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味方だよ


「大好きで、大好きだったんですね。笑

楽しめたようで何よりです。ライブのときはうちわとか出す派なんですか?」


ジンさん、うちわの事とか知ってるんだ。

推し活を始めたいのかな...…うーん。

それとも、わたしの布教活動のおかげで、Famous好きになってくれたのかな。

もしそうなら嬉しいな。

わたしめっちゃすごくない?


……でも、違うか。

酔ってるせいか考えすぎちゃうなぁ。

質問の意図を探ろうとしてみてるんだけど。

考えても全然分かんないし。


それなら、素直に聞いてほしいことを送っちゃおう。


ジンさんと知り合ってすぐ、こんなに良いことがあったんだもんね。


「うちわ出しますよ!あの、聞いてくれますか?実はジンくんを好きになって10年経ちますが、初めての経験をしたんです。すごすぎて、誰かに言いたくなっちゃって。テンション高くてすみません!でも下がりません!笑」


「気になりますね!ぜひ教えてください。テンション高くていいですよ!笑」


「ほんとですか?ありがとうございます!

ちょっと長くなりますが。


実は今日初めて最前列に入れたんです!!こんなこと推し活人生であっていいのか……ってくらいの奇跡なんで、本当に生きてて良かったです。笑 

たぶん、ハンカチを拾ったからなんです。

やったぁ、です。


また明日からも頑張ろって元気をもらえました。 わたしが良い人でありたいと思えるのはジンくんのおかげなんです。

だからジンくんに誇れる自分でいようと思ってるんです。


酔っ払いが語ってますね!すみません笑」 


ここから、すぐに来ていた返信が、ピタッと止まってしまった。

語りすぎたかな。

あ、もしかして自慢みたいだった?

ちょっと聞いて欲しかっただけなんだけどなぁ。


引かれちゃったかな……。


スマホをベッドに放り投げて自分もその横に転がる。

あー、送らなきゃよかったかな。


でも、聞いて欲しかったんだよな。

なんかジンさんには。


よし、気を取り直してお風呂にでも入って、さっぱりしてから考えよ。

不安を誤魔化すように起き上がって、タオルと着替えを手に取り、お風呂場へ向かう。


「はぁ、さっぱりした!」

独り言にしてはちょっと声が大きくなっちゃった。

さっきまでの気合いの入った服とは正反対の、ゆるゆるのパジャマに身を包む。

化粧水をぱしゃぱしゃ適当に塗って、疲れたからスキンケアもそこそこにソファにドカッと腰を下ろす。

ふぅー。

ベッドに放り投げたスマホに目をやると。


ピカッ。


光った!ジンさんかな!?


「ミオー!寝れない!楽しすぎて寝れない!」

キャラ崩壊中のリンちゃん。可愛いな。


……リンちゃんか。

って思ってごめんね。


「わたしもー!やっとお風呂に入ったよ。

まだ夢の中にいるみたいだよね。

ジンくんの顔がすぐ浮かんじゃうよー。」

そんな返信を打ちながら、ライブを思い出す。

すると、今度は何だか嬉しそうにスマホが“ピロン”と音を出した。


「最前列なんてすごいですね。僕も想像出来ます!テンションも上がっちゃいますね。ちなみにどんなうちわを持っていたんですか?」


わっ!ジンさんだぁ!


一気に頬が緩んだのが分かった。

……今の顔、ジンくんには見られたくないな。


さっきの長文で引かれちゃったかと思ったから安心した。

いつもの優しいジンさん。


“僕”かぁ。やっぱり男性なんだ。

そっか。

嬉しいような、くすぐったいような、なんかむずむずする。


そういえば、さっきもうちわの事聞いてくれたのに、答えるの忘れてた。

「いつも色んなの出すんですけど、10年くらいずっと、伝えたくて使ってるのは“いつも味方だよ”ってうちわですね!今日も持ちました。」


またスマホが“しーん”としてしまった。

今度は変なこと送ってないよね…?

何度も送信したメッセージを読み返す。

大丈夫だと思うんだけどな。

ふと、時計を見るともう0:00を過ぎていた。

やだ!日付が変わってる。もう寝てるのかもな。わたしも寝ないと。

布団をめくりベッドに入ると、布団とシーツの冷たさに少し冷静になる。


高鳴る胸をなんとか落ち着かせて眠りにつこうと、目を閉じた。


ドキドキ、ザワザワ、ワクワク、グラグラ。

この胸の音はなんのせい?


ライブ?最前列?

それとも──


頭をよぎりそうになった言葉を慌てて遮る。

会ったこともないのに。


きっとこれはジンくんに会えたから。

そう自分に言い聞かせて、一度大きく息を吸った。



「ライブのときはうちわとか出す派なんですか?」


聞いた自分に本当にびっくりした。

それを聞いてどうするんだ?


