デート
「ねぇミオ、今からデートしない?」
デート?
ジンくんから突然来たお誘いにちょっとびっくり。
デートなんて初めて言われた。
外は真っ暗だし、時間も遅い。
急にどうしたんだろう。
何かあったのかな。
「デート?今から?」
「うん。今ね、地方に来てて、スタッフさんたちと飲んでたんだけどさ。外にでたら星が綺麗なんだ。ミオも、星が見えるところに行ける?」
そういうことか。
なんだか可愛いお願い。
それをデートって言っちゃうジンくんが、さらに可愛い。
隣に呼ばれたみたいな気分になって、グレーのコートを手に取って、わ急いで玄関に向かう。
もこもこの靴下に、サンダルをつっかけてドアを開けた。
エレベーターに乗りながら、返信を打つ。
マンションのエントランスを抜けて、管理人さんお気に入りのプランターの前に立つ。
今は紫のパンジーが咲いてる。
外に出ると、やっぱり少し肌寒いな。
でも、空気が澄んでてなんかおいしいかも。
「外に出たよ。こっちは少し曇ってるかも。ジンくん寒くない?」
「うん、寒くないよ。ミオは寒い?風邪ひかないようにあったかくしてね。
本当は、俺が隣であっためてあげたいなぁ。
ぎゅーってしてさ。そしたらミオ、真っ赤になっちゃうかな。」
ふふっ。
ついくすっとしてしまった。
ジンくんが甘えたこと言ってる。
デートなんて言うのもなんか変だし、地方にいるって言うし、これは酔ってるな。
「ねぇジンくん、もしかして酔ってる?めずらしいね。」
ジンくんお酒強いのになぁ。
少し冷たくなった指先で、返事を打つ。
「うん、バレたか。ちょっとだけ飲み過ぎたかも。」
やっぱりね。
地方ってどこかなぁ。
寒くないってことは南の方かな?
でも聞かない。
仕事のことには踏み込まないように、いつも気をつけてる。
本当はどこにいるのか、何をしてるか、気になっちゃうけどね。
テレビや雑誌で見るまでは、何も分からないままなの。
「ほら、月が見えた。ミオにも見える?」
空を見上げると、雲の切れ間に月が見えた。
細い三日月。いつもなら気にもとめないほど細くて、またふふっと声が出た。
「見えたよ。ほそーい月がね。笑」
ジンくんも見てるんだ。
満月でもない、なんでもない日に同じ月を。
きっとジンくんは地方にいるから、もっとたくさんの星が見えてると思う。
目に映るものも、見える景色も全部違う。
ジンくんは色んなところに行って、色んなものを見てる。
色んな人に触れて、色んなことを経験してる。
たくさんの人に影響を与えて、元気にして、本当にすごいなぁ。
わたしとは、いつも見てるものが違うんだ。
「ほそーいって言うなや。綺麗やん、細い月。俺みたいやん。」
突然の関西弁に、今度は声を出さないように、口に手を当てて笑った。
そういえば、ご両親とは関西弁で話すって言ってたな。
これめっちゃ酔ってるんじゃないの?
初めてのジンくんの関西弁。
可愛いなぁ。愛おしい。
ジンくんのこと可愛いって思える日が来るなんて。
薄く見える星を数えてみた。
「ねぇ、ジンくんの空には星が何個見える?」
「アホ。数え切れへんわ。」
“アホ”だって。可愛い。
「いつもミオは俺の思いもつかんこと言うやん。ほんま不思議やな。
ミオには何個見えてんの?」
それでもちゃんとノッてくれる。
優しいジンくん。
「十個まではちゃんと数えたよ。笑」
「それは数えたうちに入らへん。笑
俺は二十個まではいってたで。」
見えてる数が、違ってもいいじゃん。
細い三日月でもいいじゃん。
ジンくんが何してるか知らなくても、ジンくんがどこにいるかわからなくても。
それでいいんだもん。
今、同じものを見上げている。
──隣りにいるみたいだね。
「ねぇ、ジンくんの夢ってなぁに?」
「夢かぁ。色々あるけどな。Famousとしての夢なら、ファンの人全員に会うことやな。」
「全員に?すごいね!それいいじゃん!」
「せやろ?みんなの顔見て、お礼を言いたいやん。いつも応援してくれてありがとうってな。みんなのおかげで俺がいるんやでって。」
ねぇ聞いた?
みんなに聞かせてあげたい。
わたしの好きな人はね、こうやって誰かを大切に思える人なの。
感謝の気持ちを持てる人なの。
わたしの好きなジンくん。
「その夢、絶対に応援するね。」
「ほんなら、まずミオに伝えるわ。
いつもありがとうね。応援してくれて。
ミオがいるから、なんでも叶えられそうって思うんやで。」
星空の下で、なんてロマンチックなこと言うの。
……ちょっと照れた。
「あ、飛行機!見えた?」
「それは、さすがに見えへん。笑
照れてるやろ。話逸らして可愛いな。」
「飛行機見るとね、いつもジンくん乗ってるかなぁって思うんだ。」
「俺はパイロットやないから、そないに飛行機乗ってへんよ!笑」
「確かに!そっかぁ。笑
でもね、わたし飛行機雲好きなの。」
「そうなん?ええやん。飛行機雲見つけたら、すぐミオに教えるわ。」
ふふ、こんななんでもないやり取り。
寒いはずなのに、あったかいな。
ジンくん今ね、隣であっためてくれてるみたいだよ。
「そういえば、ミオが前に送ってくれた“サルスベリ”は夏から秋にかけて咲くらしいで。また来年も写真送ってな。」
ジンくんって本当になんでも覚えてるな。
わたしのことはなんでも。
「そうなんだ。ジンくんは物知りだね。すごい!これからも色々教えてね。」
「物知りなんやなくて、ミオに教えたくて調べてるんやで。でも、それ言うたらカッコ悪いから、ミオにはナイショな。」
なにそれ。
酔ってるジンくん、素直だな。
ジンくんの心の声って、こんな感じなんだね。
ジンくん、わたしにカッコつけたいんだ。
カッコイイって思ってほしいんだ。
ずるくない?それ。めっちゃ可愛いじゃん。
そんなの聞いたら、ちょっとお返ししたくなっちゃう。
「ねぇジンくん。
わたしほそーい月、好きだよ。
ジンくんみたいだから、かな?」
かじかんで動かしにくくなった指で、短く送った。
ジンくんも照れちゃえばいいんだ。
今日はとことん、可愛いジンくんでいて。
「なんやねん。ずるいわ。
俺も好きやで。」
間を開けずに、シュポッと続けて届いた。
「ほそーい月が、な。」
もう一度、空を見上げる。
今度は照れて笑ってるみたいに見えた。
ジンくん、わたしも。




