偉いね
ミオを見たあの日。
そこに確かに、ミオが存在した。
俺の好きな人。
「ミオ、俺たちまたここから始めよう。」
それから、またミオとの文字だけのやりとりが再開した。
少しずつ、少しずつ。
ミオとの繋がりは濃くなってる。
メッセージのやり取りはどんどん積み重なって、もう距離なんて感じないくらい。
ミオのこと、全部知った気になって、それでももっと知りたいなぁ。
俺だけがミオの言葉をもらってる。
なんて、思ってもいいかな。
「明日、同窓会があるんだ!10年ぶりかなぁ。楽しみだなぁ。」
今日は予定より早く仕事が終わって、久しぶりに家でのんびりしてた。
ソファに座ってチャンネルを回していると、ミオからメッセージが来た。
「そうなんだ、いいね。楽しんできてね。」
同窓会って響きが、少しザラッとした。
どんな人が来るんだろう。
……元彼とかいたりして。
何着ていくのかな。
きっと、ミオはお洒落して行くんだろうな。
見たいなぁ。
「ジンくんは同窓会とかあんまり行けないのかな?何も考えずに言ってごめんね。」
そんなに気遣わなくていいのに。
ミオの良いところでもあり、心配なところ。
「そんなことないよ。謝ることじゃないよ。
でも、じゃあ……写真送って見せて。
どんな服で行くの?」
テレビはそっちのけで、スマホにだけ集中する。
きっとミオものんびりタイムだったんだな。
すぐに帰ってくるメッセージに自然と口元がゆるくなる。
「えー、恥ずかしいよ。あのね、ドレスコードのあるお店だから、新しいワンピース買っちゃった!
青いやつにしたんだぁ。肩のところがね、お花のレースになってるの!」
「青って、俺の色だから?
余計に見たくなっちゃったな。
お花のレースってミオに似合うだろうね。
俺も何か送るから。
着てるとこ見せてほしい。ね?」
「そんなに見たいのー?笑
じゃあ、これだよ。チラッとだけ見てね?
ジンくんからの写真も楽しみにしてる。」
写真には、鏡の前で青いワンピースを身に纏うミオ。
ちょっと顔も写ってる。
照れた顔してて可愛いな。
光を吸い込むような花模様のレース、少しだけ胸元の開いたシルエット。
すごい綺麗や。
……保存してもいいかな。
いやいや、ダメ。
でも、送ってくれたんだし。
いっか、内緒にしとこ。
誰が、見るんだろう。
──誰にも見せたくないなぁ。
……って、何考えてんねやろ。
ミオは、いつも自由やからええねん。
「似合ってるね。青すごくいいよ。」
「ありがとう。恥ずかしいなぁ。
青着てジンくんファンだってアピールしてくるね!」
もう、ミオはほんとに可愛いことばっかり言う。
「じゃあ、それ着て俺にもアピールしてもらおうかな。ジンくんファンですって。笑」
こんなこと送って、一人で耳まで赤くしてる俺なんて、想像できなかったな。
ほんの少し前まではね。
スマホをテーブルに伏せて、ソファの背もたれに寄りかかる。
「はぁ」とため息が出るけど、絵で書くならハートが出てそう。
いやいや、何言うとんねん。
「もう、からかわないでよー!
ジンくんには、いつもいっぱいアピールしてるもん!」
飛び跳ねるような返信が来る。
ミオの耳も赤くなってそうだな。
手で顔を隠して「きゃー」って言ってるでしょ。
でも、“いつもいっぱいアピール”って……
なんでいちいち胸をギュッと掴んでくるの?
可愛いって、こんなに思わせてずるいな。
「あ!そういえば、今日カフェで隣の席になったおばあちゃんとFamousの話で盛り上がったよ。タクマくんのファンなんだって。ジンくんもかっこいいって言ってたよ!」
そうかと思ったら、これ。
こうやって、突然変わる話題にも慣れてきた。
ドキッとしてるのは、俺だけなの?
こんなにも俺の感情を振り回してくるのは、ミオだけだよ。
でも、これが心地よくて。
もっと振り回してもいいよ、なんてね。
ミオには絶対言わないけど。
言ったら……
もう、戻られへん。
「そうなんだ、嬉しいな。」
「なんかね、コーヒーこぼしちゃったみたいだったから、一緒にかたづけたの。偉い?
それで仲良くなったんだ。
でも、最後にわたしも自分のバッグひっくり返しちゃった!笑」
何をどうしたらそんなことになるんだろう。
でもひっくり返して、目を丸くするミオ。
手をバタバタ動かして余計に散らかすミオ。それで笑ってるミオ。
全部が想像できる。
面白いなぁ。俺には不思議なことばかり。
偉い?だって。
そんなこと聞いて、褒めてほしいのかな。
「一緒に片付けてあげるなんて、優しいね。偉いよ。ミオのカバンは大丈夫だったの?中身ちゃんとあった?」
「えへへ。ジンくんに褒めてもらうと嬉しい!カバンは大丈夫だったよ。ありがと。」
そういえば、ミオは前にも言ってたな。
「バスで隣の席のおじいさんが分かんないみたいだったから、降りる場所教えてあげたの。偉い?
