しるこ食べたのどこにも載せてないよね?」

「え?……あぁ食べ歩きのやつですか?ジンさん主語無さすぎですよ。」


焦りすぎて聞いたからその通りだけど、高橋に言われるとなぜかちょっとだけ、ほんとにちょっとだけイラッとする。

「あぁ、ごめん。そう、あの観光地行ったときのやつ。」

「番組ホームページに裏話で、空き時間の様子載せるって言ってたんで、そこに載ってるんじゃないっすか?なんかありました?」

「あ、そうなん?いや、なんもないけど。」


あぁ、やっちゃったな。

ミオなら見てそう。

そんなに隅々まで、俺のことを追いかけて本当に可愛いなぁ。


……ファンとしてな。

ファンはみんな可愛いから。


一緒に考えてくれてありがとうって言葉が、ミオっぽすぎて、胸がきゅっとなった。


一緒にメニュー見て「どれ食べたい?二つ頼んでシェアしようか?」なんて、デートみたいなことしてみたいな。


いや、別に“ミオと”とは言ってないけど。


文字だけで伝わってくる無邪気さに、翻弄されてることは認める。

歌って踊ってるみたいな返信が、心から待ち遠しかった。


「そういえばね、さっき海外の方になんか聞かれたから、お話したの。わたし英語喋れないけど、ジェスチャーでジンくんのこと好きって伝えられたみたい。すごい?」


まったく、なんなんだこの子は。

なんでそんなに俺が好きだって、みんなに伝えたいの?

なんでそんなに真っ直ぐに、好きって言葉が飛んでくるの?


「すごいね。よく伝わったね。笑

さすがミオちゃん。そうやってなんでもやってみようってするところ素敵だね。」


素敵だね、なんて打ってるし。

いいや、打ち直すのもめんどうだから送っちゃうか。

……めんどうだからと言い訳してるようにも思えて、少しだけ耳が熱くなった。


「ほんと?それ、ジンくんみたいで嬉しいな!前に言った、ジンくんの好きなところ。覚えててくれたの?」


覚えてるよ。

ミオの言うことは、なんでもね。



「もー!トイレだけなんで混んでるの?」

やっとリンちゃんが帰ってきて、注文することにした。

わたしは抹茶しるこ、リンちゃんはユウキくんがオンエアでも食べてたわらび餅と抹茶アイスのセット。


待ってる間に、ユウキくんとジンくんのアクスタを並べ写真を撮った。

「待って、ユウキの顔が光っちゃって……」

リンちゃんが細かく角度を調整する。


「あぁ!ジンのアクスタ忘れたんだけど!」


通路を挟んで隣の席から、大きな声が聞こえた。

「え!なにやってんの?」

「ごめん、慌てて出てきたから。あぁ、めっちゃショックなんだけど。せっかくミニうちわまで作ったのにぃ。」


そろりと目だけを隣の席に移す。

アクスタに合わせたサイズのミニうちわに“ジン”って書いてある。可愛い!


「しょうがないから、タクマと撮ろう。」

もう一人はタクマくん推しみたい。

どうしよう。いきなり声かけたらびっくりするよね。

悩んだけど、やっぱり勇気を出すことにした。

「リンちゃん、ジンくんのアクスタちょっといい?」

「え?いいけど?」

リンちゃんは角度調整に夢中になって聞いてなかったみたい。


「あのぉ……」

恐る恐る隣の席の方に身体を向けた。

「わたしのジンくんで良かったら、写真撮るのに使いますか?」

もしかしたら、他人のジンくんには、うちわ見せたくないかもしれないけど。

嫌な気持ちにさせたらどうしようと、ドキドキしながら返事を待つ。


「えぇ!いいんですかぁ!?お姉さんの大事なジンくん!」

目をキラキラさせて、手を合わせて拝むみたいに見てる。

「いいですよ!わたしのジンくんイケメンなんで。たくさん撮ってください。帰ったら、あなたのジンくんが嫉妬しちゃうかもしれないけど。」

なんて、オタクにしか分からないことを言いながら、ジンくんのアクスタを渡した。

「ありがとうございます!」


二人でペコペコと何度も頭を下げてくれた。

パシャパシャと、何度も置き場を変えて、場所を変えて、写真を撮ってる。

最後には「ユウキも混ぜてー」ってリンちゃんが入ってきたから、タクマくんとユウキくんとジンくんのアクスタと、ミニうちわを並べてみんなで撮影会をした。

そんなことをしていたら、あっという間に頼んでいたものが届く。

「おまたせいたしました。こちら抹茶しることわらび餅セットです。」


「あ、きたきた!」

リンちゃんが席に戻ったので、わたしも席に戻る。

「お先にいただきますね。」って隣の二人に声をかけて、撮影会は終了した。


「ちょっとミオ、今ので満足しないで、これも撮るんだから。」

お盆を並べて、また撮影会。

カメラロールには今日の日付の写真がずらりと並んだ。


食べる前にジンさんに写真を送ろうかな。


「隣の席の人と仲良くなったよ。ジンくんのミニうちわ可愛いよね。頼んだのは、ジンさんが勧めてくれた抹茶しるこです。」


アクスタとミニうちわを並べた写真と、頼んだ品を並べた写真。

めちゃくちゃオタ活の写真だけど、ジンさんならきっと笑ってくれるだろうな。



ドラマ撮影の空き時間。やっと休憩だ。

腹ペコで楽屋に戻ると、ミオから写真が来てた。

あ、俺が食べた抹茶しるこだ。うまそう。

早く何かをお腹に入れたい。


その横にあるのはなんだ?

写真を拡大してみた。

自分とメンバーのアクスタが並んでる。

あとなんか小さいうちわ。凝っててすごいな。

こういうのって地味に嬉しい。


回る椅子に座って、くるくる椅子を回しながら、メッセージを読む。

海外の人、隣の席の人……

なんでミオはさっきから、知らない人と楽しそうにしてるんだろう。

自由に動き回って、無邪気で子どもみたいなのに、大人の気づかいをしてる。


誰にでもそうなんやろな。

そう思ったらチクッとした……気がしただけ。


椅子を止めて、そのまま後ろにぐーっと寄りかかって、天井を見上げる。

天窓から見える外は良い天気だ。

室内に引きこもってるのが、もったいない。


誰にも聞こえない小さな声で、小さな窓から見える太陽にだけこそっと言ってみた。


「俺も……ミオに会いたいな。」


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