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言っちゃった


「いつも味方だよ、なんて素敵なことを言ってもらえるジンくんは幸せ者ですね。 ミオちゃんはもう10年もジンくんが好きなの?ちょっと気になっちゃったんだけど、パートナーの人とか嫌がらないのかな?」


ミオちゃん、名前が書いてあるだけなのに、何このドキドキ。

スマホから鳴るアラームを止めて、眠い目をこすりながら画面を確認する。

ジンさんから返信が来てるじゃん!

一気に目が覚めた。


両手でスマホを握って、ゴロンとうつ伏せになる。

なんかちょっとくだけてくれてる感じ?

“好きなの?”だって。

思わず枕に顔を埋めた。

口角が上がらないように、ぎゅっと口元に力を入れた。


え、なんで?

わたし今にやけそうだったよね?

なんでこんなに惹かれちゃうんだろう。

顔も分からないのになぁ。


「そうです!10年ジンくん一筋で推してます。独身だし今は彼氏もいないし、心配御無用です!思いっきりジンくんを応援してます。ジンさんはパートナーの方がアイドル推してたら嫌だなって思うのかなぁ?」


文字を打つ指が踊る。

さり気なくわたしもタメ口で返してみた。 ふふ、そんなことで今度は口元が緩む。

返信が待ち遠しい。もう認めちゃおうかな。

いいじゃん、だって楽しいんだもん。


「そうだね、自分以外を見つめてるところを見たら、ちょっとヤキモチ妬いちゃうかもね。」


ヤキモチ妬いちゃうって!

可愛すぎるでしょ。

たったひとことで、こんなになっちゃうなんてね。

はい、認めます。わたし舞い上がってるね。

自分以外を見つめてるって表現が、ジンさんの人柄を表してるような気がする。

素敵だなぁ。

会ったことも、見たこともないのに、なんでこんなに惹かれるのかな。



ライブの翌日でも、基本いつも仕事だ。

鏡の前でメイクさんにセットしてもらってるけど、スマホが気になってしょうがない。

返事くるかな。


「ジンさん、そわそわしてません?珍しいですね。なんか良いことでもありました?」


最近よく担当してくれているメイクさんの声にハッとした。

前髪をサイドにクリップで留めて、綺麗に眉毛を描いてくれてる。


俺って、そんなに分かりやすい?


「いや、なにもないですよ。すみません、なんかやりづらかったです?」

「いえ、全然。彼女さん……ではないか。でも、ジンさんみたいな人が彼氏だったら、きっと幸せだろうなぁなんて、思っちゃいました。ふふっ。」


冗談っぽく言われたから、軽く笑ってごまかす。

「俺の可愛いファンのために、今日もいつも通りカッコよく仕上げてくださいね。」


ファン想いの俺の“立場”での、最善の答えを探す。

ごめんね、俺の感情はあなたには動かせないんだ。


「なんだよー。ジン、なんかあんの?」

すかさずコウが鏡越しに目を合わせるように、写り込んでくる。


「お前はもういいって、おとなしく座っとけよ」

「なんだよー!かまってほしいくせに!」

「はい、うるさい」


「ふふっおふたりは本当に仲良しですね。うらやましいなぁ。」


コウが席に戻ると、コソッとメイクさんが聞いてくる。

「ジンさんの“素の顔”ってどんな感じなんですかね?」


甘えたような声は聞こえないふりをして、このあと歌う曲を口ずさむことにした。

目を閉じて、心も閉じる。

ごめんね。


優しくは、してあげたい。

でも、中には入れない。


「ジン、今日このあとドラマのイメージ撮りだから、あんまり髪固めないでおいて。」


中ちゃんからの言葉に「おっけー」と返す。

あぁ、返事まだかなぁ。



ライブの次の日は、余韻に浸りたいからいつもお休み。


遅めのブランチを適当に用意する。

食パン焼いて、玉子焼きでいっか。


ソファでコーヒーを飲みながら、スマホを手に取る。

ジンさんにメッセージ返そ。


ジンさんはパートナー、いるのかな。

わたしに聞いてくれたくらいだから、いるのかもしれない。


聞きたいけど、聞きたくない。

わたしの中の二人のわたしが、話し合ってる。なんか揉めてる。ふふ。


でも聞かないと、進められないしなぁ。


……進められない?

わたし、進めるつもりなのかな。

なんかいつになく積極的じゃん。


「でもわたしはジンくんのことはしっかり見つめたいから、推しだけは特別に許してあげてほしいかも!笑

ジンさんのパートナーの方は推しがいるの?」


もし、お相手がいたらどうしよう。

だから聞くのやめなって言ったじゃん。

でも、もう聞いちゃったもん。

二人のわたし、まだ揉めてる。


もしいるならば……

ごめんなさい、ときめいちゃった。


でもさ、ジンさんはそういう人じゃない気がしない?

彼女とかいたら、めちゃくちゃ大事にしそう。

なんて、まだよく知りもしないのに。


ドキドキする。

次に来るメッセージで、今日のわたしのテンションが決まる──


「ミオちゃんはジンくんのこといつも見つめてるんだね。僕も今パートナーはいないよ。ミオちゃんみたいに、夢中になれる何かがあるの、羨ましいな。」


いないんだ!やったぁ!