お礼にみかんもらっちゃった!笑」
そんなに、“俺に”褒めてほしいのかな。
ほんとに、可愛いなぁ。
頭に優しく手を置いて、目を見て言ってあげたい。
「偉いね」「優しいね」って。
そしたらミオは「えへへ」って笑うんでしょ。
近くで感じたいな、ミオの笑い声を。
そのままぎゅっと抱きしめて、腕の中に閉じ込めて、俺のって思ってみたいなぁ。
……っておい、これは、ちょっと行き過ぎた想像だな。
ごめん、ミオ。
しかしミオは、どこに行ってもいつも誰かと話してるな。
なんでそんなにすぐに、声をかけられるんだろう。
みんなも、何か吸い寄せられるのかな。
本当に不思議。
ミオの魅力はなんなんだ?
「徳をね、拾って歩くと良いことあるんだよ!Famousのライブで最前列引いたわたしが言うんだから、間違いないよ!」
とかも言ってたもんな。
なんでも楽しい方向に持っていくんだ。
俺にはない考え方。
あ、今思い出したけど、前に言ってた“ハンカチ拾ったから最前列だった”ってそういう意味だったのか。
何回も言って、よっぽど最前列が嬉しかったんだろうな。
でも、その思考回路が全部ミオらしいなぁ。
善いことをして、自分に返ってくる。
そういう循環を始めるのはミオみたいな人なんだ。
きっと、みんなを勝手に照らしてるのかな。
笑って、あたたかくて、心地よくて。
いつの間にか陽だまりに入ってる。
同窓会、心配だな。
みんながミオを好きになったら、どうしよう。
みんながあのあたたかさに触れたくなったら、どうしよう。
俺の目にだけ、そう見えてればいいのに。
誰にも気づかれないでいて。
「ミオ、明日同窓会から帰ったら……連絡くれたら嬉しいな。」
「うん!遅くても平気?」
こうやって当たり前みたいにしてくれるミオに、ほっとする。
楽しかったよーって言ってもらったら、このモヤモヤも晴れるんやろか。
ミオの同窓会当日。
こういうときに限って、早く帰れるんだよな。
仕事してたほうが気が紛れるのに。
腕に光る花モチーフのブレスレットを外して、定位置に戻す。
でもなんか、またつけた。
今日はまだ、外したくない。
ソファから立ったり座ったり。
夕飯を宅配しようかなぁなんて、スマホをスクロールしても何も目に入ってない。
ミオ、早く帰ってこないかな。
壁にかかっている時計をもう何度見たか分からないけど。
なんか、秒針進むの遅くない?
“ピロン”
すごい速さで手がスマホを取った。
「ジンくんただいまー!今帰ってきたよ。ちょっと飲み過ぎたなぁ。」
ミオが無事に帰ってきた。
ひとまずほっと胸を撫で下ろす。
そんなに遅くならなかったな。
よし、偉いね。
飲み過ぎたってことは、楽しかったってことか。良かった。
……そんなに楽しかったんか。
誰と話したん?何話したん?
いや、別になんでもええねんけど。
でも、具合悪くなってないかな。
気持ち悪かったりしないかな。
「おかえり。大丈夫?気持ち悪くない?」
「全然平気ー!あのね、ジンくんのこといーっぱい自慢してきたよ!
Famousのジンくん、めっちゃかっこいいんだよって。ファンになったら幸せだよーって言ってきた!」
俺の話してきたの?
せっかくの同窓会なのに。
ミオのキラキラした笑顔も、はしゃいで俺のことを話す声も、俺も近くで見たいな。
聞いてみたいなぁ。
すごく嬉しいのに、苦しい。
「そうなの?嬉しいよ。照れるけどね。
ミオ、無事に帰ってきてくれて……ありがとう。良かった。」
本当は、迎えに行きたかったよ。
そんな言葉を思い浮かべて飲み込んだ。
「帰ってくるに決まってるじゃん。笑
ジンくん変なのー!」
ミオはいつもなんでも、当たり前みたいに言うんだ。
こうやって、ミオがいて俺がいる。
俺にとっては当たり前のことじゃないのに。
「ミオが無事に帰ってきてくれたことが嬉しいんだよ。変かな?笑」
“笑”で誤魔化す。
心配でしょうがなかったことも、どこにも行かないでほしいことも。
「うん、変だよ!笑
でもありがとう。優しいね。
あのね、ジンくんって優しいんだよとも、ちゃんと言ってきたよ。」
変だよって素直に言うんだ。
でもありがとうって言ってくれる。
俺は本当は、優しくなんかないと思う。
優しいのはミオの方だ。
「たくさん喋ってすっごく楽しかった!
ねぇねぇ、わたしね、実はお金の管理得意なの。すごいでしょ!幹事がね、テーブルにお金バーって広げて、あわわ…ってしてたから、お手伝いしてきたんだぁ。偉い?笑」
「偉いね。会計の管理は大変だったでしょ?ミオがお金の管理が得意なのは……ちょっと意外だけどね。笑
お疲れ様だったね。」
みんなに優しくて、みんなに親切で、そんなところが……好きや。
たまにしっかりしてる、そのギャップも。
「そういえば、今日撮影のあとに、花束もらったんだ。ミオに写真送る約束してたよね。これでいいかな?どこにも出してないから、ナイショだよ。」
青と黒のバラにかすみ草が入った花束を花瓶に入れて写真を撮った。
「わぁ!綺麗だね。ジンくんに似合ってる。写真ありがと。嬉しい!
わたしの心にだけしまっておきます。」
ミオは、また花言葉なんて知りもせず、綺麗だなぁって思ってるんだろうね。
ミオ分かってる?
黒いバラは俺のことなんだよ。
なぁミオ。
もう“みんなのミオ”はやめて
──俺のミオになってくれないかな。