「あの、聞いてくれますか?」

何のうちわを持ってたのか知りたかったのに。教えてくれないどころか、ものすごいテンションの高い返事が来た。


いつもなら、要点を伝えて欲しいと思っちゃいそうなんだけどな。

文字だけで伝わる笑顔に少し胸が高鳴る気がした。

なんでこんなに素直で、まっすぐで、文字だけで感情が伝えられるんだろう。

何がそんなに楽しかったのかな?


いや、この人は俺のファンだから。

だからきっと可愛いと思えるだけ。

気になっても仕方ない、俺のファンだからね、そう何度も言い聞かせた。


でも、スマホの光がやけに眩しい。


──教えて?

俺となにかあったの?


あの笑顔みたいな文字がまた読みたい。

その笑顔の元が俺だったらいいのに。


……俺だったらいいのに?

なんで?


思わず首を振った。


「最前列」

その文字を見て息が止まった。

あの、ヒマワリのような光の子。


最前列なんか何人もいるのに、すぐにあの子が思い浮かぶ。


ハンカチを拾ったからっていうのはどういう理屈なの?

おもろいな。

最前列となんの関係があるのか、さっぱり分からなくて、ふっと声が漏れた。

そんな不思議なところが、可愛く思えて。


可愛いって、普通にな。別に普通に。


「わたしが良い人でありたいと思えるのはジンくんのおかげなんです。 」


心臓が大きくドクンとはねた。


俺が心の中で何回も何回も復唱した言葉。

あの手紙……。


いやいや、と思いながらもどこかでもう間違いないと確信している。

黒い皮のソファに浅く座って前のめりになっていた身体が急いで立ち上がり、慌ててバッグに手を伸ばした。


カサッと乾いた音と共に手紙を取り出し、つるんとした可愛らしい封筒を裏返す。


差出人の名前は──


全身に痺れるような感覚が走る。


「ミオ」


あぁ、やっぱり。


そうか。

そうだったんだね。


じゃあ、今日の最前列の子もきっと「ミオ」だ。

なぜか、そうであって欲しい、その願いが膨らんでいく。


呼ばれたのは、気のせいなんかじゃない。


そう思ったら確かめたくて。


でも、それでどうする?

それを聞いてなにがしたい?


ファンと俺。


その境界線を俺はずっと守ってきたのに。

感情のまま返信しそうになる指をなんとか止める。

よく考えろ。

俺はどうしたいんや。


知りたい……知りたい。


左手に手紙の封筒、右手にスマホを持ち、左、右、左、右と視線を行き来させる。

「ミオ」


やっぱり、確かめたい。

これはただの衝動やない。


ソファに深く座り直し、一文字ずつゆっくり親指で触れる。


次にスマホが“ピロン”と受信の音をたてたとき、全部が繋がった。


「いつも味方だよ」


やっぱりそうや。

ミオだったんだね。

やっと見つけた。

ずっと探していた人、そんなふうにさえ思ってしまう。


俺、気になるんだ。

ファンだからじゃなくて、この子だから。


なんで?

──そんな言葉も思い浮かばないほど、運命の糸に引っ張られているみたい。


自覚した瞬間に、心が踊る。

なんだか変な感じ。

浮かれた返信をしてしまいそうで、一旦スマホを置いた。


いや、待てや。気になってるだけやし。

なぜか自分に言い訳をする。

惚れた腫れたとかじゃなくて、ただ気になるだけ。

それだけなんだからいいよね。


これ以上何かを自覚してしまったら、もう戻れなくなりそうで、考えるのをやめた。


なんとなく、ただそれだけだから。


洗濯乾燥が終わったから、先に畳むか。

日常に戻ることで、余計に胸が高鳴った。

黒いドラム式の洗濯機から、白いカゴに洗濯物を放り込む。


仕事じゃなくて、プライベートで、まさかこんなに浮かれてるなんて。

俺のキャラじゃないよな、分かっているけどもうスマホが気になって仕方ない。

溢れる気持ちだけが止まらない。


返そうか、やめておこうか。


カゴを両手で持ったまま、部屋の中をウロウロしてる自分は情けない。


だから、気になるだけなんだけど。

なんか、知りたいだけなんだ。

ただそれだけなんだけどね。


迷っているうちに、夜中になってしまった。

明日返そう。

そう思っただけで、朝が来るのが楽しみになる。


こんな気持ちはいつぶりかな。


もっと色々教えてほしい。

もう少しだけ顔が見えてたらな。

なんだか眠れそうにないな。


早く──明日にならへんかなぁ。





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