……って思っちゃった。

やったぁ、でいいのか?

いいよね。


わたし、好きなんだ。


どうして?

──そんなの分からないけど。

ジンさんのメッセージひとつでこんなにも心が動くんだもん。

いいじゃん。


さっきからわたしの心、大パニック。


あぁ、わたし恋しちゃったんだな。


恋しちゃった……か。

ふふ、言っちゃった。


ジンくんを好きな気持ちと、ジンさんを好きな気持ちはすごく似てる。

二人とも好きって思うのは、都合良すぎる?


でも、二人ともちゃんと“好き”だと思うんだ。


まぁいっか。

自分の好きなものに正直でいよう。

Famousの曲にもそんな歌詞があったな。

確か、“理由のない名前”って曲だったよね。

歌詞検索のサイトを開いて、改めて読んでみる。


『好きな気持ちに名前をつけても

それは結局好きでしかなくて

好きな気持ちに理由を聞いても

それは結局好きでしかないよ』


好きって気持ちに他の名前はないし、好きって気持ちに理由なんていらない。

……ってことだよね?


うん、そうだよ。

きっとジンくんは許してくれるはず。

都合良く解釈して、納得しちゃう。

だって、わたしっぽくていいじゃん。


ジンくんを好きな気持ちも、ジンさんを好きな気持ちも、大切にしよう。

きっと全部がいつか、わたしの糧になるから。



歌番組の収録を終えて、楽屋に戻るとすぐにスマホを手に取ってしまった。

やばいな。

またそわそわしてるって言われそう。

平常心を装ってメッセージを読む。


「そっかぁ。いないんだね。同じだね!

こんなに夢中になれるジンくんが、本当にすごいんだよ。ジンさんも夢中になれるように、これからジンくんのことたくさん教えてあげるね!」


俺に、俺の良いところ教えてくれるの?

ミオは何を言い出すか分からなくて、どんなところを褒めてくれるのか楽しみになる。


「ジンさん。このあとドラマのお仕事なんですよね?すぐ入れるようにメイク落としておきますか?髪も直せますよ。」

さっきのメイクさんがシャツの裾をつかんできた。

一瞬で現実に引き戻された。


上目遣いにツヤツヤの唇。

はぁ。何を考えているのか分かる。

分かりたくないけど。


色んな欲が渦巻く世界だから。


こういう感覚が嫌いだ。


「あ、いいっすよ。自分でやりますね。ありがとう」

ニコッと営業スマイル。それでもスタッフさんはね、大事にしないと。


「あ、でも……」

と、引き止められそうなところで、タカユキが後ろから肩を組んできた。


「すいませんね、もう出ないとなんです。」

言えなかった言葉を代わりに言ってくれて、

そのまま自然に一緒に歩き出す。


「あ、はい。お疲れ様でした。」

メイクさんは俺達に深々と頭を下げて、見送ってくれた。


「大事にするのはいいけど、自分を苦しめないようにしろよ?」

こそっと耳元で言われた。

タカユキは優しい。

すぐに俺の空気を読んでくれる。

昔からずっとそうだ。

「大丈夫だよ。サンキュ」


早く落ち着いた場所で返信したくて、急いで荷物をまとめて車に乗り込んだ。


「なに急いでんの?」

先に乗ってたユウキに言われる。

「別に急いでないけど?」

「ふーん……」


含みを持たせた返事に、ちょっとだけムッとしながら、最後部に座る。

「なんだよ。」


「いや?」とユウキは視線を台本に向けたまま答えた。

なんか探ってるな。

スマホは一旦ポケットにしまった。


「へぇージンそうなんだぁ。」

コウがにやついてる。うるさいなぁ。

「何がだよ、みんなして。」

「別にー?」とにやにやするコウにも、なんか腹が立つ。


メンバーとはデビュー前からだから、もう十年以上の付き合い。


気をつけないと。

なにを言われるか。


「あのメイクさん、絶対ジンに気があるよねー。」

車に乗り込みながら、タクマが余計なことを言う。

分かってるから、口に出すなよ。

「ジンにだけ近いよね?めちゃくちゃ親切だし。俺には聞いてくれないのにな。

あぁ、メイク落としちゃいたかった!」

甘えた声で駄々をこねる。子どもか。

隣に座って寄りかかってきて、重い。

「ちゃんと座れよ。」

「えー、だって眠いんだもん。」


肩にコテンと頭を乗せる。

寝るポジションに入られてしまったから、諦めて背もたれに寄りかかった。

そんなやり取りをしながらも、ポケットが気になる。


最後にタカユキが来た。

「こら、タクマ。ジンも疲れてるんだからちゃんと自分で座りなさい」


移動車もメンバーといるとなんだかにぎやかだ。

いつになったらミオに返事出来るんだろう。


胸の奥でずっと“ピロン”と鳴っている気がした。


同じように──

鳴り響いていてほしい。




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