違和感
コウの報道以来、ミオから連絡が来なくなった。
なんとなく、俺からも連絡してないけど、糸が途切れたわけじゃない。
ただ、今は「おはよう」や「おやすみ」を言えるタイミングじゃないのは分かってる。
これから、長く時間を過ごすなら、そんなときもあるよな。
俺もミオも見ているところは同じだから。
お互いを大切に思ってることは分かってる。
だから、すぐに元通りになるよ。
ねぇミオ。
サルスベリもヒマワリも今は時期じゃないけど、咲いたら一緒に見に行こう。
冬は二人でイルミネーションでもいいね。
「綺麗だね。電球何個あるかなぁ。」
とか、またどうでもいいこと言ってくるでしょ。
ミオとなら一緒に数えてあげてもいい。
何十個でも、何千個でも、ミオになら付き合ってあげるよ。
でも、どうせ途中で飽きるんだよ。
「二十個数えた!」とか嬉しそうにさ。
自信満々な顔して言うんだよ。
春はお花見もいいね。
桜の下で嬉しそうに走り回るミオ。
頭にたくさん花びらを乗せて、ニコニコしてるんだろうな。
でも、菜の花畑がミオには似合いそうだな。
一面黄色に染まった花畑を踊るように駆け抜けていく。
振り返って「遅いよー!」って笑ってさ。
夏にはかき氷でも食べに行こうか。
「つめたいー!」なんて、冷えた手を首に当ててきて、びっくりする俺をケラケラ笑って見てるかな。
花火もいいね。さすがに花火大会には行ってあげられないけど、マンションのベランダから見れたらいいな。
「半分しか見えないじゃん!」って笑い合って。
どんなことでも、ミオとなら笑ってるところが思い浮かぶんだよ。
いつか、あのゴールドのブレスレットを渡して「ずっと一緒にいよう」って言おう。
俺の腕には色違いのブレスレット。
ミオは「なにそれプロポーズ?」って笑うんだ。
クシャッて目を細くして、照れてるのがバレバレなんだよ。
きっと、ちょっと鼻が赤いでしょ。
手につけてあげたら「おそろいなの?」って喜んで、腕を並べてきそうだね。
大きなダイヤの指輪より、ミオには花がよく似合う。
どんな宝石よりも、嬉しそうなミオの瞳が、一番輝いていて、綺麗なんだ。
ミオといる未来なら、いくらでも想像できるんだ。
人が想像できることは、必ず実現できるってどっかの誰かが言うてたやん。
だから、これは必ず起こる未来なんだ。
そのためなら、なんでもするよ。
なぁミオ、いつもみたいに言って。
当たり前みたいに笑って。
ミオから送られてくる言葉が、二人のこれからだから。
ファイナル公演の前夜。
最終リハーサルのために、ステージに上がった。
まだ、誰もいない客席に向かって大きく手を振る。
花道を走って移動していると“カラン”と小さな音がした。
振り返って足元を見る。
あのピアスが落ちてる。
ズキッと胸に痛みが走った。
大丈夫や。落ちただけ。
肩に目をやると、バックピンが引っかかっていた。
良かった。失くしてない。
大丈夫、何も消えてない。
ミオはちゃんと、俺の中におる。
「ジン、早く戻ってー。」
イヤモニにスタッフからの指示が飛ぶ。
急いでピアスを拾って、メインステージまで走った。
着ける時間はなくて、大事にポケットにしまう。
そのまま真っ直ぐ、いるべき場所へ。
ユウキに「なにやってんだよ」って言われつつ定位置に立つ。
左に顔を向けると、メンバーが立ってる。
タクマ、ユウキ、コウ、タカユキのいつもの順番。
普段より大人しいコウに「いつものウザさはどうしたの?」ってタクマがおちょくったりして。
タカユキが目で合図を送ってくれるから、歌い出しもバッチリ合わせて。
次の曲がかかると、身体が音に合わせて動きだす。
ダンスもしっかり入ってる。
声も出てるし、調子良い。
ポケットのピアスだけが、たまに脚を刺す。
問題なく踊れてるけど、脚に感じる刺激が心地悪い。
誰にも気づかれてはいない。
でも、俺にだけ確かに感じてる違和感。
悟られないように、笑顔をつくる。
このまま何事もなく、ツアーは終えられる。
それだけを信じて、踊り続けた。
終わったら、ピアスをつけ直す。それだけ。
ミオ、ファイナル見に来てくれるのかな。
そっとブレスレットに触れた。
明日は連絡してみよう。
ミオと話せば、この不安な気持ちもきっと落ち着く。
……不安なのか、俺。
ミオが俺の理由なんだよ。
未来に期待させて。
俺のじゃなくて、ミオと俺の未来。
ねぇミオ、お願い。
どこにも行かないって言って。
誰のとこにも行かないって教えて。
空っぽの客席に向かって、大声で叫びたくなった。
どうか、俺からミオを取らないで。
ファイナル公演当日。
また落とすといけないから、ピアスは違うやつに変えた。
高橋が買ってきてくれたカフェのコーヒーは、いつもより甘いやつ。
会場に向かう車の中で、朝食をとる。
サンドイッチが食べたかったけど、おにぎりを渡されたから、それを食べた。
いつも朝から騒がしいコウだけど、あれからちょっと元気がない。
いつも寝坊するタクマは、今日は時間より前に降りてきてた。
ユウキとタカユキはいつも通り寝てるけど。
俺はいつも乗るところとは違う、助手席の後ろの席で、ミオにメッセージを送った。
すぐに既読が付くのに返信がない。
いつもは読んだらすぐに返してくれるのに。ミオからの言葉に安心するはずだったのに。
──どうして?
ねぇミオ。
今すぐに、俺だけが好きだと言って。




